フィールド教育における「主体的な学びと信頼形成」の支援論・コーディネート論に向けて

著者
大正大学地域創生学部 地域創生学科 助教
天野浩史

フィールドで人は何をどのように学ぶのか?

 この春より所属が本学地域創生学部に移り、学部教育にも携わるようになりました。ご存知の方も多いかと思いますが、本学部では「地域実習」という科目を第3クォーターに設け、全国の連携自治体における長期滞在型のフィールドワークを従来行って参りました。卒業生からは、「地域実習があったことで大きく成長できた」、「地域実習を通じて卒業後の進路を決めた」という声も多く、地域理解、地域創生という枠組みを超えた「自己の成長、変化、進路意識への影響」という効果も期待されています。

 私自身の研究テーマの一つは、まさにこういった「地域フィールドにおける自己形成とその支援」にあります。フィールドにおいて人は何を、どのように学んでいるのか?その学びは個々の変容や人生観にどのような影響を与えているのか?その学びを支える地域資源や援助・システムはどのように作用するのか?社会教育や郷土学習という面では、地域で学ぶという行為の研究は決して新しいものではありませんが、近年の高校の探究学習におけるフィールドワークや地域志向大学のフィールドスタディ型の授業の増加、教職員や受け入れ団体のプログラムコーディネートにおける課題感を考えると、この問いを今改めて探究することの重要性を感じています。

 本稿では、私自身がプログラム開発・コーディネートに携わった事例をもとに、フィールドにおいてどのような学び・自己の変容が起こりうるのか。またそれは、どのようなプログラム・地域資源のデザインによってもたらされているのか。それを紐解くための事例を少しご紹介し、学びの支援論・コーディネート論への展望を述べたいと思います。

静岡県掛川市とうもんの里の事例から

 静岡県掛川市にある「田園空間博物館とうもんの里」。ここは、掛川市からの指定管理を受けて、地元農家・住民の方々が組織した「NPO法人とうもんの会」が運営しています。とうもんの里では、2016年より静岡大学地域創造学環のフィールドワークの受け入れを行っており、2017年より筆者はコーディネーターという立場で参画し、プログラム開発、現地における学びの支援に携わってきました。当時理事長であるA氏からは「学生に対して、受入団体としてどのようにコーディネートしていいか、悩んでいる。」という相談を受けたのが始まりで、2017年度より大学としてもフィールドワークの方法が変わるタイミングに合わせ、とうもんの里方式のフィールドワークの検討・コーディネートに着手しました。

 結論から申し上げると、このとうもんの里でのフィールドワークをきっかけの一つにして、海外でコミュニティスポーツの研究に取り組み、卒業後はスポーツクラブスタッフという進路を選択した卒業生や、緑のふるさと協力隊として地方移住し、その後静岡の自然体験NPOで働くという進路を選択した卒業生が現れています。また、現在では学生中心で活動が組織化され、地域住民・受入団体職員の力をかりながら、自走的なフィールドワークが成立しつつあります。フィールド環境のみが要因では決してありませんが、彼らの変容の様子を見てきた数年間を振り返ると、大きく2つのプログラム・環境要因が自己形成や学びに影響を与えたのではないかと考えられます。

主体性を引き出す、学習者中心のフィールドワーク

 一つは、「学習者である学生はこの地域でどんなアクションをしてみたいのか?何を探究したいのか?」というプログラム設計の視点です。フィールドワークコーディネートでは、「学習者に何を学んでもらうのか?そのために何を(誰を)準備するのか?」を考えることが一般的かと思います。この思考は教育活動の一環である場合、重要で否定すべき思考ではありません。しかし、時にこの思考は、教育者(フィールド提供者、フィールドワーク設計者)の「学ばせたいこと」の押し付けになることもあり、学習者の学びの選択肢を狭め、地域社会における偶発的な出会いや感動(時に困難)を限りなく少なくする危険性もあります。何よりも、学習者自身がフィールドワーク活動と自身の学びを結びつけることができなくなり、いわゆる「やらされ感」のあるフィールドワークに陥ることにもなり得ます。

 とうもんの里のフィールドワークでは、2017年にこの点を重視し、前年度の活動を自分たちで振り返り、嬉しかったことや気になったことを踏まえ、自分たちがどんなことを探究したいのか、どんなチャレンジをしたいのかを整理した上で、それを筆者がコーディネーターとしてA氏と相談・協力しながらプログラムを作っていきました。

2017年当時、学生から出された「やってみたいこと」をまとめた模造紙

2022.06.01