都市で進めるグリーンインフラとNbS

著者
大正大学地域構想研究所 教授 / 大正大学地域創生学部 教授
古田 尚也

市民権を得てきた「グリーンインフラ」

近頃「グリーンインフラ」という言葉を目にする機会が増えてきた。この言葉が初めて政府の政策に登場したのは、2015年に閣議決定された第二次国土形成計画と第四次社会資本整備重点計画。その後2019年に国土交通省から公表された「グリーンインフラ推進戦略」で、「社会資本整備や土地利用等のハード・ソフト両面において、自然環境が有する多様な機能を活用し、持続可能で魅力ある国土・都市・地域づくりを進める取組」と定義された。

さらに2023年に入ると、2019年の戦略を改定した「グリーンインフラ推進戦略2023」と地方公共団体を主にターゲットとした実践的なガイドである「グリーンインフラ実践ガイド」(https://www.mlit.go.jp/sogoseisaku/environment/content/001713035.pdf)が同省から公表された。この実践ガイドには、公園、道路、河川、港湾、海岸、住宅地・商業地、再開発地区などの別に豊富な実践例が紹介されており、国内の様々なロケーションでグリーンインフラの実践が着実に進んでいることが示されている。

この間、国際的に気候変動問題に加え生物多様性問題への関心が大きく高まった。そして、これらの課題を同時に解決するアプローチとして「自然に根差した解決策」(NbS: Nature-based Solutions)が大きく注目されるようになった。これは、自然の持つ多面的な機能を賢く生かすことで、気候変動や食糧、水、防災・減災、健康などの社会課題の解決を目指すものである。「グリーンインフラ」は、このNbSを構成する重要なアプローチの一つとしても位置づけられた。

都市でこそ大切なグリーンインフラ

世界人口は2022年に80億人を超え、今後も増加することが予想されている。さらに都市部への人口集中も同時に進んでいる。国連「世界都市人口予測・2018年改訂版」によれば2018年現在55%の世界人口が都市部に暮らし、この割合は2050年には68%に達すると予測されている。人口集中が進む都市部では、自然の役割や都市と自然との共生といった課題がますます重要になるだろう。

こうした傾向を裏付けるように、2022年12月に開催された生物多様性COP15で採択された「昆明・モントリオール生物多様性枠組み」では、2030年にむけた23の目標の一つとして都市に関する目標(目標12:緑地親水空間)が新たに盛り込まれた。同目標では、都市部における緑地空間及び親水空間の面積と質、連結性、アクセスおよび恩恵を大幅に増加させることで生物多様性と人間の健康と福利などの向上を実現し、持続可能な都市化と生態系機能及びサービスの提供の向上が目指されている。

実際、すでに世界の大都市では、様々なグリーンインフラに関する取り組みが進んでいる。米国のニューヨーク市では、下水道を流れる未処理の越流水が降雨時に河川に流れ込むことでハドソン川やニューヨーク湾の水質汚染が長年の課題となってきた。この問題に対し、同市ではレインガーデン(雨庭)や屋上緑化などの整備によって雨水が下水道に一気に流れ込まないようにするなどのグリーンインフラ計画の実装を2010年から進めている。

シンガポールでは、自然の力が都市化によって引き起こされる各種の悪影響を軽減し、都市住民の生活の質の向上、都市の競争力向上のために1960年代から植樹・緑化活動を行ってきた。この結果、急速な経済発展や人口増加にもかかわらず、緑被率は増加を続けている。こうした緑地は同国にとって希少な水の確保に貢献するほか、都市の競争力強化、市民の健康増進にも役立っている。

Tokyo-NbSアクションとグリーン・インフラ・ネットワークジャパン2024

大正大学のキャンパスが位置する東京都が2023年4月の公表した「東京都生物多様性地域戦略」でも、3つの基本戦略の一つに「Tokyo-NbSアクションの推進」が位置づけられた。同戦略では2030年までを「NbS定着期間」と位置づけ、NbSを行政・事業者・民間団体など各主体がともに推進することが明記されている。そして、この「Tokyo-NbSアクション」のキックオフイベントが来る1月30日にオンライン開催され、筆者も基調講演やパネルディスカッションのモデレーターを務める(https://www.kankyo.metro.tokyo.lg.jp/nature/NbS/index.html)。

さらに2月17-21日には、日本各地でグリーンインフラの実践に携わる企業や市民、行政や研究者がお互いに事例や課題を共有し、議論を行う全国大会「グリーン・インフラ・ネットワークジャパン2024」も開催される。(https://www.gi-network-japan.org/)こうした機会を通じて、わが国でグリーンインフラやNbSに関する議論や実践が一層深化、加速することを期待したい。

参考リンク
大正大学地域構想研究所NbS研究センター
https://nbs-japan.com/

2024.01.15