三鷹市と三鷹ネットワーク大学推進機構が共同で設立した三鷹まちづくり総合研究所は、2020年度から「まちづくり研究員」事業を開始しました。公募を通じて選ばれた市民が「まちづくり研究員」として任命され、大学教員から専門的なアドバイスを受けつつ、自らの経験や関心に基づいてまちづくりに関する様々な研究や調査に取り組んでいます。文献調査、ヒアリング、アンケート調査だけでなく、新しいイベントの企画・実施など、実践的な活動も広く行われており、多岐にわたる研究・調査活動が活発に進められています。これらの研究、調査、実践活動に加え、論文や研究レポートも作成され、その成果は毎年、紀要『三鷹まちづくり研究』にまとめられています。
筆者(仲北浦 淳基)は、2021年度からこの「まちづくり研究員」事業に関わりはじめ、主に以下の3つの役割を担っています。
1.論文執筆に関する研修会
論文執筆の心構えやノウハウについて講座を開催します。これにより、研究員は研究・調査の方向性と着地点を構想しつつ、論文や研究レポートの執筆も合わせて進めていきます。
論文セミナーの様子
2.研究・調査の方向性や論文・研究レポートの構成案に関する相談・アドバイス
研究員が提示する課題設定や解決策に対し、論理的な妥当性や注意点、参考文献などについて助言します。このアドバイスにもとづき、研究員は研究・調査を進め、あわせて論文や研究レポートの構成を整えていきます。
「目次・序文発表会」の様子
3.「まちづくり研究員」によって執筆された成果物(論文や研究レポート)の評価
三鷹のまちづくりに貢献するという点に鑑み、提出された論文や研究レポートの独創性、説得力、論理的適切性を判断し、今後の継続的な研究・調査や、提案の具体化に向けて助言します。
※まちづくり研究員による研究成果については以下をご参照ください。
三鷹まちづくり総合研究所「まちづくり研究員」事業
https://www.mitaka-univ.org/kenkyu/kenkyuuin.html
「まちづくり研究員」事業の特筆すべき点は、参加する研究員の年齢、性別、国籍、職業の多様性です。研究員は三鷹市の住民であるとともに、多くが社会で活躍するプロフェッショナルであるため、彼ら/彼女らのもつ実践的専門性や問題意識、価値観は非常に多彩です。この多様性が交流することは、本事業の重要な意義の1つであり、また、それを可能にしている三鷹ネットワーク大学が提供する環境の重要性を示していると思います。
多くの研究員は、自ら長年にわたって培ってきた経験則をまちづくりに活かそうとしたり、まちのあるべき方向性を構想したりしながら研究・調査活動をおこなっています。その際、三鷹市のまちづくりに対する思いや考えをただ祖述するのではなく、学術的な手法や体裁をもって、ある程度の理論にもとづいて論文・研究レポートとしてまとめていくという点もまた意義深いことだろうと思います。というのは、個々の研究員が日々の生活で培ってきた実践的経験と、大学教員(研究者)が研究室で培ってきた学術的経験とを、並列的に調和・融合させるという意味合いがあるからです。
実践と理論は優劣・上下の関係にあるのではなく、互いが互いを支える相互補完関係にあります。しかし、実際のところ実践と理論が積極的に交わる場は多くはないのであり、その意味で、本事業は実践と理論の両方にとって意義深いものだと私は考えています。特に、実践的・実務的経験が圧倒的に不足していると感じている筆者にとっては、この事業は自身にとっても大いに刺激的であり、新たな視点を得られる機会だと思っています。