東京一極集中の是正が、少子化対策となるのか?

筆者(大正大学地域創生学部教授 小峰隆夫)は、安全保障を中心とする調査研究や国際交流等を目的とする公益財団法人『中曽根康弘世界平和研究所』の研究顧問を務めている。この研究所で「2025年問題研究会」を立ち上げ、2015年9月から何人かのスタッフとともに研究を続けてきた。

このたび、その報告書がまとまったこともあり、その研究課題を基に、筆者の考え方なども加味しながら紹介したいと思う。

全国の人口変動を見ると、東京などの大都市圏 への集中が続いている。こうした中で少子化に対抗していくためには二つの方法がある。

東京一極集中の是正が、少子化対策となるのか

一つは、東京一極集中を是正し、もっと地方部で子どもを産み、育てるような環境をつくっていくという方法であり、もう一つは、人口が集中している大都市圏でこそ、少子化対策を強化するという方法である。

政府はどうやら、前者を本筋と考えているようだ。政府の「まち・ひと・しごと創生本部」が決定した「地方創生推進の基本方針」(2014年9月)によれば、「 50 年後に1億人程度の人口を維持するため、『人口減少・地方創生』という構造的な課題に正面から取り組む」としており、そのための基本方針の一つとして「東京一極集中の是正」を掲げているからだ。

では、なぜ東京一極集中を是正することが少子化対策となるのか。

その唯一の理由は、東京の出生率が低いということであるようだ。つまり、東京の出生率は全国で最も低い。そこに人が集まってくるから、全国の出生率も低くなる。「東京一極集中を是正すれば、より出生率の高いところに人口が移るわけだから、日本全体の出生率は高まるはずだ」という議論だと思われる。

こうした考え方を受けて、地方自治体は地方版の人口ビジョンと地域創生戦略をつくり、地方での子育て支援に力を入れているのが現状だ。

しかし、筆者はこうした政策方向に批判的であり、東京など大都市圏でこそ少子化対策に力を入れるべきだと考えている。その理由の一つは、前述の東京の出生率が低いという点について、疑問があることだ。

確かに、表面的には東京の出生率は低いのだが、東京で結婚相手を見つけて、居住地域は東京周辺県(埼玉県、千葉県、神奈川県など)というケースが多いことを考えると、東京だけを取り出して出生率を論じると、ミスリーディングになってしまう。

もう一つの理由が、保育を担う人的資源の地域 格差問題なのである。保育を担う人的資源が地域によって、どの程度偏在しているかを見よう。

下の表は、人口当たりの保育士、小児科医、産婦人科医を都道府県別にランキングしてみたものである。

保育士については乳幼児(0~6歳)人口当たり、小児科医については年少人口(0~ 14 歳)当たり、産婦人科医については出産可能な女性人口(15 ~ 49 歳)当たりで計算している。

大都市周辺県の保育人材不足が、地域別格差を生み出す要因に

この表を見ると、まず地域別の格差が大きいことに気が付く。具体的に見ると、保育士についてはトップの島根県と最下位の兵庫県では約3.1倍もの開きがある。小児科医については、トップの鳥取県と最下位の茨城県では約2.2倍の開きがある。そして産婦人科医については、トップの鳥取県と最下位の埼玉県では約2.1 倍の開きがある。

また、東京周辺の埼玉県、千葉県、茨城県は3指標全てがワースト 10 にランクインしており、神奈川県も22指標がワースト 10 に入っている。

すなわち、大都市周辺県では人的資源の不足がわかる。

なお、データの制約上、ここでは都道府県ベースの計算を紹介しているが、地域を細分化するほど地域間の格差は大きくなる。例えば、保育士については人口の多い政令市は、保育士不足が深刻であることがわかる。

具体的には、堺市(156人)、静岡市(228人)、神戸市(255人)となっており、いずれも都道府県ベースで最下位のレベル306人を大きく下回っている。

また、東京そのものは3指標のいずれについて もワースト 10 には入っていない。しかし、前述のように出生率について、周辺県と合わせて議論することが適当だとしたように、保育のための人的資源の偏在状況についても、東京単独ではなく、埼玉県、千葉県、神奈川県、茨城県といった周辺県と合わせて評価することが必要である。

当初述べたように、東京と周辺自治体の間では、 東京が結婚のマッチングの場として機能し、周辺県が結婚後の居住地として機能するという分業関係が成立している。しかし、結婚 ⇒ 出産 ⇒ 保育という流れを考えると、大都市周辺県の保育人材不足がボトルネックになっているようだ。

このボトルネックを解消し、大都市圏全体が一 体となって円滑な子育てが推進できるような環境
が整備されない限り、少子化問題への解決の糸口は見い出されないだろう。

著者:大正大学 地域創生学部教授 小峰隆夫

2018.07.30