厚田でのマルチワーク体験から学んだこと

著者
大正大学 公共政策学科 2年
野嵜 天斗

この夏、私は北海道での暮らしを実際に体験してみたいという思いから、石狩市が主催する1カ月間の「地域実践型インターンプロジェクト」に参加しました。都会での生活では味わえない、自然に囲まれた地域での仕事や暮らしを自分の目で確かめることで、地方での働き方や生活の現実を学びたいと考えたからです。インターンでは、石狩市厚田区で「日替わりマルチワーク」に取り組みました。漁業や農業、観光施設での接客、飲食店での業務など、日によって異なる仕事を体験するという仕組みです。毎日新しい仕事に挑戦する日々は体力的にも精神的にも大変でしたが、その分学びや発見が多く、時間があっという間に過ぎていくように感じました。

漁業の現場では、朝早くから網漁の見学や加工作業を体験させていただきました。網漁では、漁師の方々が力を合わせて網を引き上げる姿には迫力があり、普段口にしている魚が、人の働きと自然の恵みによって支えられていることを改めて実感しました。さらに水産加工では、魚の内臓処理などの作業を黙々とこなす中で、集中力や忍耐力が求められ、地道な仕事の大切さについて身をもって学ぶことができました。

加工作業の様子

農園での作業では、種まきや花の収穫を体験しました。ある農園の経営者の方からは「技術の進歩で必要な人手も変わるかもしれない。今、人材を確保することが本当に正しいのか悩んでいる」という率直なお話も伺いました。その言葉を通じて、地域の人手不足は単なる人数の問題ではなく、将来を見据えた持続可能な仕組みづくりと直結していることに気づきました。人を集めれば解決するわけではなく、働き方や生産のあり方を地域全体で考えていく必要があるのだと実感しました。

観光施設や飲食店での接客業務も印象的でした。来訪者に地域の特産品や魅力を紹介する中で、自分自身が地域の一員としてお客様を迎えるような感覚を味わえました。その一方で、天候や来訪者数によって売り上げが大きく左右される現実もありました。地域経済の脆さや、経営者が日々抱える不安を垣間見ることができ、観光が「地域を支える柱」であると同時に「不安定な産業」でもあるという二面性を知ることができました。

厚田海浜プール

他にも、農場や牧場、祭事のお手伝いなどのさまざまな仕事を体験させていただきました。こうした経験を重ねる中で、日々違う業種で働くことができる「マルチワーク」という働き方を非常に魅力的に感じました。そのため、これを現実的に実現したいと考えるようになりました。その際、「特定地域づくり事業協同組合制度」というマルチワークを運営する組合を支援する制度があることを初めて知りました。普段の学生生活では法律や制度に触れる機会がほとんどなく、条文を読み解くことは想像以上に難しいものでした。しかし調べを進めるうちに、制度や仕組みが地域の働き方を支える基盤であることを理解することができ、大きな学びとなりました。そして、それらを実際に機能させるには、組合設立などの地域住民の協力や主体的な関わりが不可欠であることも強く感じました。制度だけでは地域は動かず、人と人とのつながりこそが地域を支えるのだということを学びました。

ただ、マルチワークを持続的に展開していくには課題も少なくありません。複数の仕事を日替わりで体験できる仕組みは魅力的である一方で、労務管理や賃金体系の整備、宿泊先の確保など、金銭的コストもかかります。また、マルチワークを支える組合は、事務作業や調整業務、行政とのやりとりなど、多くの負担を抱えることになります。制度が整っていても、現場で実際に機能させるには資金や人材、時間の確保が不可欠です。このような課題を踏まえると、マルチワークの実現は現実的に容易ではないといえるでしょう。

マルチワークについて活動報告の様子

日替わりマルチワークを通じて、私は仕事の楽しさや達成感だけでなく、地域が抱える課題や現実にも向き合うことができました。そして、地域の方々の協力や温かさに触れるたびに、単なるアルバイトや作業以上の価値を感じ、働くことの意味を深く考えるようになりました。厚田区での経験を通して、私は「働くこととは収入を得る手段にとどまらず、人や地域とのつながりを生み、社会と関わる営みである」という視点を持つようになったのです。

さらに、この経験を教育的な視点から捉えたとき、マルチワークには「学びの場」としての可能性があると感じました。地域の課題や産業を実際に体験し、地元の人々と関わることは、教室の中だけでは得られない学びを提供します。そこでは、地域への愛着やコミュニティ意識が自然と育まれ、地方が抱える少子高齢化や人口流出の問題に対しても、新しい解決の糸口が見えてくるのではないでしょうか。特に若者が地域に関わることで、自分自身の成長だけでなく、地域の未来に貢献できる可能性を持っていることを強く感じました。

今回のインターンを通じて、私は「働くことの楽しさ」や「地域が抱える課題」を同時に体験することができました。厚田区で過ごした一か月は、自分の将来や働き方を考えるうえで貴重なヒントを与えてくれたように感じます。これからの進路を選ぶ際に、今回の経験で得た学びを大切にし、働くことの本質を忘れずにいたいと思います。そして、地域に根ざした活動を続けることが、地方の未来を考えるうえで欠かせない要素であることを、身をもって実感しました。

2025.10.01