災害ボランティア参加学生の傾向について

著者
大正大学地域構想研究所 研究員
薗畠 ひとみ

はじめに

6月5日(水)~6月9日(日)にかけて大正大学の学生24名と教職員8名が珠洲市三崎町寺家地区へ災害ボランティアとして派遣された。珠洲市三崎町寺家地区は、能登半島の最先端に位置し2024年1月1日に能登半島地震により震度6強の揺れと津波に襲われ、大きな被害を受けた地区である。ボランティア活動では、海岸部に集められた漁具などの撤去分別、翠雲寺や周辺民家の片付け清掃、地元住民との交流などが行われた。

ボランティア活動の様子

ボランティア学生への事前・事後アンケート

今回の研究レポートでは、事前と事後に行ったアンケートを元に学生調査結果の一部を紹介する。学生は、説明会の参加、応募申請、個人面談を受けたのち最終意思確認を経て参加をした。事前アンケートの実施は、最終意思確認後の派遣直前、事後アンケートは派遣後1週間後にMicrosoft Formsを活用して回収を行った。

派遣学生の属性(事前アンケート)

事前アンケートを紐解くと、現在大正大学に設置されている11学科中10学科の幅広い学科の学生が、3年生を中心に参加したことがわかる。また、出身地においては一都三県出身者が14名(58%)、地方出身者10名(42%)とやや一都三県出身者が多い。注目すべきところは、地方出身者の内4名(全体の17%)が被災経験者であることだ。これらの学生は、ボランティア応募動機の問いに対し次のように答えている。「東日本大震災を経験した当時、多くのボランティアに助けられた経験があります。ボランティアをしてくださった方々に恩返しとして何ができるのか考えた時、私自身がボランティアに参加することが恩返しになるのではないかと思い、参加を希望します」「地震や津波で大変な思いをしたことがあって、そのとき全国の人に助けてもらったことをずっと感謝している。今度は自分が返したいと思った」「小学生のころに経験した東日本大震災で不安な日々を過ごしていた時に、多くの人たちに助けてもらったことがあり、温かい気持ちになることができたため、当時の私と同じような境遇にいる人たちに少しでも元の生活に戻れるように尽力したいです」「東日本大震災を経験した身として、少しでも能登地方の被災者の力になりたい」いずれも、お返しをしたい・力になりたいという気持ちが起点になっていることから、返報性の原理※が働いたと考えられる。
また、22名(92%)の学生がアルバイト経験、16名(67%)の学生がボランティア活動(活動中・経験含む)の経験がある結果から、アルバイトやボランティアなど日々活動的に日常生活を送っている学生が応募している傾向にあるといえる。

※返報性の原理(または原則・法則)…人はなにかをしてもらったら、返さないといけないという気持ちになること



ボランティア派遣学生と友人との関係(事前・事後アンケート比較)

次に、事前・事後の問いの比較で興味深いアンケート結果があったので紹介したい。ボランティア派遣学生と友人との関係である。派遣前アンケートでは、友人に対し「派遣を伝えていない」「関心があまりない」と全体の9名(37%)の学生が答えていたが、派遣後アンケートでは友人に「話をした」「話をしたいと思っている」と答えた学生は全体の21名(88%)まで増えている。どのような内容を友人に話したのかという問いには次のように回答している。「実際の被災地の写真を見せて現地の状況を説明した」「能登地方の現状、珠洲市の自然の綺麗さなど」「同じ学科の友人に見聞きしたことや自分が体験して感じたことを含め能登の魅力などの話をした」「友人と話した。今度能登半島に一緒に行くことを約束した」など、ボランティアの経験・災害の事・珠洲市の魅力を伝える事を積極的に話している様子がわかる。一方で、親族(保証人)に対してボランティア体験を話したのかという問いには、「話をした」が18名(75%)、「話をしたいと思っている」が4名(17%)と親族に対しても派遣後に経験を伝える行動を行ったという事が分かった。また、今後もボランティアに参加したいと思うかという問いには「参加したい」14名(58%)、「機会があれば参加したい」9名(38%)、「どちらともいえない・わからない」1名(11%)と多くの学生が今後のボランティア活動について意欲な回答を答えている。
学生がボランティア派遣後に、「誰かに経験を話す」という語り部としての行動を歩んだことは、災害を他者に伝えるという防災の役割に加え、学生自身の成長に繋がった結果と思われる。今後も、派遣経験をした学生が、被災地の方々と繋がり、視野を広げ、人と共に行動し更なる成長をする事を期待したい。

2024.08.01