著者
大正大学地域構想研究所 特命講師
齋藤知明
緩急剛柔の6月
4月25日から始まった3度目の緊急事態宣言は期限の延長を繰り返し6月20日までとなりました。この間、感染状況の報道に一喜一憂しながらも、昨年培ったオンライン盆踊りのノウハウを基調としたハイブリッド型の盆踊りの実現を目標に、6月7月と準備を進めていきました。
まずは、ハイブリッド型の強みを活かして、オンラインでつないで同じ音源で踊る「エリアポイント」の設置を目指しました。メイン会場の大学構内と全国各地がオンラインでつながるイメージです。これは、昨年のオンライン盆踊りでは一人で画面に向かって踊る参加者がほとんどだったのですが、やはり盛り上がりに欠けるとの声が多く聞かれたことから、改善案としてあがったアイディアでした。「集合的沸騰」の側面からも非常に興味深い実践だと思います。その企画を進めるために、大学周辺の区民広場や小学校に声をかけました。また、TwitterやFacebookでも呼びかけをしたところ、昨年も一緒にコラボをした大阪・枚方の「スターダスト河内」に加えて、今年は東京・中野の「ケアマネ音頭普及会」など複数の団体からの申し込みがありました。これらの団体とオンラインで顔合わせした後、打ち合わせやリハーサルなどを進めていきました。
一方、メイン会場となる大学構内に、巣鴨地蔵通り商店街が所有する総檜製の櫓を設置させるべく、商店街や設置業者との話し合いが続きました。また、大学側とも今年度の実施内容について何度も協議を重ねてきました。櫓に関しては、商店街のご厚意のおかげで設置の目処を立てることができました。実施内容に関しては、昨年よりも厳しい感染状況であることを踏まえて、2つの大きな変更が必要となりました。一つは実施日の縮小、もう一つは開始時刻の繰り上げです。例年二日間の開催、18時から20時までの盆踊り(行事自体は15時、あるいは16時からの開始)だったのですが、今年は一日のみの開催、16時半から18時半までの盆踊りとなりました。教育プログラムとして二日間実施することに大きな意義を持っていたため、この決定の承服には少しの時間がかかりましたが、とにもかくにも今年も実施できること、そして櫓を立てての開催が承認されたことに意義を感じ準備に邁進していきました。
ハイブリッド盆踊りのイメージ(6月時点)
光芒一閃の7月
7月に入り本番まで2週間ほどとなったあるとき、大学側より電話がありました。「感染者が拡大している現在、櫓を立てての外での盆踊りは断念せざるを得ない」。これまで、地域連携かつ現地での盆踊り復活の象徴としての櫓の設置に奔走していたこともあり、この連絡を聞いて頭が真っ白になりました。対話を重ねてきた商店街や設置業者の方々に早急に事情を説明しなければならなかったのですが、なかなか電話に手が伸びませんでした。何よりも、櫓設置のために準備を進めてきた学生に説明するのがもっとも辛い瞬間でした。
実行委員のトップである統括班リーダーに事情を説明し、急遽その日の夜に全員を集めてもらってオンライン会議をしました。私自身何を話したのか、このときの記憶はあまりないのが正直なところです。そのような状態を慮ってくれたのでしょう。本当はもっと辛いはずの学生たちから励ましの言葉をもらいました。また、代替の会場となる8号館内での実施に向けて、すぐに動き出してくれました。
しかし、さらに困難は重なります。7月12日に4度目の緊急事態宣言が発出されました。開催自体や準備すべきことは変わらないのですが、より一層の緊張感をもっての運営を迫られました。念入りな消毒や検温、現地参加者の一覧作成は当然ながら、人数制限や十分な距離をとった盆踊りの徹底など、これまで以上の対応をおこなうように努めました。
また、急遽会場となった8号館は昨夏に竣工したばかりの新しい建物で、学生たちも馴染みがありませんでした。そのため、開催までの2週間は毎日17時以降会場を借りて、リハーサルを展開。MCや踊り手の立ち位置、音響やカメラワークなど、滞在可能時間まで一つひとつの動作を細かく確認していきました。そのたびに、机や椅子などの備品の撤去や原状復帰も必要となり、例年にない負荷が生じたと言えます。それに伴い、学生たちは毎晩遅くまで作業や情報共有をしていました。現地とオンライン両方で実施することの難しさを本番直前になって強く感じるようになります。
ソーシャルディスタンスをとっての立ち位置も何度も確認
「もう一度」
一方で、辛いことばかりではありませんでした。準備段階から、大変多くの方々に強い激励と期待の声をかけてもらいました。毎年盆踊りの指導をお願いしている坂東扇太惠先生に、変更内容が生じるたびに電話でお伝えしていましたが、何一つご不満をおっしゃらず「必ずよい盆踊りにしましょう。体には十分気をつけて」と逆に声をかけていただきました。
また、エリアポイントとなったスターダスト河内・ケアマネ音頭普及会の方々とのリハーサルはとても首尾よく進めることができました。その他、豊島区の清和小学校や朝日小学校、北区滝野川地域で活動する「Jimo Kids」の子どもたちからは本番当日を楽しみにしているとの声もいただきました。商店街の方々にも、櫓が設置できなくなった経緯を伝えたときに、たくさんの労いの言葉をかけていただいたことも強く記憶に残っています。
そして、今回の盆踊りの音源が「株式会社第一興商」と「一般社団法人日本音楽健康協会」の厚意で準備できたことも強調したい点です。昨年のオンライン盆踊りで、踊りの音源に原曲そのものを使用した影響で、YouTube Live自体を止められました。今年は著作権をクリアにすべく、ケアマネ音頭普及会を通して第一興商の方にアドバイスをもらい、最終的には音源の提供もしていただきました。このように、学外の方々から例年以上にご協力をいただけたのが今年の特徴とも言えます。
さて、7月17日の本番を前に、10日に通しリハーサルをおこないました。本番と同様に浴衣を着ての実施。果たして準備してきたコンテンツをハイブリッドで恙無く実施することができるのか、そして問題なくオンライン越しでも踊ることができるのかなどを、本番を想定して展開しました。リハーサル段階としてはなかなか上手くいったと私は思っていたのですが、終了後に統括班リーダーから一言、「もう一度リハをしたい」と言われました。
このときようやく全員のゴールイメージが共有できたと実感します。つまり、自分達が思い描いていた完成形と程遠いと気づいたから、もっと良いものにしたいという感情が芽生えたのでしょう。ここにきて学生の主体性が大幅に向上したことに喜びを得ながら本番を迎えていきます。
第一興商東京支店に行き打ち合わせ
後編に続く