「個人主義」「個の尊重」と現代家族の変容

著者
大正大学地域構想研究所 客員教授
岩村 暢子

私は、20年以上にわたり「食卓」を定点観測の場として、変容する日本人・日本の家族を調査してきた。
調査方法は、①アンケート②1週間分の食卓写真や日記などの記録、そして③アンケートと写真・日記の結果を踏まえた「詳細面接(深層面接に近い)」という三段構えの超定性調査である。

1960年以降に生まれた主婦を直接の対象者としているが、それはこの世代から日本人の「産まれ方・育児法」「育った家庭や親の在り方」「受けた教育」「食べたもの」「受験や就職・結婚の仕方」なども大きく変わり、自らが形成する「家族」の在り方も異なることが分かっているからである(「日本人には二種類いる」新潮新書参照)。
この調査対象者である1960年以降生まれの主婦たちの「実の親」を全国に訪ねて調査したこともある(「『親の顔がみてみたい!』調査」新潮文庫)が、そこにも日本の戦後史を考える上で見逃せない特徴があった。この親世代、つまり今90歳前後の「おばあちゃん」たちから下の人々は、戦後の新教育を義務教育で受け、新しい家庭の在り方を志向し、新しい子育てをして、家族の姿を変えてきた人々でもある。

さて、このたび(9月)1960年以降生まれの親たちが形成する同一家庭の10年後、20年後を追跡した調査結果をまとめた(「ぼっちな食卓」中央公論新社刊)。
調査対象は、1998年から2009年に初回調査を実施した240家庭をベースとし、10年後の追跡は有効89家庭、20年後に追跡できたのは8家庭であった。
よく人は「こんな育児をしていると、やがて子供はこうなる」「こんな食生活をしていると人はやがてこうなる」「こんな親子関係だと老後はこうなる」などと言うが、果たしてそれらは本当であろうか。そうであるなら、何故だろうか。この調査は、その実証の試みでもあった。

そして、10年、20年と超定性調査による追跡調査を終え、長時間をかけて解析した結果は、「よく言われていること」とは大きく異なっていた。
最も重要な発見は、「個の尊重」「個人主義」「個性尊重」の下に、私たちが日常良かれと思って行っている様々なことが、しばしば想定と逆の結果を家族や家庭にもたらし、現代社会を激変させつつある、ということである。
例えば、虐待(ネグレクト)される子ども、居場所を失う青少年、破綻する夫婦、そして孤立する高齢者など、現代社会で深刻化する家族・家庭の問題の根底には、家族間の奇妙な「個の尊重」が認められた。また、その結果が10年後、20年後に従来想定しなかった結果を生み出していることも分かったのである。

詳細は書籍に譲るが、それら諸問題の対応策として今は各家庭への「経済的支援」の必要性が盛んに語られているが、果たしてそれだけで解決できるであろうか。戦後日本の「個」の在り方とその変容がもたらす結果について、私たちは改めて見つめていかなければならないと思う。

2023.11.01