福島県須賀川市に「ムシテックワールド」(ふくしま森の科学体験センター)という施設がある。令和四年二月から四月にかけて、開館二十周年記念ということで、「養老館長特別展 虫で遊ぶ〜養老館長の虫目線〜」という展示を行った。
この施設は博物館ではなく、もともと子どもたちの総合学習の場として、自然科学を学ぶという趣旨で設けられた施設で、中心になる材料が昆虫とされたために、名称がこうなっている。福島県と須賀川市が運営している施設で、「うつくしま未来博」のパビリオンを一つ残して利用し、私は開設以来、ずっと非常勤の館長を務めてきた。それを記念して、二十周年に当たる令和三年度に「館長特別展」を行うことになったわけである。
博物館ではないとわざわざ記したのは、まさにそうだからで、「特別展」とはいえ、そこで展示をするというのは、いささか考えてしまうところがあった。もともと私自身は、展示は好きではない。動きのない展示は特に子どもには向かない気がする。ただしテーマが昆虫だから標本を展示することにあまり抵抗はない。
でもそれでは不満足だったので、本人を展示することにした。二か月間の会期の間、毎日現場に居続けるわけにもいかないので、二月と三月の末だけにした。
展示会場の一部には私の研究室(?)を写真で再現してもらい、私が不在の時はそれを見てもらうようにした。本人がいるときは、普段やっている作業をそこでそのままやるようにした。
早い話が展示の準備を怠けたわけである。もちろん標本の展示については、栃木県立博物館の学芸員の栗原隆さんにお願いして、プロの目を入れていただいた。
こうした施設と長年お付き合いしてきて、感じることがある。なにより地元の住民が大切だ、ということである。観客はもちろんだが、職員も地元出身が大切である。
ムシテックの場合には、学校の先生たちが交代で来られるので、その条件を十分に満たしている。むしろ問題は館長の私で、地元でないために、自分を展示するにしても、時間が不十分にしか取れない。もっとも私が地元民なら、あえて展示の必要も感じなかったであろう。
いまでは各都道府県に地元の博物館ができて、それぞれ地域の特色を示す展示をしていることが多い。自然系と文科系が分かれているところと、両者が一緒になっているところがある。
もちろん自治体に十分な余裕があれば、分けることができるであろうが、その余裕がないことも多い。おそらく博物館には完成形はなく、常に変化していくしかない。所蔵品が付け加わるからである。
昆虫を含む生物系が典型で、どうしても標本を増やしたくなる。収蔵庫がいるわけだが、他分野の人から見れば、それが本当に必要ですか、という疑問になることが多い。要するに収蔵庫の存在と標本の維持が博物館のもっとも重要な機能である。その点に理解が得られないと、学芸員が不当に苦労することになる。
「博物館がなぜ必要か」という「哲学的」議論をする気はない。ただ各地方の価値を必ずしもその地域に住む人が知っているとは限らないことは、地域の昆虫を長年調べているとよくわかるのである。
「特別展」でも再現された、箱根の別荘にある“バカの壁”。撮影 島崎信一
(『地域人』第81号掲載)