インターンは本当に「まちを変えた」のか?

著者
大正大学地域構想研究所 特命講師
齋藤知明

大学生KAERUプロジェクト本格稼働シリーズは、これまで2回()に渡って地元出身県外進学大学生を対象としたKAERUインターンの企画と準備についてお伝えしてきました。今回はとうとうインターン本番がどのような展開を見せたのかお伝えします。

足らざることを知る

KAERUインターンは8月17日から本格的に始まりました。期間は8月31日までの15日間。前号で挙げた5つの受け入れ先のうち、今回は前田製管株式会社の 「前田製管の新しい広告看板をデザインせよ!」というプロジェクトを取り上げて紹介します。

前田製管は1929年に山形県酒田市で創業され、コンクリート製品総合メーカーとして全国各地で展開している市内でも有数な企業です。今回のプロジェクトは、7年後の100周年に向けて庄内空港に掲示されている前田製管の看板をリニューアルするに際して、そのデザインとキャッチコピーを考えるというもの。なお現在の看板のキャッチコピーは〈庄内平野と生きるMAETA 米のうまいところに悪い人はあんまりいません。〉と元来、前田製管の広告は洒落の効いたユニークさを持つのが特徴です。

このプロジェクトに参画したのは、酒田市出身の2人の大学4年生(所属は大正大学と日本大学)。2人は卒業後の進路は地元就職ではないですが、いずれは帰ってきたいという希望を持っています。このプロジェクトに対しても、地元の企業に貢献できるということで非常に高い意欲で臨みました。しかし、最初からつまづきます。

「一体何をすればいいんだ?」。自分達は地元出身であるけれども、実は地元のことをよく知らない。地元企業である前田製管のことも知らない。デザインとキャッチコピーを考えるといってもそれらを専門に学んでいるわけではない。ゆえに、何から始めればいいかわからない。知識と経験どちらも足りない。このような状況から始まりました。

インターンは工場見学から始まった

学生だから山が動いた

そこで、コーディネータと話して、まずは企業がどのようなことをしているのかを実際に見聞きするのが先決となりました。企業側担当者に相談して職場視察や社史などの資料の読み込み、社長へのヒヤリングなどを重ねて、前田製管の歴史と特長、そしてどのような人たちが働いているのか、地域とどのように繋がってきたのかを次第に理解できるようになりました。

そのように動き出した後に一つの疑問が生まれます。「前田製管で働いている人たちは自分の会社や地元をどう思っているのだろう」。そこで、本社で働く全社員にアンケートをとることになりました。自分達が働いている会社のこと、自分達が暮らすまちのことを問うもので、普段であればなかなか聞けない社員の本音がきける機会に社長も非常に大きな期待をもってくれました。

回答結果は、予想以上に自社愛と郷土愛に溢れていました。2人の大学生は、田舎で働く人は肯定感があまり強くないとした仮説に反する結果に驚きながらも、あらためて地元に誇りを持ったように見えました。また、企業側もアンケートの回答をもとに、さらに深く地域に関わるきっかけにしたいと言っていただけました。

今回のインターンプロジェクトによって、これまでになかった化学反応が起きた瞬間だったと思います。そして、アンケートで判明した全社員の想いと少しのユニークさを交えて、完成したキャッチコピーは〈あなたの暮らし”だいたい”マエタが支えています。〉でした。コンクリートの地面で物理的に生活を支えているという点と、地元に誇りをもち地域の一員であると自負する社員が多いという点をかけてのコピーとなりました。企業側担当者とともにデザインをつくり、まずは100周年に向けての一案として提案し、インターン期間は終了。なお、今回つくった看板案は『荘内日報』庄内空港開港30周年記念特別号に掲載され、話題になりました。

インターン最終日は社長への成果報告会

「あなたならどうする?」

8月31日に、他のインターンプロジェクトも含めた合同の成果報告会をおこない、2021年のKAERUインターンは恙なく完走しました。その後、学生や企業とそれぞれ個別に振り返りをおこない、成果と課題を多く得ました。成果は、例示した通り、学生による自由な視点や思考、行動によって、これまでの企業活動ではみることができなかった化学反応を起こせた点です。幸い、やろうと思っていたけどなかなか着手できていなかった事業を、インターンをきっかけに進められたという企業が大半でした。緊急度は低いけれども重要度は高い事業がインターンプロジェクトと親和性が高いと言われていますが、今回のインターンでもそれを実感できました。

一方で、本当に受け入れ先の利益や新規事業開拓につながったのかというと、まだまだ程遠いと感じます。そのプロジェクトを実施するにあたり十分な期間だったのか、学生と企業のマッチングは適切だったのか、コーディネータの働きはどれだけ効果的だったのかなど、今後も入念な検証が必要でしょう。しかしながら、当初インターン事業の効果として想定していた、日常的な「世代間の対話と協働」の契機になったことは間違いありません。これまで出会うことがなかった両者が、新しい価値の創造に向かって共に行動する端緒をつくることができました。今後もその芽を絶やさぬよう継続して努める所存です。

9月24日に、一般社団法人酒田青年会議所主催で、KAERUインターンを総括する公開シンポジウム「SDGsな地域をつくるミーティング!〜県外進学庄内出身大学生の地元企業への関わりから〜」がオンラインを中心に開催されました。そこでは各インターンプロジェクトの報告をした後に、参加した多くの市民・学生全員でまちを変えるための「次の一手」を考えるワークショップを実施。一人ひとりが当事者感をもち、世代間の対話と協働を実現するために「自分だったらどうするか」という案を共有する機会となりました。

「まちを変える」方法の正解は一つではありません。たくさんのプレーヤーが集まって、多様な方法で試行錯誤することがまずは重要だと実感しました。それでは「まちを変える」というのは、具体的に何が「変わる」ことでしょうか? 今の私にはまだ明確な答えは見つかっていませんが、単なる抽象論に終わらせず、思考と行動を続ける=不断のアップデートをすることで答えを追求していきたいと思います。

 

2022.02.01