63年前に都市計画決定された道路について、市長が建設を認める「総合的判断」を市議会に示し、その後自ら撤回―。2025年2月から東京・小金井市を揺るがしている騒ぎは、重要な問題を私たちに投げかけている。
小金井市の位置(国土数値情報を使用し、ごん屋が作成)
小金井3・4・11号線の建設、その容認をめぐる騒動
小金井市で道路問題が浮上したのは、9年前の2016年のこと。1962年に都市計画決定された二つの路線が都策定の「第四次事業化計画」で優先整備路線に選定されたことが発端だった。
特に「3・4・11号線」(幅18m、延長830m)は自然環境を壊すのではないか、と懸念の声があがった。この地域には、「はけ」と呼ばれる斜面地(正式には「国分寺崖線」)が東西に走り、崖下のあちこちから水が湧く。「3・4・11号線」は、はけの下を縫う「はけの道」と野川、都立武蔵野公園を南北に縦断することから、反対運動が広がった。
都市計画道路小金井3・4・11号線の位置図。・・・部分の建設の是非が問われている
(画像:東京都の資料に基づき、地理院タイルを使用してごん屋が作成)
白井亨市長は2022年までの市議時代にこの道路建設の見直しを都に求める立場にたち、同年10月の市長選で「都市計画道路は中止・見直しを!」の公約を掲げた。2024年の施政方針演説でも、「東京都に対し事業化の中止を求める要望書を提出するなど適切に対処していきたい」と述べている。
ところが、今年2月に市議会に示した「市長報告」の中で、必要性は否めないとする「総合的判断」を示し、建設容認に転じたことを明らかにした。「都に中止・見直しを求める公約に反すると認識している」とも語った。大荒れとなった本会議では、判断に至るまでに「特に誰にも相談していない」ことも明らかにした。
市長は、「総合的判断」について述べた「市長報告」の中で、自然環境の専門家に都建設局による環境調査の分析を依頼したとしたうえで、この専門家の見解を引用した。
ところが、当該の専門家からクレームがついた。見解の重要な部分、「東京都に対して決然と(建設計画の見直しの必要性を)主張すべきである」が省かれ、中途半端な形での引用となったこと。分析と見解の提示について市から正式な依頼を受けることを望んだがかなわず、私的に市長に見解を伝える形になったこと。専門家はこうした点を説明して市長報告の記述の誤りを文書にまとめ、市議会議員と市の関係職員に配布した。
3月4日、市長は「総合的判断を含む市長報告」を撤回。建設容認に転じた理由について市議会で言及した部分も撤回し、議事録から削除された。
撤回騒動が示す二つの問題
自治体の首長など政治家が公約を覆すケースは「時々ある」。大正大学地域構想研究所の片山善博所長はそう話す。「選挙前に自分が認識していた事情と、役所の中に入ってみて知りえた情報との間にギャップがあり自分の認識を改めざるを得ませんでしたというケースが多い」という。
では、それをどう考えたらいいのか。
「ブレたらいけないでしょというのが一つの考え方。私はブレてもいいと思うけど、納得してもらえる説明が必要です。今の政治家の皆さんは、それを怠っている」と片山所長は強調した。
実際、2月17日の小金井市議会本会議では、「まず責任を果たすべきは、自分の政策を支持してくれた方たちへの説明ではないのですか。掲げてきた政策と違うことをやるんですから、順番を考えて下さいよ、市長」(坂井えつ子議員)と批判する発言が続いた。
また片山所長は、図書館運営をめぐってもめた東京都清瀬市などの事例を上げ、「行政側が市民に対し、あえて重要なポイントを省いた説明をすることがある」とも語った。
行政当局が、ウソをつく訳ではないが肝心な点の説明を控え、巧妙に住民を誘導する。
昨年以降の小金井市の道路問題の経緯は、まさにそれに当てはまると思う。
建設を容認する「総合的判断」は、都市計画道路2路線をめぐる市独自の「検証」を実施した後に下された。検証は、最大の争点である自然環境・生態系への影響を前面に出さない「争点隠し」のもとに行われた、と指摘するのは、「僕の街に『道路怪獣』が来た」(2019年、緑風出版)の著者、山本俊明氏だ。
私が不可解に思ったのは、市長が「総合的判断」を下すプロセスで、自然環境・生態系と道路建設との関係をどう考えるのか、という最も重要な点を拙速で雑な方法で扱ったことだ。
なぜ、急いだのか。私の質問に、市都市計画課長は「第四次事業化計画は10年間での事業化をうたっており、その最終年が2025年。測量などの手続きを経て国土交通省による認可にこぎつけなければいけない」と答えた。
いまどき、行政も事業者も「環境への配慮」を口にする。
しかし、自然環境・生態系への影響は、簡単に考えてはいけない。
市長はそこをわかっていないから、自然環境・生態系への影響という争点をぼかしたうえで進められた「検証」を行うレールに乗り、最後は都の建設計画上のスケジュールに盲従する「役所の発想」に飲み込まれてしまったのだろう。
小金井市長の撤回騒ぎが残した二つの宿題―市民への説明責任と、自然環境・生態系への影響の軽減への真摯な取り組み―は、全国に共通する大問題である。
参考資料
20250429東洋経済オンライン かろうじて復活した自然生態系に道路建設が迫る
https://toyokeizai.net/articles/-/873875