つながりを大切に、地域の活力を産んでいきます

著者
南三陸支局長(宮城県南三陸町)
阿部忠義

はじめに

宮城県南三陸町は、町境が分水嶺と重なっているため、降った雨が町内の森里を潤し志津川湾に注ぎ込むという独特の地形を持っています。また、森・里・海・人の関係性が近く、資源も豊富、人口も1万2千人ほどとコンパクトなため、持続可能な循環型社会のモデルを創るのに非常に適した環境を兼ね揃えている町と言えます。
2011年3月11日南三陸町は、東日本大震災により甚大な被害を受け、計り知れないものを失いました。その悲しみと苦難の中で私たち町民は、町が元来より抱えていた根源的な課題を見直し、新たな町へと生まれ変わるきっかけとなったのです。

大正大学と南三陸町が出会って10年

大正大学と南三陸町の出会いは震災直後の現地ボランティアなどの支援活動がきっかけです。この出会いが南三陸の地に学びの場をつくろうというプロジェクトに発展し、2年後の2013年3月に宿泊研修施設「南三陸まなびの里いりやど」がオープンしました。

南三陸まなびの里いりやど外観

以来、東北再生私大ネット36をはじめ、全国の大学や企業などの様々な研修ツアーの拠点として利用されるようになりました。中でも地域創生学部42日間の地域実習は、南三陸ならではのカリキュラムにより充実したものとなり、地域においても大きな成果となりました。

研修を受ける学生

これまで、いりやどを運営する南三陸研修センターでは、「学び」をキーワードに、地域と交流のハブとしての役割を果たしながら、研修事業で培った町外の大学や企業とのつながり、地域振興事業で培った町内の活動者とのつながり、情報発信事業で培った表現力・発信力を活かし、南三陸における新たな学びやビジネスの創発に取り組んできました。

こうした取り組みが、南三陸町との交流・活性化につながり、年間8,500名余の利用客という実績も得られ、地域にとってもなくてはならない施設に成長しました。
そして、何よりも価値のあることは、多くの学生や企業研修を受け入れることによって、地域が刺激を受けブラシュアップされ、人や地域に輝きをもたらしたことです。
これまでの10年間をふりかえると、大正大学との出会いから産まれた活動からスタートし、いりやどの運営をはじめ、南三陸の名産であるタコをキャラクター化した「オクトパス君」事業、ボランティアとの交流の拠点となった恩送りファーム「南三陸農工房」事業、南三陸杉という地域資源を活用した木工品製作している「YES工房」事業など、様々な社会実験を重ねながら、仲間と共に地域を盛り上げようと取り組んでこられたことを有意義に思っています。

コロナ禍の影響と、気づかされたこと

好調だった各交流事業も新型コロナウイルス感染症拡大の影響で一変しました。緊急事態宣言が発令された昨年の4月~5月は前年同月対比5%以下にまで落ち込み、想定外の惨事となりました。その後、GoToキャンペーンなどにより少し盛り返したものの、第2波から5波の感染拡大の影響から、今もなお厳しい状況に強いられています。
コロナ禍を乗り切るために、クラウドファンデングの活用、そして、大学や企業の繋がりを生かし、昨年8月からはじめたオンラインによる研修ツアーは、受入団体60件以上、参加者1,500名を超える実績となりました。この取り組みは当初、コロナが収束するまでのお客様とのつながりを維持するための手段として始めたことが、当施設を運営していくための新たな切り札として期待されるプログラムとなりました。

オンラインツアー

おかしな話ですが、例年様々なリアル研修で使用している研修室が、オンラインツアーを配信するスタジオや、ツアー参加者への事前送付物の配送センターに様変わりし、担当スタッフは慌ただしい日々を過ごしています。これからも様々な森里海の研修ツールを造成しながら、「本格的なオンラインツアー」を展開していくために、地域一体となった態勢をつくる必要があると強く感じています。

また、コロナの影響により、他の宿泊施設や飲食店も同様に厳しい状況であることから、いりやど周辺の地域内の事業者8団体で連携を図り、 竹皮で包装した拘りの地産弁当をテスト販売したところ、予想以上の話題となり、売り上げも好調で評判も良かったので、地産地消を意識した地域内の取り組みを強化し、食を通して町内外の交流を促進し、中長期の宿泊客へつなげていくことも必要と感じています。

これからの10年をどうしていくか

震災やコロナ禍の経験から、私たちの力でどうにもならないことが生じたことには、その環境に柔軟に合わせて行動し、割り切って前に進むしかないと思うようにしています。また、私たちの生活は多くの人たちに支えてもらって成り立っていることを強く気づかされました。
こうしたことから、利用者や消費者などのお客さんと一緒になって、新たな商品づくりや新たなサービスを作り上げていくことが必要な社会になってきているような気がします。これからは、お客様が満足するような可能な対応していくことにエネルギーを燃やし、様々な地域の振興事業に取り組んでいきたいと考えています。

震災から10年経過し、町も復興が進み、これからの新たなステージをどう乗り切っていくかが地域の課題であります。その課題も一緒に考え、地域内で連携を図りながら事業活動通じて、まちづくりに貢献していきたいと改めて感じています。
これからの10年も、つながり第一に考えチャレンジしていきます!!

2021.09.01