自治体防災の課題~災害時トイレ&個別避難計画~

著者
大正大学地域構想研究所 研究員
佐藤 和彦

2024年度の自治体防災・減災ワークショップは、能登半島地震でもクローズアップされた「災害時のトイレ問題」、国が求める作成期限が迫りつつある避難行動要支援者の「個別避難計画作成」の2テーマで実施した。以下、その実施概要についてレポートする。

⒈2024年度第1回ワークショップ「あなたは大丈夫?災害時のトイレ」

開催日時:令和6(2024)年10月10日(木)13:00~15:00
開催方法:完全オンライン(zoom)
参加者:61アカウント(10自治体含む、参加者数は80人前後と推計)
内 容
主催者挨拶 片山 善博/地域構想研究所所長
講義 「あなたは大丈夫?災害時のトイレ~能登半島地震事例を中心に~」
岡山 朋子/大正大学地域創生学部教授
質疑応答 進行:佐藤和彦

今回の講義は、企画者である筆者自身がとても楽しみにしていた。講師は、本学が誇る災害廃棄物問題のエキスパート、地域創生学部教授の岡山朋子氏である。岡山講師は、過去の被災地や令和6年能登半島地震の被災地に足を運んで、トイレ問題についてつぶさに調査してきた。
講義の中では、まず熊本地震では発生から6時間以内にトイレにいきたくなった人は73%に上る調査結果が示された。トイレは食料や水よりも優先度が高い待ったなしの課題だが、停電・断水が発生すると水洗トイレは使えない。一方、調査によれば仮設トイレが届くまでには最短3日を要しており、災害時におけるトイレの需要と供給のギャップが課題であることが提起された。
講師はさらに、リアリティ溢れる語り口と豊富なデータを示しながら、淡路大震災で露わになった「トイレパニック」がいまだに解決されていないことをわかりやすく語った。
そして、能登半島地震での避難所でのトイレの状況やトイレパニックの実態が報告され、対応策として「携帯・簡易トイレ」の活用が提言された。
余談であるが、筆者はこの提言をもとに大正大学総合防災訓練で携帯・簡易トイレの実技訓練を提案し、2025年2月に実施された。
参加者アンケートによれば、非常に満足が56%、やや満足が37%、合計93%が満足と回答しており、大変高い評価を得た。

※グラフ右下の数字は“満足”と回答した参加者の%

災害時のトイレ問題については、再度の開催を希望する声も寄せられているので、来年度の自治体防災・減災ワークショップでも取り上げることを予定している。

⒉2024年度第2回ワークショップ「進んでいますか?個別避難計画」

第2回目の概要は下記のとおりである。

開催日時:令和7(2025)年3月12日(水)15:00~17:00
開催方法:完全オンライン(zoom)
参加者:67アカウント(9自治体含む、参加者数は80人程度と推計)
内 容
主催者挨拶 片山 善博/地域構想研究所所長
事例紹介
①「豊島区の取り組み」小林 拓/豊島区福祉総務課長
②「神奈川県藤沢市辻堂地区における避難行動要支援者の個別避難計画の取組みについて」加藤 照之/大正大学地域構想研究所 客員教授
意見交換等 事前アンケートの報告・進行:佐藤和彦

第2回目では、昨年度から取り上げている個別避難計画について、行政主導で進める豊島区と住民主導で進めている藤沢市(辻堂地区)、好対照をなす2つの取り組みについて最新動向を報告してもらった。
豊島区からは、簡易版の個別避難計画「わが家のひなん計画」を避難行動要支援者全員に郵送して本人作成を呼びかけて700人強の計画が区に提出されたことや、作成支援の希望者向けに福祉事業者への委託の検討が進んでいることなどが報告された。
藤沢市(辻堂)からは、辻堂地区での町会による地域作成の動きが広がっていること及び避難支援者の確保に苦心していること、藤沢市も福祉事業者への委託に着手していることなどが報告された。
意見交換では、自主防災組織が個別避難計画の制度化以前から取り組んで成果を上げている事例が紹介されたほか、支援活動に伴う支援者向けの賠償保険の必要性、マンションでの取り組みの必要性などに関する意見が出された。また、長野県内の自治体からは、庁内での福祉防災チームの設置、福祉専門職への研修、地域ケア会議での地域との連携・協力などを通じて個別避難計画作成が円滑に進んでいる状況が報告された。次回は、ぜひこの自治体の取り組みを紹介したいと考えている。加えて鳥取県の参加者から、市町村間で温度感に差が生じているが、都道府県にはどのような支援策が求められるか、との問いかけがなされ、区市町村から予算面での支援、コーディネイトする人材の支援などの回答が出された。
参加者アンケートでは、ワークショップ全体と事例報告について、「非常に満足」「やや満足」の合計で8割程度が満足と回答しており概ね高い評価を得た。意見交換については「やや不満」という回答が7%あった。不満の要因は把握していないが、自由記述の個別事例について知りたかった、マンションへの対策や福祉の視点からもっと深く議論したかったなどの意見を参考に、次回以降への改善につなげていきたい。

※グラフ右下の数字は“満足”と回答した参加者の%

個別避難計画についても来年度のワークショップで取り上げて議論を深めていくことを予定している。
今年度は以上2回の開催にとどまったが、来年度は自治体防災を巡るホットなテーマを取り上げて3~4回程度開催することを予定している。引き続き、自治体防災・減災ワークショップにご期待いただきたい。

2025.04.01