アドベンチャーツーリズムへの期待と課題解決の方向性

著者
大正大学地域構想研究所 准教授
岩浅 有記(いわさ ゆうき)

「アドベンチャーツーリズム」が今、熱い。

来年はアジアでは初めてアドベンチャーツーリズムの世界サミットが北海道で開催される予定だ。アドベンチャーツーリズムとは「アクティビティ、自然、文化体験の3要素のうち、2つ以上で構成される旅行」であるとされる。日本に政策として導入されたのは2016年と歴史は浅いが、欧米を中心に30年以上の歴史を持つ。日本においてはエコツーリズムや昨今のサステナブルツーリズムの方が馴染み深いかもしれないが、これらはほぼ同義であり、一言で表現すると、「自然と共生し、地域を幸せにする新しい観光」である。

昨年7月に奄美・沖縄が国内では五件目となる世界自然遺産に登録されてから早一年が経過した。詳細は本学情報誌・地域人第73号をご覧いただけたら幸いであるが、私がアドベンチャーツーリズムに出会ったのは前職の沖縄勤務時であった。コロナ前の2019年の沖縄県への入域観光客数は1,016万人(沖縄県調査)と七年連続で過去最高を更新し、暦年で初の1,000万人台を記録した。また、同年の那覇港のクルーズ船寄港回数は260回(国土交通省調査)であり、六年連続の増加で初の日本一の回数となっていた。那覇は慢性的な大渋滞、国際通りをはじめ観光地は常にどこも超満員の状態であり、地域のインフラ面からも明らかにキャパシティオーバーであった。このまま世界遺産に登録された場合、オーバーツーリズムによる地域や自然環境への悪影響を強く危惧していた。観光客が多すぎると自然が壊れ、観光客を減らそうとすると人口減少で疲弊する地域の経済効果が減るジレンマをどうやって解消するか。そのような時に幸運にもアドベンチャーツーリズムの考え方に出会うことができ、これはいけると直感した。

アドベンチャーツーリズムは地域第一の目線で観光を手段として捉えている。そして、観光客、観光事業者、地域、環境の「四方良し」を目指す、まさに新しい観光である。観光客が無尽蔵に増えると上述のようなことになるため、数を追うのではなく、一人当たりの単価を上げ、質を追求することで人数を抑制するものの地域経済効果や環境保全も担保する。アドベンチャーツーリズムをはじめ新しい観光が進めば地域や環境が元気になる好循環が生み出せるのではないかと考えている。

アドベンチャーツーリズムの社会実装に各地で携わっているが、最近特に感じている大事なポイントを2点挙げておきたい。一つ目は上述の通り観光を目的ではなく手段として捉えることである。自然環境の保全に長年関わっている私としては、自然を守り、再生するための手段としてアドベンチャーツーリズムはじめとした新しい観光を捉えている。二つ目は値付けの問題である。まず安売りをしないことを強く指摘しておきたい。安売り・過当競争の事例が見られるがこれでは持続可能ではなく、現役世代は食べていけない。日本の観光地における利用料金やガイド料は海外と比べると安いように感じる。加えて歴史的な円安状況にある。海外事例や国内の高付加価値ツアーの事例なども参考にしながら適正価格として値段をもっと上げても良いのではないか。一方で値段を上げると地域住民や次世代の若者たちが参加できなくなる可能性があるという声も頻繁に聞く。これに対しては海外ではごく当たり前に導入されているように価格を地域住民や若者には安く、その他の観光客には高く設定することで解決できる。

アドベンチャーツーリズムに関しては、ちょうど7月15日発行の地域人第83号で特集したばかりなので詳細はそちらをご覧いただき、アドベンチャーツーリズムをはじめとした新しい観光に一人でも多くの方々にご関心をお持ちいただければ幸いである。

参考
地域人第73号(特集 世界自然遺産の保全と地域の活性化)
地域人第83号(特集 地域と共生し、地域を幸せにする観光 アドベンチャーツーリズム)
観光文化第254号(特集 サステナブルツーリズム・リコンストラクション)

2022.09.15