奄美・沖縄世界自然遺産登録

著者
大正大学地域構想研究所 准教授
岩浅 有記(いわさ ゆうき)

7月26日に奄美・沖縄の世界自然遺産登録がユネスコ世界遺産委員会で正式に決定された。我が国では、屋久島、白神山地、知床、小笠原諸島に次ぐ5つめの世界自然遺産となり、国内で最後の登録となるのではないかとも言われている。

今回は奄美大島、徳之島、沖縄島北部(やんばる)及び西表島の4島セットでの遺産登録であり、世界的にも希少な亜熱帯の森に数多くの固有種が生息する生物多様性が評価された。主な希少種としてはアマミノクロウサギ、ヤンバルクイナ、イリオモテヤマネコが挙げられるが、希少な両生・は虫類、昆虫類、植物なども含めて本土とは全く異なる動物相、植物相を呈している。

これまで奄美・沖縄の島嶼生態系は東洋のガラパゴスと表現されることもあったが、これは科学的には誤った表現である。なぜなら同じく世界自然遺産のガラパゴス諸島は大陸と一度も繋がったことのない海洋島であるのに対し、今回の登録地域はユーラシア大陸と繋がったり離れたりを繰り返しながら島々を形成してきた大陸島であるからだ。今回の世界自然遺産登録を機に、他の看板に頼ることなく世界の奄美・沖縄として堂々と国内外に発信していくべきだ。

今回の登録は長年の地元の方々の自然保護の取組の結果であり、敬意を表するとともに、私も今年の3月までは環境省担当官として地域の方々と一緒に世界自然遺産の登録と世界ブランドを活用した地域創生に取り組んできただけに、今回の登録は率直に嬉しい。

一方で課題もある。今回の登録に先立ち科学的審査を担当した国際自然保護連合(IUCN)が5月に公表した評価結果において、以下の4項目が指摘されている。

①特に西表島について、観光客の収容能力と影響に関する評価が実施され、観光管理計画に統合されるまでは、観光客の上限を設けるか、減少させるための措置を要請する。
②希少種(特にアマミノクロウサギ、イリオモテヤマネコ、ヤンバルクイナ)の交通事故死を減少させるための交通管理の取組の効果を検証し、必要な場合には強化するよう要請する。
③可能な場合には、自然再生のアプローチを採用するための包括的な河川再生戦略を策定するよう要請する。
④緩衝地帯における森林伐採について適切に管理するとともに、あらゆる伐採を厳に緩衝地帯の中にとどめるよう要請する。

加えて、外来種であるマングースや外来ヘビ、ノネコなどの外来種対策や、貴重な動植物の密猟・密輸対策などの対応も引き続き重要だ。いずれも行政だけで解決できるものではなく、官民一体となって地域ぐるみで更なる取組やルールづくりが必要となる。

上記の世界遺産の保護上の課題加えて、世界遺産を活用した地域創生も重要な視点だ。この点に関しては、沖縄地域と奄美地域において地元企業からなる世界自然遺産推進共同企業体が既に設立されている。自然環境を保護しつつ、活用することで持続可能な地域経済や地域社会の活性化にあたっては、マーケティングやコミュニティの視点も重要であり、民官連携の枠組みである本企業体の役割は登録後益々重要となる。今後の更なる取組の推進を期待したい。

地域創生の視点では、農林水産業や観光業といった地域の自然資本に根ざした既存産業の磨き上げも重要だ。既存の思考や個別の生業の範囲を超えて、世界遺産の世界ブランドと分野連携による高付加価値を掛け合わせることで持続可能な地域創生を共創していくことが肝要だ。具体的にはアドベンチャーツーリズムの概念が参考となる。

アドベンチャーツーリズム(AT)は、「自然」、「文化」、「アクティビティ」の3つの要素のうち2つ以上で構成される旅行形態である。これまでの一部の安売り・過当競争によるマスツーリズム、さらにはエコツーリズムまがいのツアーにより、自然環境が破壊され、地域社会が混乱するいわゆる観光公害が社会的な問題となっているが、AT の重要な要素として、持続可能、高付加価値、地域第一(環境面、経済面、社会面)が挙げられる。このため、ATはこれまでの環境と観光(保護と利用)のジレンマや二項対立を超えたイノベーティブ産業となり自然保護が加速するポテンシャルを秘めている。

本研究所としては、地域の関係者と更なる連携を深めながら、今後も奄美・沖縄の世界自然遺産に関する社会実装研究を進めていく。直近では、情報誌「地域人」の第73号で創刊6周年記念号として、奄美・沖縄世界自然遺産特集を予定している。内容豊富で充実の仕上がりとなっているので是非ご覧いただきたい。(9月10日発売予定)

 

2021.08.02