市民による、市民のためのアクションリサーチ

著者
大正大学地域創生学科 助教
天野 浩史

コミュニティ財団の助成審査委員として、助成プログラムに応募くださったNPOや市民活動団体(非営利組織)の想いが込められたプロジェクトを審査する時があります。その際、私が最も重視しているのが、NPOの皆さん、市民の方々が「なんとかしたい」と思っていることは何なのか?ということです。預かったご寄付をNPOに適切に届け、寄付者へ報告・説明の責任がある以上、「なんとかしたい」をより詳細に、より正確に理解する必要があります。それゆえ、審査対象となるNPOの取り組みを深く理解していくと、「静岡でそんなことが起きているのか」と学ばせていただくことが多々あります。私は、市民だからこそ気づき、活動し、調べる過程で明らかにしていく「市民による、市民のためのリサーチ」に可能性を感じています。
具体的な事例をご紹介しながら、その可能性を考えてみましょう。

NPO法人男女共同参画参画フォーラムしずおか(静岡市)の女子高校生調査と居場所づくり

NPO法人男女共同参画フォーラムしずおか(以下、フォーラムしずおか)は、男女共同参画社会の実現を目指して2005年に設立されたNPO法人です。静岡市女性会館の指定管理者として、行政とともに、特に女性を取り巻く問題に向き合いながら、相談事業・講座事業等に取り組まれてきました。
既存の事業では高校生等の若い世代に接する機会が少なく、実態を把握しきれないという問題意識から、静岡市内に在住する、もしくは通学する女子高校生を対象とした調査を2023年9月〜11月に実施。先月2024年8月に調査結果が公開され、調査結果の一部と取り組みが地元静岡新聞(2024年9月4日)にも掲載されました。調査からは、ストレスの状況について、『周りからどう思われているか気になる』『誰かと比べて落ち込む』等を、4割が「よくある」と回答していたり、自由記述の分析から「生理」や「居場所」支援を求める声があったりと、周囲の目線や比較に悩み、行き場を求める高校生の姿が浮かび上がってきました。
フォーラムしずおかは、現在静岡市と進めている女の子の居場所事業「ちるり」で今回の調査結果を活用し、市内の若い女性たちの生活をより良くする活動や、より詳細に当事者の声を聴き取る活動へと事業を発展させています。

「ストレスの状況」アンケート調査報告書より抜粋

フォーラムしずおか公式HP|女子高校生WEBアンケート調査結果公開
http://forumshizuoka.jp/43002-2/

シングルペアレント101(静岡市)のひとり親の実態調査とプレ・シングルマザー手帳

シングルペアレント101(以下、101)は、ひとり親家庭でも安心して暮らせる社会をつくるため、当事者・支援者への支援からロビイングまで、幅広く展開するNPOです。101が本格的な活動を始める前に取り組んだのが、静岡中部地区を対象とした離婚前後の実態調査でした。
2014年1月〜2015年2月に26名の当事者に個別インタビューを実施し、その結果を『プレシングルマザーヒントBOOK 私たちの選択と決断〜離婚、子どもと漕ぎ出す新たな未来〜」という冊子として2015年に発行しました。そして、団体設立後、支援活動とともに調査活動を続け、2018年に『プレ・シングルマザー手帖』という形で、離婚を検討する方の選択を支援するツールを発行しました。現在も当事者を支えるツールとして活用されています。

シングルペアレント101が発行する冊子

シングルペアレント101公式HP
https://singleparent101.localinfo.jp

市民による、市民のためのリサーチの可能性

これらの事例から分かる、市民による、市民のためのリサーチが持つ可能性は何でしょうか。
まず、政府や調査機関の大規模調査ではこぼれてしまう、ローカル特有の状況を捉えることができます。市民活動は基本的に日本社会全体というスケールではなく、暮らしに根付いたエリア規模で展開されています。そのため、「このまちだからこそ起きていること」を正確に捉えられる意味は大きいでしょう。
さらに、すでに活動している市民が行うことによって、調査だけにとどまらず、その結果を活用して活動を発展させていくことで、目の前や、まだ出会えていない当事者の状況を改善していくことに結び付いていきます。フォーラムしずおかの居場所づくり、101のひとり親支援など、活動と連動することによって直接的な支援になったり、調査結果を他団体ともシェアすることで、間接的に支援の質や幅を広げることになると考えられます。
聴き逃してしまいそうな、小さな声を丁寧に掬い上げて、可視化して、力に変えていく。そういった社会的意味を持つ市民のリサーチは、簡単にできることではありません、だからこそ、私たちのような研究者が関わっていくべき領域でもあります。また、市民リサーチャーを育成するなど、大学の役割としても大いに可能性を感じています。
みなさんの身近に存在するNPOの調査と活動を見てみると、ローカルな社会の状況が見えてくるかもしれません。

2024.09.17