住民幸福度調査のプロセスと成果の活用

著者
大正大学地域創生学科 准教授
金子 洋二

新潟市秋葉区は平成の市町村合併によって旧新津市と旧小須戸町が合わさり誕生した行政区です。日本を代表する大河・信濃川と阿賀野川の間に形成された広大な里山と平野を擁し、鉄道や高速道路などの交通網も充実した暮らしやすいまちとして知られています。
2005年の新潟市の広域合併に伴い、それまで旧市町村にあった議会がひとつに統合されたことから、住民意見を身近な区政・市政に反映させるために8つの区ごとに「自治協議会」という組織が設置されました。自治協議会には公募を含む約30人の住民代表が集い、月1回の定例会義に加え、自らもまちづくりの主体者として様々な事業を展開しています。今回ご紹介する「秋葉区民幸福度調査」は2021年に秋葉区自治協議会が行ったもので、そのプロセスと成果の活用において協働のまちづくりにおける先進的なモデルと言えるでしょう。

事の発端は、2018年に私が秋葉区自治協議会の会長を拝命し、区づくりを進めていく上で住民の意識を明確に捉えて各種施策に反映させていく必要性を感じたことに始まります。2019年に調査の実施を決定し、2020年には自治協議会内に有志による特別部会を設けて「秋葉区に暮らす『幸せ』とは何か?」という議論を始めました。数回のワークショップを重ねて、既存の幸福度調査も参考にしつつ、最終的に11分類52項目の調査票を作成しました。対象は秋葉区に住む15才以上の区民2000人を無作為抽出して調査票を郵送・回収すると共に、ウェブ上のフォームでも回答を受け付け、1,035件の回答を得ることができました。
調査の結果は非常に示唆に富んだものでした。多く(83%)の区民が幸せを感じ、生活の利便性や安心・安全の点で高い満足度を示している一方で、就職機会の充実、高齢者や障がい者の暮らしやすさ、住民同士の助け合い、文化的な活動機会の充実などの点で課題があることが分かりました。因みに「幸せ」にとって重要な要素の上位には「健康」「家族のつながり・調和」「所得などの家計」などが挙がりました。また、秋葉区が住み良い理由としては「災害が少ない」「交通の利便性」「買い物や食事に便利」「自然豊か」「犯罪が少ない」が上位に挙がりました。

秋葉区の魅力(自由記述回答のワードクラウド)

秋葉区に住み続けたいかどうかという問いに対しては、10代と30代以上の世代からは60%~90%の肯定的な意識が汲み取れた一方で、20代は「住み続けたい」が4割前後に留まるなど、世代によって大きな差があることが明らかになりました。さらには、幸せを感じていることが必ずしも「住み良い」「住み続けたい」「愛着がある」といった地域に対する意識とリンクしていない現状も見えてきました。
この調査結果を元に、秋葉区自治協議会と秋葉区役所ではさらなるまちづくりの展開へと踏み出しています。まずは調査報告書を作成して区のホームページで一般公開すると共に、各種メディアを用いて発表し、地域へのフィードバックを行いました。また、昨年度策定された秋葉区の「区ビジョン」および「まちづくり計画」にその内容を反映させると共に、新潟市長・秋葉区長宛てに提言書を提出するなど、様々な形で成果を活用しています。

<新潟市長・秋葉区長に宛てた7つの提言項目>
1.地域の特色を生かした産業振興と起業の促進
2.支え合いを実感できる仕組みの構築
3.子育て世代に選ばれる環境づくり
4.人にやさしい生活インフラの整備
5.文化芸術に親しむソフトの強化
6.災害に備えた行動を促す
7.幸福度を市の施策の共通目標に

また、今年度は秋葉区自治協議会が主催して、秋葉区内にある11の地区毎に住民ワークショップを各3回開催し、地区毎のまちづくりビジョンを策定する事業に着手しています。このワークショップでは各地区にある「コミュニティ協議会」が受け皿となり、若者や女性、子どもたちの参画も得つつ、住民自らが考え実行するオリジナルなまちづくりプランの策定を目標としています。ここでも調査の結果が地域の現状を示す資料として存分に活用される予定です。
自治協議会は住民の意見を行政の施策に反映させる橋渡し役であると共に、官民協働のまちづくりを進めるプラットフォームとしての役割を期待されている組織です。秋葉区での一連の取り組みは新潟市の他の7つの行政区からも注目されており、まちづくりのモデルとして横展開していくことが期待されています。皆様も、まだまだ続く秋葉区のチャレンジにご注目ください。

秋葉区民幸福度調査・調査報告書(新潟市秋葉区ホームページ)
https://www.city.niigata.lg.jp/akiha/torikumi/jichi/r3_kurashi.files/tyousahoukoku.pdf

2023.07.03