関係人口の新たな方向性:期待される地域おこし協力隊

著者
大正大学 地域構想研究所 主任研究員
中島 ゆき

秋に入り、令和4年度の各省庁の予算調整が進んでいます。総務省管轄である「地方への新たな人の流れの強化」の分野で近年注目されていた関係人口の創出・拡大は今年度予算より縮小されて1000万円程度。代わりに、地域おこし協力隊事業の予算が今年度の倍以上に当たる6億5000万円程度を計上する方向で進んでいます。関係人口の取り組みが、新たな局面に入ってきたと言えそうです。

本稿では、今年の3月に報告された国交省の大規模調査から、関係人口の課題と重要ポイントがどのように示されたかを整理してみました。そして、そこで議論された地域おこし協力隊関連に期待されている役割について着目し、令和4年度の関係人口の新たな方向性を考えてみました。

関係人口の大規模調査からみえてきたポイント

政策に初めて関係人口という言葉が取り上げられた当初(2019年ごろ)は、その概念のあいまいさや、関係人口を増やすことで地域にどういった価値をもたらすのかわかりにくい(※1)など、様々な課題が挙げられていました。それら議論を受けてここ数年は調査研究が急速に進んできています。
 

※1:関係人口のこれまでの議論に馴染みのない読者にとっては唐突な話題となりますので若干の補足をいたします。これは、当初、関係人口は必ずしも移住に繋げる必要はないといった概念であることから派生し、関係人口が増えることは移住以外で地域にどのような便益をもたらすのか、といった課題があげられてきた背景があり、それを指しています。

 

その中でも特に大規模なものは、昨年9月に実施された「地域との関わりについてのアンケート」であり、それと並行して議論されてきた「ライフスタイルの多様化と関係人口に関する懇談会」です。

かなり膨大な資料になりますが、ポイントをまとめると(表1)の4点になります。
 

(表1)国土交通省「ライフスタイルの多様化と関係人口に関する懇談会 とりまとめ」資料より、
筆者作成

 

それぞれの詳しい調査結果は、国交省のオリジナルの報告書を参考にしていただければと思います。ここでは簡単に全体概要を確認していきます。

1)関係人口の実態把握

その定義も存在もやや曖昧であると指摘されてきた関係人口ですが、今回の調査で具体的な実態が明らかになったことは、地域にとって大きな資料となったのではないでしょうか。各地域が具体的な取り組みを行うにあたり、マーケティング的なベースが見えてきた事になります。

アンケート調査からは、全国の18歳以上の約2割に相当する1827万人が特定地域を訪問している関係人口(訪問系)であると推計値が算出されました。また、これまで漠然としていた関係人口ですが、アンケート調査から特に強く表れた属性が8タイプに類型化(図1)されました。

(図1)国土交通省「ライフスタイルの多様化と関係人口に関する懇談会 とりまとめ」資料より転載

 

また、コロナ禍で注目度が高まるオンラインによる関係人口も分析が進んでいます。ふるさと納税、クラウドファンディング、地場産品購入、特定の地域の請負、情報発信、オンラインを通じた地域との交流等を行っている非訪問の関係人口も一定数存在が確認されました。

2)関係人口が地域へもたらすインパクト

冒頭でも記載しましたが、当初関係人口は「必ずしも移住につながらなくともよい」という概念で進んでおり、そこが強調されすぎたこともあってか「移住に繋がらないとしたら、地域にどのような利益をもたらすのかが不明確である」という論調も出てきた実情がありました。それに対して今回の調査では、関係人口と移住の関係性が明らかにされました。アンケート調査などからは、その地域を訪問している関係人口が多い地域(人口1万人当たりで比較)は、3大都市圏からの移住者が多いという相関関係が示されています。

また、さまざまな関係人口が地域に行き来することは、地域住民を触発し地域の内発的な発展に直接影響を与えているという結果も示されました。これらの結果は、成果の見えにくかった関係人口が地域へもたらす社会的インパクトを明確にしてくれたと言えそうです。

3)関係人口が地域に関わるプロセス

関係人口が地域にどのように関わっていくのかのプロセスについて、今回の調査では2種類の分類がなされました。
 
地域があらかじめ策定したビジョンに基づき関係人口を誘引した後、地域での連携協働が行われたケース(地域ビジョン先行型)。対して、関係人口が先に地域住民と協働して何かしらの活動が起きていて、その後で地域ビジョンが作られたケース(関係人口先行型)の2タイプです。タイプが分類されたことで、どのようなプロセスを経て事が起きるのかが明らかにされた点では大いに現場で参考になりそうではありますが、実際の具体性の点ではやや大掴みすぎて、地域の個別具体的な環境に当てはめるのには難儀しそうではあります。しかしながら、次の項目の「今後の方向性」の中で記す、関係案内人や中間支援組織、キーパーソンの必要性を示す根拠が見える調査となっています。

4)今後の方向性

以上の調査結果を踏まえて、「人々の地域への興味を増進させ、地域に人を誘引するとともに、地域を訪れている(訪れたことがある)人と地域との偶発的な出会いを生み出し、関係性を持続的なものとする」(国土交通省「ライフスタイルの多様化と関係人口に関する懇談会とりまとめ」資料より引用)といった方向性が示されました。特に重点を置くべきとしているのが以下の4点です。

①関係案内人、中間支援組織等の活動支援
②キーパーソンの育成
③地域内にも、もっと情報発信を
④行政がハブとなったネットワークの構築

都市部から地方への人の流れを促進するために関係人口が寄与していることが明らかになった今回の調査ですが、それでは今後は何が必要なのか。そこに欠かせないのが、上記のポイント4点をみると「つながり」をつくり、そしてそれを維持継続する機能であり人であるという結論です。

そして、そのキーとなる機能と人が地域おこし協力隊という制度であり、今回の予算概算要求の拡大の背景にあると考えられます。

地域おこし協力隊に期待される「つながり」の創出と自治体に求められる役割

今年の8月31日に更新された最新の「令和4年度総務省所管予算 概算要求の概要」では、「地方への新たな人の流れの強化」の項目で12.5 億円が計上されています(図2)。その中の約半分にあたる6億5000万円が地域おこし協力隊の強化等での概算要求額であり、今年度の3億5000万円の倍近くとなっています。

内容をみると、「未導入団体や応募が集まらない団体へのフォローアップ」「双方へのサポートの拡充」、「 自治体、地域の受入れ企業、都市部の人たち等をつなぐ合同説明会の開催やポータルサイトの運営」、「地域との関わりを深める機会を提供」などです。すなわち、地域と候補者との「つながり」を創出するハブとしての役割が期待されていると言えます。

それでは、自治体が今後注力すべきことは何なのでしょうか。ここ数年、関係人口に関する多彩な議論がなされてきていましたが、曖昧さを持つ関係人口であるが故に、自治体職員の職務範囲に関しても非常に曖昧であったと言えます。それ故に、かなり膨大な労力が必要とされてきました。その点では、これら調査結果と今後拡大される予算の方向性から、これからの自治体に求められる役割は、地域おこし協力隊を支援すること、地域おこし協力隊とコラボして「つながり」の場と機能を提供する支援をすることにフォーカスすることが求められてきていると言えるのではないでしょうか。

(図2)「令和4年度総務省所管予算 概算要求の概要」P.15より転載

2021.11.01