住民のアイディアを生かした段ボールジオラマづくり

著者
大正大学地域構想研究所 研究員
佐藤 和彦

筆者は、東京都豊島区との共同研究の一環として高田地区での福祉・防災コミュニティづくりに取り組んできた。今回のレポートでは、住民と共に企画し実施した、段ボールジオラマ作成を軸とした令和7年度の取り組みについて紹介する。

ファシリテーターの誕生

段ボールジオラマ作成を語るには、筆者たちと共に活動してくれる住民の皆さんを見出してきた過程を欠かすことはできない。まず、ファシリテーター誕生のいきさつを紹介する。
筆者は、令和5年度に高田地区で3つのイベントを実施した。最終回のイベントでは班別討議の時間を持ちたいと考えており、過去のイベント参加者に対してファシリテーターの募集をかけたところ、思いがけず4人もの人が手を挙げてくれた。
4人の活躍のおかげで、ワークショップの班別討議は大変スムーズに進行できた。ファシリテーター達は、6年度以降のイベントにも協力してくれている。

企画協力者の誕生

6年度には、高田地区で4回のイベントを開催した。防災講座のほかに、自主防災組織が個別避難計画作成に取り組む神奈川県藤沢市の辻堂地区への視察・交流会なども実施した。
それぞれの取り組みは、参加者の満足度も高く、充実したものであった。しかしながら、町会・自治会などによる自発的な個別避難計画作成等の動きにはつながらなかった。
その原因の一つは、大学の研究者が一方通行で企画していることにあると筆者は感じていた。そこで、7年度からは住民の皆さんと一緒に福祉・防災の企画を考えたいと呼びかけ、企画協力者を募集した。幸いにも住民3人が手を挙げてくれ、豊島区区民社会福祉協議会のCSW(コミュニティ・ソーシャル・ワーカー)、ファシリテーターとともに企画を検討する体制が構築できた。

段ボールジオラマが実現するまで

高田地区の企画会議は、「楽しく、ちょっとまじめな福祉・防災」というコンセプトを掲げ、令和7年5月に第1回目を開催した。
各自から提案を求めたところ、段ボールジオラマを作って小学生の防災授業を行う区内の実践例が紹介された。段ボールジオラマとは、段ボールに貼り付けた地図を等高線に沿って切り出して重ね合わせた立体地図のことであり、地域の高低差がよくわかる模型である。豊島区内で最大級の高低差がある高田地区にはうってつけのアイディアであった。
また、CSWからは秋に防災まち歩きを開催したいという申し出があった。
こうして、防災まち歩きと、段ボールジオラマの作成ワークショップを組み合わせるという、7年度の企画の土台が定まった。
次に、お声がけしたのは地域区民ひろばである。段ボールジオラマの作成や防災講座などを行う活動拠点として、区役所の担当課のご理解をいただいたうえで、高田地区のコミュニティ施設「地域区民ひろば高南」の運営協議会に段ボールジオラマづくりへの参加・協力を要請した。
なお、地図データの作成には苦労したが、豊島区の力強い支援のおかげで、工作しやすい地図を入手することができた。
ワークショップの実施前には、企画協力者に呼び掛けて複数回の試作を行った。その結果、作業性などを考慮して、素材を段ボールではなく3ミリ厚のスチレンボードに変更した。
また、等高線2~3mごとに切り出す地図は、最大12層分になることも分かった。そのため、加工しやすい薄目の素材を採用した。そのほか、作業の効率化のためには切れ味のいいデザインナイフを使うべきこともつくづく実感させられた。
いよいよ10月24日、段ボールジオラマを作るワークショップを開催した。
参加者は、一般参加のほかに区民ひろば高南の運営協議会、防災まち歩き実行委員会なども含めて10名程度。2つのテーブルに分かれて、神田川の右岸側と左岸側の切り出し作業を開始した。今回の目標は、CSW主催の防災まち歩きをする高田3丁目のジオラマの完成。中には、マイナイフを持参した参加者もいて、みな童心に帰ったように楽し気に作業をしていた。驚いたのは、作業効率の良さである。試作の際には、1段切り抜くのに小1時間を要しており、2時間半という短時間では作業は終わらないだろうと想定していた。あにはからんや、なんと1時間半ほどで切り抜きから組立まで終了してしまった。参加者の思い切りの良さと技術の高さは全く想定外であったことを記憶している。

夢中で作業する参加者

慎重に重ねる様子

完成したジオラマ

さらに11月8日には、完成した段ボールジオラマを使って、防災まち歩きに向けた防災講座を実施した。高田地区での災害リスクについて筆者が説明したうえで、高田3丁目の防災まち歩きのコースをジオラマでなぞりながら、高田の福祉施設、防災施設などを確認していった。
参加者は、「学習院側はこんなに高くなっているのか」「神田川周辺の低さがよくわかる」などと地形を目のあたりにして興味を深めている様子だった。中には「せっかくジオラマができたから、水に沈めて浸水の様子を確かめてみたい」という声も上がり、筆者が予想もしなかったジオラマの活用策が提案された。

ジオラマを使った防災講座

今後に向けて

この原稿を書いているのは11月21日。CSW主催の防災まち歩きは明日である。段ボールジオラマ作成に参加した人たちは、まち歩きを心待ちにしていることだろう。もちろん筆者もその一人だ。
そして、段ボールジオラマづくりはまだ続く。年明けには、高田1丁目、2丁目のジオラマも作成する予定である。1丁目から3丁目まで揃ったら、企画協力者の皆さんと一緒に、再び楽しくてちょっとまじめな企画を立てていこうと思う。
これからも住民の皆さんと共に、高田地区の福祉・防災コミュニティづくりを進めていきたい。

2025.12.01