ボランティア参加学生の防災意識の変化について

著者
大正大学地域構想研究所 研究員
佐藤 和彦

はじめに

このレポートは、本年8月に発表された「災害ボランティア参加学生の傾向について」(薗畠、2024.8)の姉妹編にあたります。
6月に実施した能登半島学生ボランティアに際して、私は参加学生を対象として薗畠研究員と共同で防災意識についてのアンケート調査を行いました。
このレポートでは、アンケート結果から見えた学生の防災意識の変化について、特徴的な部分をピックアップしてお伝えします。
なお、アンケートの実施方法や回答者の属性等については、薗畠研究員のレポートに詳しいため、本稿では省略させていただきます。

防災意識に関するアンケートの概要

防災意識に関するアンケートは、ボランティアに参加した学生24人を対象に行い、回収率は100%でした。
事前アンケートの主な調査項目は、①過去の被災経験の有無、②自宅の災害リスクの認知度とリスクの確認方法、③自宅の防災対策について家族で話し合った経験の有無、経験がある場合にはそのきっかけと発案者、④自宅の防災対策の実施状況とその内容、となっています。
事後アンケートの主な項目は、①自宅の災害リスクに関する意識とリスクの確認方法、②自宅の防災対策について家族で話し合う必要性の認識と呼び掛ける意欲、③自宅の防災対策の見直しに関する意識とその内容、としています。

顕著な変化

災害ボランティアの前後で学生の回答に顕著な変化が認められたのは、自宅の災害リスクに関する項目です。
事前アンケートでは、「あなたは自宅周辺の災害リスクを知っていますか?」と質問し、「知っている」「詳しくは知らない」を合わせると、ほぼ全員がある程度は自宅の災害リスクを知っていることがわかりました。これは正直言って、想像以上に高い認知度でした。とは言え、詳しくは知らない人も4割は占めており、主体的に防災対策を考えているとは言えない傾向もみられました。
事後アンケートでは「あなたは今回のボランティアを経験して、自宅周辺の災害リスクを確認する必要があると感じていますか?」と質問しており、学生全員から自宅の災害リスクを確認する必要性を感じるという回答を得ました。
事前の段階では、リスクを知っている人はかろうじて過半数を超える状況でしたが、事後には全員がリスクを確認しようとしています。これは、凄惨な被災現場を目の当たりにし、被災された方々の経験談を伺うことを通じて、災害とはいつわが身に身に降りかかってきてもおかしくない災難であると実感し、自分事として捉えなおした結果と言えるのではないかと思います。(図―1)

図―1災害リスクに関する認識(事前・事後比較)

同様の傾向は、災害リスクの確認方法に関する質問からもうかがい知ることができます。
事前アンケートでは「災害リスクを『知っている』とお答えした方はお答えください。災害リスクをどのようにして知りましたか?」と聞き、事後アンケートでは「(災害リスクの確認が必要だと思う場合)災害リスクをどのようにして確認しますか?」と、ほぼ同じ質問をしています。
事前アンケートでは自分で調べた人はわずか4人にとどまっていますが、事後の回答では自分で調べると回答した学生はおよそ4倍の15人にまで増えました。
学生たちは実際に被災地に赴いて自分の目で、耳で、五感をもって被災の現状を体験してきました。その結果、災害対応を人任せにするのではなく、自分で自分の身を守る行動を起こすことが必要であることを学び取ってくれたのだろうと考えています。(図―2)

図―2 災害リスクの確認方法(事前・事後比較)

学生ボランティアの意義

以上の事前・事後アンケートの比較から、ボランティアに参加した学生の防災意識は、参加前と比べて格段に向上していることが確認できました。
私は、防災研究の究極の目的は「災害死者ゼロ」だと考えています。そのために、最も重要なのは一人一人に災害とは自分の身に降りかかる災難なのだということをしっかりと認識してもらうことです。しかしながら、このような認識の変化をもたらすことは、研究者がたとえ百万言を費やしても成し遂げ難いというのが実態です。
ところが、わずか4泊5日、実質的な活動期間は3日間という短期間でしたが、被災地で行ったボランティアは学生たちの意識を劇的に変えました。「百聞は一見に如かず」という言葉のとおり、被災地での体験は学生に多くの学びをもたらしたのです。
参加した学生たちには、今後も防災意識を高く持ち続け、自分の身を自分で守ってもらいたいものです。そして、珠洲市やお世話になった方々との交流が末永く続くことを期待しながら、このレポートを閉じさせていただきます。

2024.10.01