著者
大正大学地域構想研究所 地域支局研究員
天野浩史
「あなたたちは、地域へ学びに行くのではない。」
そんな問いかけから、地域実習藤枝班のガイダンスは始まりました。「地方創生」が国の重要政策として位置付けられ、大学・高校のカリキュラムにも地域連携やフィールドワークが浸透してきたように思います。ただ、「偶然」地域づくりの世界と出会い、様々な人々との関わりの中で、それを生業とした私にとって、地域へ学びに行くこと、地域で学ぶことを目的に考えて欲しくないという想いがあり、冒頭の問いかけから実習を始めました。
「では、私たちはなぜ、この地域に行くのだろう?」というモヤモヤしたものを、一人一人が抱いていたように思います。
1年生は、「生活を豊かにするテクノロジーとは?」というテーマのもと、ヒアリング、インタビュー、アイデア創出を進める実習でした。様々な地域の生活場面に出会い、考え、住民の方々と時間をともにする日々。サッカー、農業・商業、歴史・・・知れば知るほど広がる藤枝の魅力・資産の中でも、彼らの記憶に大きく残ったのは、三年に一度開催される「藤枝大祭り」でした。
上伝馬地区の一員として、短期間で踊りを覚え、当日は大きな屋台を引き、手にマメができるくらい大変な大祭り。「なんでやらなきゃいけないんだ…」という考えがよぎり、諦めたくなる中で、「頑張れー!」と住民の方々の声援を受け、最後までやりきった学生が多かったです。
「一体感を感じた」「上伝馬の一員としての実感」という学生たちの感想にある通り、本来「よそ者」であるはずの学生たちは、「お前たちも、このまちの一員なんだ」という、言葉では伝わらない想いを住民の方々から共有いただけた、貴重な機会でした。報告会では、大祭り×テクノロジーアイデアも学生たちから発案され、踏み込んで参加したからこそ発見した学びを生かしてくれました。
一方、3年生は自分自身が挑戦するテーマを設定し、実習期間中自ら計画を立て、自ら行動する「個人プロジェクト」です。8名の学生、それぞれの色が出たプロジェクトでしたが、その中から2名の学生のプロジェクトをご紹介します。
「なぜ若者は急須でお茶を飲まないの?」という問いを日頃感じているY。実習では日本茶をテーマに、「TeaLab」という全5日間の日本茶体験プログラムを企画実施しただけでなく、プログラムや駅前での質問紙配布・収集やオンラインツールを活用した調査から、「急須でお茶を飲むことに対する調査 居住地の比較・若者の比較(サンプル数351!)」という調査分析を行い、若者が急須で日本茶を飲むようになるにはどうすればいいか、という問いに対する自分なりの仮説の検証・考察を示しました。
30代以上は、「両親にお茶を淹れてもらった体験の記憶がある」のに対し、20代以下は、両親よりも「祖父母から淹れてもらった体験の記憶がある」を多く回答している、これは、今の中高生から青年たちの親世代(30代〜60代)が急須でお茶を淹れなくなっているのではないか?加えて、「誰かに淹れてもらったら、飲みたいと思っている」という結果も示し、「人に淹れてあげる文化・淹れてもらう文化」をつくることの重要性を発表してくれました。
「これからも日本茶を通じて藤枝に関わっていきたいです!」と胸を張って宣言をした彼は、仲間に呼びかけながら、1月〜2月に藤枝に来ることを計画中のようです。
もう一人、商品開発を軸に活動したMは、「一時的な商品開発・販売は意味がない、売れ続けられる持続的なものを作りたい」という想いを形にしたプロジェクトになりました。現地指導講師の紹介で、藤枝市にある「さんかく山の里大塚園」にてインターンシップや農作物の商品化の議論・研究に加え、自ら藤枝市内の個店を回り、商品化の営業活動を行いました。そこで出会った「mirabelle(ミラベル)」と大塚園をつなぎ、「若者・女性をターゲットにしたお菓子の開発」をコーディネートしました。
実習期間中の完成が間に合うか、心配でもありましたが、見事、煎茶・ほうじ茶を生かしたお菓子「CHA.BU.RE:」を開発。報告会当日にお披露目され、来場された方にも好評で、お土産として買っていかれる方が多かったです。
その後、Mは実習後の12月にも藤枝で商品の打ち合わせをしたり、東京の座・ガモールでの販売をしたりなど、実習地・東京それぞれの場所で藤枝市と関わりを続けてくれています。
自分の力の不足や意味を考えながら、多くの方々との相互作用の中で、何かを掴んで行く、そんな42日間だったと思います。実習前のモヤモヤに光が差した学生もいれば、さらにモヤモヤした学生もいたようです。でも、それでいいと私は思います。社会が激変する時代をこれから生きていくからこそ、日々悩みながらも、自問自答すること、他者と協力することを通じて、自ら選択していく力が必要なように感じます。特に、地域づくり・地方創生は、日々を生きる生活者(当事者)とともに、地域をつくっていく営みです。一層、そういった力が求められていくのではないかと、現場で活動しながら感じています。
量・質ともの、多くの方々と42日を過ごした彼らが、これから地域を、未来をどうつくっていくのでしょうか。そして、彼らに背中を見せていく私たちも、地域を、未来をどうつくっていくのか。彼らの実習から、私たちが問われているように感じます。