ハイブリッド型盆踊り開催の全事情(後編)

著者
大正大学地域構想研究所 特命講師
齋藤知明

意義と歴史をカジュアルにふりかえる

本番前日の16日。初めての試みを実施しました。その名も「鴨台盆踊り宵祭り」。翌日の第11回鴨台盆踊りの見所の紹介に加えて、鴨台盆踊りの歴史をふりかえるトーク番組をYouTube Liveで放送するものでした。本番の実施が二日間から一日だけになってしまったことを逆手に、それであれば新しいことをしてみようと始めた実践でした。

4年生のSA(スチューデントアシスタント)2人がMCとなって、軽快なトークを繰り広げます。MCの背後では翌日の会場準備が映し出され、臨場感もお届けしました。宵祭りは個人的に大きな収獲でした。理由は、鴨台盆踊りの意義や歴史を学生たちがあらためてふりかえり、それを明確にメッセージとして伝えられたからです。実地でのイベントでは、なかなか落ち着いてイベントの理念を他者に伝える機会はなかったので、今回だからこそ可能だったと思います。

また、学生たちがこのようなテレビ番組のような形を気軽に作ることは、以前は考えられませんでした。この企画に新たに必要となった予算はありません。YouTuberが多く活躍する時代、プロではなくとも個人や団体が容易にメッセージを発信できるという実感を得ました。

「静」と「動」

本番当日の17日。朝から強い日差しが照りつけます。これまで何度も8号館でのリハーサルを重ねてきた学生たちからは「外での開催でなくて、涼しい室内での開催でよかった」という軽口も聞かれました。

例年の鴨台盆踊りのように、16時半からの盆踊り本番に向けて事前に盛り上げていくための企画が実施されていきます。13時からは実行委員主催の「灯篭づくりワークショップ」。事前予約をした小学生にキットを送り、自宅からオンラインでつないでもらって一緒に灯篭づくりをしました。14時からはすがもプロジェクトの学生による「すがもの魅力超わかるオンラインツアー 」。巣鴨地蔵通り商店街から大正大学まで実際にライブで歩いて、巣鴨地域の魅力を視聴者に届けました。15時からは中編で紹介したケアマネ音頭普及会、スターダスト河内との「3地域合同盆踊り練習会」。昨年から引き続き、まさにオンラインの強みを活かしての空間を超えた企画でした。

そして16時からは天台学の学生らによる「施餓鬼法要」。鴨台盆踊りは東日本大震災の年に追悼行事として始まったこともあり、仏教系大学である大正大学ならではの活動として、継続して震災犠牲者の追悼祈念をおこなっています。また、今年は新型コロナウイルスの犠牲者の供養も併修しました。私的なことを書かせてもらうと、今回の法要はいつも以上に心を動かされました。実地での盆踊りでも毎年法要をおこなっていますが、たくさんの参加者で賑わっているなかでの実施で、なかなか集中して見ることはありませんでした。しかし今年は無観客で静寂ななかでの法要。唯一参列した巣鴨地域の盆踊りサークル「つぼみの会」の方々や実行委員の学生たちが緊張感をもって、しっかりと法要の意義を考え追悼していた様子が印象として残っています。

特別な荘厳しょうごんでの法要

コロナ禍の盆踊り

16時半から盆踊り本番が始まりました。「ここからあっという間だ」。本部にいて、私の隣で動画を配信している学生にそう伝えました。「静」の法要に対して「動」の盆踊り。例年、盆踊りになると時間の進みがとても早く感じられます。

コロナ禍での盆踊りの難しさは、踊る人数を制限しなければならないことです。会場で踊る人数を20人に限定し、代わる代わる踊ってもらいました。その入れ替えにはとても苦労しました。また、盆踊りにはたいてい観客がいます。YouTube Liveで視聴している方にも楽しんでもらえるように、カメラワークや画面のスイッチ、きちんと音が流れているかなどにも注意しました。目の前の会場とZoom越しのエリアポイント、そしてYouTube Liveと、3方向へ意識を向けるのはハイブリッド型盆踊りならではでしょう。

2時間を4クールに分け、間の3回の休憩では3地域合同練習会で練習した踊りや、巣鴨の太鼓サークル「鼓友」による演奏をしました。終盤になると、それまで見様見真似で踊っていた学生たちが上手に踊れるようになっていき、どんどんと積極的に踊りの輪に入っていきました。準備過程で数々の苦労を経験してきた実行委員たちも楽しそうに踊っている様子を見ていると、不意に目が潤みました。「今年の夏も終わるなぁ」と夏の盛りを控える7月にひとり感じることが毎年続きますが、今年は尚一層でした。それほど変化の幅が大きく、量も多かったのだと思います。

会場での踊り、左上のスクリーンでは大阪会場の様子

コロナ夏の思い出

本番終了後、つぼみの会や鼓友の方々に挨拶をした際にこう言われました。「今年もどんな形であれ開催してくれてありがとうございました。大正大学の盆踊りがなければ2年間何もない夏でした」。また、現地参加の大学2年生は取材に来ていたテレビのインタビューにこう答えていました。「コロナで何もなくなったけど、みんなで踊れたのが夏のよい思い出になりそうです」。

新型コロナウイルスによって、経済だけでなく地域での連携や交流という意味でも負の影響が大きく出ています。特に文化活動をする団体にとっては、祭りや大会が開かれないため、活動や披露の場が無くなっています。さらに、大学生活という点でも大学生に辛い思いをさせていると痛感します。大学2年生の場合、入学直後から不要な外出は制限され積極的に活動できない状況が続いています。

そのような苦境で、少しでも参加した方々に喜んでもらえることができ、社会貢献としての鴨台盆踊りを開催した意義があったと感じました。前編冒頭でも書きましたが、このコロナ禍では誰もが答えや正解をもっていません。そのなかで一つでも好転させようと、コロナ禍でも可能な(ニューノーマルな)実践を試みたのが昨年のオンライン盆踊りであり、今年のハイブリッド型盆踊りでした。果たして、この形がベストだったのかはこれからの検証が必要でしょう。

ただ一点、「どんな形であれ継続して歴史を絶やさなかった」ということだけは昨年と今年の実行委員の学生たちとともに誇っています。中止することは容易いが、中止してしまったら再開することは困難だという認識のもと、2年間運営してきました。

第11回鴨台盆踊りの副題となった「シン・エンに臨むが如し」の元となる「如臨深淵(深淵に臨むが如し)」は危険な立場にあることのたとえを意味しますが、まさしく今年の情況を象徴していました。困難な社会であっても、それに何とかして立ち向かう。コロナ禍だからこそできることを考えに考えて行動に移す。行事自体が成功かどうかも重要ですが、それよりも一つの形として実行できたことが最大の成果だと感じています。それが2021年春学期のサービスラーニングでした。

※第11回鴨台盆踊りの学術的な検証は現在進めており、完成次第あらためてご案内いたします。

<ハイライト動画>

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2021.09.15