地域コミュニティにおけるまちづくり計画策定の最前線

著者
大正大学地域創生学科 准教授
金子 洋二

地域のまちづくり計画を住民自らが考え、自分たちでできることを役割分担して実践していく動きが広がっています。紀要『地域構想』第5号https://chikouken.org/topics/news/14525/)(2023年6月発刊)では富山県において「未来会議」と呼ばれる地区単位(概ね小~中学校区でつくる地域運営組織)の住民ワークショップが、富山県の施策の後押しを受けて展開されていることを紹介しました。富山県では2023年度末時点で県内43の地区で計画策定が完了し、そのプロセスにおいて新たなまちづくりの担い手を獲得しつつ、地域の特色を生かした様々な事業が住民自らの手で推進されています。
同様の取り組みは2023年度に私の地元新潟市秋葉区でも行われました。新潟市では地区毎に99の「コミュニティ協議会」と呼ばれる組織が設置され、住民自らが運営に当たっています。この内秋葉区には11のコミュニティ協議会がありますが、このほど秋葉区役所および区自治協議会の呼びかけにより、その全てでまちづくりビジョンの策定が行われました。
この取り組みは、秋葉区の「特色ある区づくり予算」という枠組みを活用し、住民代表から構成される秋葉区自治協議会が主導して行われました。ワークショップの企画や進行を担当するコーディネーターの費用をこの予算から拠出し、開催する11のコミュニティ協議会には強制ではなく手上げ方式で実施を呼びかけたところ、全ての地区から開催の意思が示され、一年間の内に各地区3回の住民ワークショップを行ってそれぞれのまちづくりビジョンがまとめられました。
この様にスムーズに事が運んだ背景にはいくつかの要因があると考えられます。次に順を追って経緯をご紹介します。

1.区民幸福度調査により地域資源と課題を明確化

秋葉区自治協議会では、ビジョンづくりワークショップに先立つ2021年8月~10月にかけて「秋葉区民幸福度調査」を実施しました。無作為抽出による15才以上の秋葉区民2,000人を対象に、幸福感や住みよさ、地域への愛着、人間関係、環境への満足感、仕事や子育てなど計52項目に渡る調査を行い、1,035件の回答を得ました。結果からは様々な環境がよく整備され暮らしやすい秋葉区の姿が浮かび上がると共に、どういう点が足りないと感じているのか、あるいはどういう点に弱みがあるのかという課題が秋葉区全体と地区毎の分析を通して明らかになりました。また、これらの結果はマスコミや市の配布物を通じて周知されると共に、新潟市長へも提言書として提出されるなど、まちづくりの機運の醸成にも一役を買っています。(下図参照)

2.自治協議会が主導をすることで各コミュニティ協議会が動きやすく

秋葉区自治協議会には区内11の全てのコミュニティ協議会の代表が所属しています(他にも経済・文化・福祉関係団体の代表や学識者・公募委員など合わせて30名が所属)。上述の幸福度調査を行うことにより、次のステップとして「資源の活用」と「課題の解決」を進める手段としての地区毎のビジョン策定へと議論がつながっていきました。また、ビジョン策定の有効性を住民に理解してもらうため、自治協議会が主催して実際にワークショップを体験してもらう研修会を地域のキーマンたちを招いて実施しました。

3.主役はあくまでも住民、区役所は「縁の下の力持ち」に徹する

秋葉区役所はワークショップのコーディネーターを委嘱する費用を拠出すると共に、ワークショップの中でテーブル毎のファシリテーターを区役所の職員がチームを編成して務めるなど、縁の下の力持ちとしてこの事業を支えました。職員には事前にファシリテーションの研修を受講してもらうことにより、参加者(=住民)が主体的に取り組めるような環境づくりができました。

4.「策定して終わり」にならないフォローアップ体制

ワークショップの企画および運営は、地元のまちづくり会社が受託し、まちづくりの現場に精通する外部のコーディネーター3名が分担して携わりました。各コミュニティ協議会との綿密な打ち合わせに始まり、ワークショップの合間や終了後も相談に乗るなど、せっかく作ったビジョンが策定して終わりにならないようなフォローアップ体制が整えられています。また、区役所では今年度、策定したビジョンを実現するための費用を助成する制度(上限20万円/地区)を設け、各地区ではそれらも活用した「実践」の局面を迎えています。

以上ご紹介してきたように、富山県や新潟市では地域コミュニティにおけるまちづくり計画の策定が官民の協働により戦略的に進められています。住民が主体となった地域経営が求められる時代、今後もこうした動きに注目していきたいと思います。

ビジョンづくりワークショップの様子

2024.07.16