学生たちと取り組むツシマヤマネコの保護活動

著者
大正大学地域創生学部 公共政策学科 教授
本田 裕子

日本には野生のネコいわゆる「ヤマネコ」が2種類生息している。長崎県対馬市にのみ生息するツシマヤマネコと沖縄県西表島にのみ生息するイリオモテヤマネコである(それ以外のネコは「イエネコ」である)。
私は2008年からツシマヤマネコと住民とのかかわりを研究テーマとし、住民意識を把握することを通じて調査してきた。加えて2017年からは、大正大学の学生有志とともに保護活動にも取り組んできた。今回は、活動紹介を通じて、野生生物保護の最前線の現場で学ぶことの意義を取り上げたい。

ツシマヤマネコは環境省レッドリストIA類に指定される絶滅危惧種であり、2020年3月公表「ツシマヤマネコ生息状況等調査(第五次調査)」では、100頭弱の生息数が推定されている。絶滅が危惧される原因として、生息環境の減少やそれに伴う餌となるネズミ類等の減少、シカ捕獲のためのワナにかかる錯誤捕獲、ノイヌによる咬傷、イエネコからの感染症等が挙げられるが、横断のために自動車にはねられてしまう「ロードキル」も深刻な原因である。
例えば、読売新聞オンライン(2023.2.26更新)によると、1992年度以降2023年2月23日までで128頭の交通事故死が確認されている。環境省のデータから、年度平均でおよそ4、5件発生し、最も多い年度で15件発生している。交通事故に遭うのは比較的年齢の若い個体が多く、生息数を減少させないためにも、ロードキル防止のための意識啓発が非常に重要である。そして発信対象には日本人だけでなく、韓国人も含める必要がある。韓国の釜山から対馬の比田勝港まで高速船で約1時間半とアクセスもよいため韓国人の訪問が多く、韓国人観光客を想定した食堂・民宿や免税店、レンタカー店も立地するからである。

私は、研究だけではなく実践でツシマヤマネコの保護に少しでも貢献し、かつ学生たちに野生生物保護の最前線で学んでもらいたいと、ツシマヤマネコのロードキル防止を目指した活動を企画することにした。具体的には2017年度から学生有志とともに対馬を訪問し、活動を行ってきた。新型コロナウイルスの影響により、2020年と2021年は対馬での活動はできなかったが、2017年~2019年、2022年~2024年の計6回の活動を現地で行ってきた。
2024年の活動を紹介すると、参加したのは大正大学公共政策学科の野生生物保護や自然環境保全を学ぶゼミナールに所属する3年生5名である。
対馬での活動は2024年9月2日~5日となるが、事前学習として、対馬やツシマヤマネコの理解を深める学習・ポケットティッシュのデザイン作成を6月中旬から週に1回の頻度で、学内で集まり取り組んできた。現地での活動は、交通事故発生地点での交通安全キャンペーンの参加、ポケットティッシュのレンタカー店や交通安全協会・観光協会等での配布(2500個配布)、環境省対馬野生生物保護センター・順化ステーション・対馬市役所でのレクチャーや見学、生息環境保全のための防鹿柵の設置となる(写真1)。今回は防鹿柵の設置であったがヤマネコ型看板の作成やカルバートの清掃作業をする年もある。事後学習としては、10月19日・20日に井の頭自然文化園で開催された「ヤマネコ祭」において9月の活動報告のポスター発表を行った(写真2)。

写真1 現地での活動:ポケットティッシュの配布

写真2 「ヤマネコ祭」での出展

活動の最大の特徴としてはポケットティッシュを作成し、配布することである。ポケットティッシュの配布は2021年から行っており、ドライバーへの啓発を目的に毎年学生たちがデザインをし、韓国語を併記している(写真3)。
対馬までの交通費は自己負担であり、参加人数も宿泊施設や移動車の定員の都合で5~6名と限られているが、毎年希望者が多い。野生生物保護の最前線で学べることが魅力となっており、学生たちには、ツシマヤマネコの「ロードキル防止」を入口として、対馬の自然環境の豊かさや併せて現状・課題を学ぶ機会となっている。ポケットティッシュのデザイン、「ヤマネコ祭」での発表といった、「他者に説明しよう」と工夫すること、現地での作業で「実際に何かに貢献できる」という意識が持てることが、彼ら自身の成長につながっている。これまで36人の学生が活動に参加し、そのうち4人が卒業研究では対馬やツシマヤマネコに関するテーマで取り組んできた。また進路では4人が公務員(国税専門官1名、自治体職員2名、警察官1名)であり、公共政策の最前線でも活躍している。
最後になるが、環境省から活動が評価されたこともあり、公共政策学科にはツシマヤマネコの剥製がある(写真4)。オープンキャンパス等のイベントでは特別展示があるので是非ご覧いただきたい。

写真3 ポケットティッシュの例(2023年度のデザインとなる)

写真4 学科で保管されているツシマヤマネコの剥製
(交通事故で死亡した亜成獣のメスである)

2025.02.03