自治体防災の最前線~流域治水、個別避難計画~

著者
大正大学 地域構想研究所 研究員
佐藤 和彦

1月1日に発生した令和6年能登半島地震では大変大きな被害が発生しました。被災した皆様に心からお見舞い申しあげますとともに、一日も早い復旧・復興をご祈念申し上げます。
さて、地域構想研究所の防災・減災プロジェクトでは関東大震災から100年を迎える今年、全国の自治体職員の皆さんと共に、防災・減災について考える全4回の連続ワークショップを実施しています。
今回は、8月の第2回及び11月の第3回ワークショップについてレポートします。

第2回ワークショップ

第2回目のワークショップは、8月24日(木)に「持続的な地域構築のための『地域共創流域治水』」というテーマで実施しました。この回の最大の特徴は、令和2年7月豪雨で大きな被害を受けた熊本県の球磨川流域から現地レポート&ディスカッションを行ったことです。
球磨川流域では、地域構想研究所客員教授でもある熊本県立大学特別教授の島谷幸宏先生が、従来の治水対策を大転換させる10年間のビッグプロジェクト「地域共創流域治水」を展開しています。今回のワークショップでは、人吉市内の拠点からその一端を紹介させていただきました。
ワークショップの冒頭では、片山地域構想研究所所長から挨拶をいただき、次に島谷先生からプロジェクト全体の説明、特に地域共創流域治水について解説していただきました。地域共創流域治水とは、単なる治水事業からの転換を図り、地域の歴史・文化や自然環境を深く理解し、山や森林、湧水、そして雨庭など流域全体を視野に入れて持続可能な地域づくりを進めて行く大きな取り組みです。
そして、個人的にぜひともやりたかったのが現地レポートです。本学の古田尚也先生がリーダーを務める研究開発課題3(IoTの活用など)で推進している簡易な河川カメラ「くまカメ」について、設置現場からリアルタイムで紹介しました。レポーターは第一工科大学准教授の寺村淳先生。そして地域構想研究所客員教授の加藤照之先生、河野博子先生に撮影協力をお願いしました。人吉市内の配信拠点では、九州産業大学准教授の佐藤辰郎先生が、「くまカメ」の説明などを行いつつ、リアルタイムで絶妙なコンビネーションでレポーターとつないでくださいました。
安価で簡易に設置できる「くまカメ」は、地域住民の皆さんが、自分たちが情報を入手したい小河川や避難経路の“ここが見たい”というポイントに設置し、手元のスマホでほぼリアルタイムで現場の映像を確認することができます。こうした取り組みが広がることで、住民自身による適切な避難の実施につながることが期待されています。今回の現地レポートで、そうした「くまカメ」の魅力が十分にアピールできたのではないかと自負しています。
その後、島谷先生、佐藤先生、地域構想研究所の千田さんのファシリテートによってブレイクアウトルームでのチーム討議を経て、質疑応答を行いました。チーム討議を盛り込んだことで意見交換が盛り上がり、第2回ワークショップは盛会のうちに終えることができました。
アンケート結果では、概ね好意的な評価をいただきました。
今後も、機会があれば地域共創流域治水について発信していこうと考えています。

第3回ワークショップ

第3回目のワークショップは、「順調ですか?個別避難計画作成」と題して、令和3年の災害対策基本法改正によって自治体の努力義務とされた、避難行動要支援者の個別避難計画作成について取り上げました。
11月30日(木)に開催したワークショップでは、二つの自治体に事例報告をしていただきました。一つ目は、個別避難計画作成に本格的に着手し始めた東京都豊島区です。本学は、共同研究者としてこの取り組みに協力しています。二つ目は、本研究所の客員教授である加藤照之先生が一住民として参画して個別避難計画作成に取り組んでいる神奈川県藤沢市(辻堂地区)です。
この2つの自治体は、ある意味で好対照な取り組み方をしています。豊島区は行政主導、藤沢市(辻堂地区)では住民主導で取り組みが進んできました。また、想定すべき災害にも違いがあり、藤沢市で警戒している津波災害は豊島区では想定されていません。こうした違いが、それぞれの取り組みを特徴あるものにしていくだろうと考えています。
一方で、両者には共通点もあり、首都圏に位置する都市部であることや、取り組みを本格化したばかりであるという事情は、どちらも同じです。
今回は、大正大学連携自治体の個別避難計画担当者宛にチラシを郵送しました。その結果、連携自治体のうち11団体に参加していただくことができました。
アンケートでは、概ね好意的な評価をいただくことができました。

なお、今回のテーマは、一度のワークショップでは語りつくすことができないテーマだろうと考えていましたが、予想どおりでした。右端のQ5にお示しした通り、大多数の参加者から意見交換を継続することに賛同を得られました。
続編の第一弾は、12月25日に開催し、約40名の方にご参加いただきました。当日は、参加自治体の取り組みや地域住民の立場での取り組み事例などが報告され、大変有意義な情報交換、意見交換が行われました。続編は、今後も折を見て開催していきたいと考えていますので、ご期待ください。

今後、能登半島地震における被災者生活再建支援業務(罹災証明書発行等)に係る現地調査をメルマガやワークショップなどで報告を行っていく予定です。そちらもご期待ください。

2024.02.01