静岡県が仕掛ける「関係人口」とのまちづくり

著者
大正大学地域構想研究所 地域支局研究員
天野浩史

「関係人口」の概念が生まれ、この数年で全国の自治体において関係人口政策が展開されていることと思います。今回のレポートでは、静岡県において展開される関係人口政策と、静岡県とともに私が関わる団体が仕掛ける関係人口とのまちづくりプロジェクトについて、ご紹介します。関係人口については、本研究所では中島ゆき主任研究員が先駆的にこの概念とシティプロモーション、地方創生との関係やコロナ禍における関係人口の関わり方を研究され、すでにレポートでも発信されていますので、ぜひそちらも合わせてご覧ください。

【参考】
関係人口を考える①「関係人口」創出に向けた課題と視点について
シティプロモーションプロジェクト報告 地域ブランディングと関係人口(室蘭市における調査報告)

静岡県では、令和2年3月に『美しい“ふじのくに”まち・人・しごと創生「長期人口ビジョン」「総合戦略」』が策定され、2020年〜2024年の総合戦略として静岡県の政策の方向性が示されました。この総合戦略の中で、「総合戦略の基本方針>戦略体系>戦略3“ふじのくに”ならではの魅力ある暮らしを提供し、新しい人の流れをつくる」の項目に、“特定の地域に継続的に多様な形で関わり合う「関係人口」の創出・拡大に取り組み、地域の活性化や将来的な移住・定住の拡大につなげていく(p.46)”と明記されました。

また、そのための施策として“県に一元的なマッチング機能を導入し、関係機関と一体となって、地域の活性化や将来的な移住者の拡大等につなげていく(p88)”とし、関係人口が参画するプロジェクトの推進、ポータルサイトの開設、情報発信、人材育成の施策を計画しました。その後、2020年11月27日に静岡県の関係人口ウェブサイトSHIZUOKA YELL STATION(シズオカ エール ステーション)を開設し、静岡県内の地域づくり団体情報、プロジェクト情報を集約・掲載し、取り組みを応援したい、参加したい個人や企業・団体をマッチングしています。また、関係人口ライターも採用し、団体の情報発信、プロジェクトの情報発信にも力を入れているようです。

今年度は、「令和3年度ふじのくに関係人口創出・拡大事業モデル」として、地域づくり団体と中間支援組織が連携し、外部人材や支援企業が参画し、地域づくり活動活性化につなげるプロジェクトの公募を呼びかけ、シェアワークスペースを活用したモデル、企業研修プログラム、山村留学プログラム、芸術祭など5つのプロジェクトの実施が決定しました。私たちの団体も採択をいただき、「ふじのくにの新しい風景を。新風景のつくり手・支え手プロジェクト」が6月からスタートしました。地域づくりに取り組むNPOなどのチャレンジを、地域課題解決・地域活性化ではなく、「ふじのくにの、新しい風景をつくる営み」と捉え、風景のつくり手として自分自身のスキルや持ち味を活かして取り組んだり、支え手としてアイデアや情報発信、寄付で支えたりと、関係人口の関わり方の多様性を活かしたプロジェクトプラットフォーム構築を目指すプロジェクトです。

関係人口も十人十色ではありますが、地域でのプロジェクト参加という文脈においては、自分自身のこれからの生き方・働き方などの意味を模索し、挑戦と内省をする働き手である「意味探究ワーカー」が活動しているように思います(参考:「意味を共につくる」思考で地域をつくる)。しかし、そういったワーカーの中でも「時間をかけて、思いっきりプロジェクトに参画したい」という方もいれば、「今の働き方では短期間でしか難しいけれど、それでも地域に関わりたい」という方もいらっしゃいます。「プロジェクトに関わるのであれば長期的に」と願う地域づくり団体も多いかと思いますが、関係人口にとって複数の選択肢から関わり方を選べるような機会をつくることが重要と考え、本プロジェクトでは「ガッツリ」「短時間で」「ゆるく知ることから」という3つの関わり方を想定し、それぞれに対応した「長期プロジェクトチャレンジ」「1Dayプロジェクトチャレンジ」「オンライントークイベント」の3つのプログラムを実施する予定です。これらのプログラムが連動しながら、多様な関係人口が参画しながら、静岡の新しい風景をつくるチャレンジを促進することを目指しています。

私たち含め、先ほどご紹介した取り組みを行う4団体とともに、今年度は静岡県の関係人口政策による活発なチャレンジを通じて、静岡県の地域づくりに新しい風が吹く年になります。まだ事例や知見が少ない政策領域だからこそ、新しいチャレンジによって、みなさんの地域でも役立てられるようなナレッジを生み出す一年にしたいと思います。静岡県の取り組み、ぜひ引き続き、ご注目ください。

 

2021.07.01