これまで、BSR推進センターでは、挑戦的萌芽研究「多死社会における仏教者の社会的責任」(課題番号:15K12814)(2015年度-17年度)、挑戦的開拓研究「超高齢多死社会への新しいケア・プローチ:地域包括ケアにおけるFBOの役割」(課題番号:20K20336)(2018年度~22年度)と8年にわたって、現代社会における寺院・僧侶の役割について研究を進めてまいりました。
そして、仏教学、宗教学、社会学、社会福祉学、心理学、精神医学の各領域の研究者、実践者を交えた学際的な研究メンバーにより、多くの成果(雑誌論文など38件、学会発表など49件)をあげることができました。
そこで、これまでの成果を社会に発信し、社会実装への一歩を踏み出すために、2023年3月3日に、シンポジウム「超高齢社会における寺院·僧侶の可能性」を開催いたしました。当日は、対面・オンライン併用のハイブリッド方式での開催でしたが、70名を超える方のご参加をいただき、研究、実践の両面から高い関心を集めていることがうかがえました。
報告者と発題は以下の通りです。
寺院での社会貢献に関する活動について
東海林良昌(浄土宗総合研究所 研究員)
医療から見た寺院での介護者カフェの効果
岡村毅(東京都健康長寿医療センター研究所 研究副部長)
月参りの実態とその可能性
小川有閑 (大正大学地域構想研究所BSR推進センター 主幹研究員)
高齢者介護施設で求められるケア ―僧侶関与の可能性―
宇良千秋(東京都健康長寿医療センター研究所 研究員)
まず、東海林報告では、場としての寺院活用の実践例として、浄土宗総合研究所のプロジェクトとして始まった「介護者カフェ」が全国に広がりつつあることが示されました。介護者カフェは、介護者のための息抜きの場、広報交換の場としてのサロン活動のことですが、ここでいう、介護者とは、おもに家族の介護にあたる無償のケア提供者のことをいいます。NPOなどが主催する介護者カフェがある一方、寺院での介護者カフェの特徴として、過去の介護体験や死別の悲嘆を受け止める場にもなるということが報告されました。
続く岡村報告では、医療者の立場から、超高齢化社会の中で認知症を持つ人など介護を必要とする人は増えていく一方、サポート体制をどう整えるかがポイントになっていることが指摘されました。とりわけ、診断後支援をいかに拡充するかという目下の課題に対し、人の弱さを肯定的に受け止める素地(宗教的教義)のある僧侶が携わる介護者カフェは、寺院ならではの大きな強みであるとの見解が示されました。
小川報告では、一部地域で現在も行われている宗教的慣習「月参り」に関する実態と、地域包括ケアシステムからみた月参りの可能性について言及がありました。月参りとは、檀信徒の月命日に、自宅へ訪問し仏壇で読経するという風習ですが、単身高齢者や高齢者のみの世帯への訪問も多く、生活相談の場にもなっていることから、高齢者の見守りに有効ではないかとの示唆に富む報告がありました。また、秋田、大阪、福岡での実際の月参りの映像記録も公開され、民俗学的にも貴重なこの映像を、参加者一同食い入るように視聴していました。
最後の宇良報告では、介護施設職員へのアンケート調査をもとに、公的領域における宗教者の関与の可能性が示されました。調査結果をふまえ、介護職員の看取りケアへの積極性を育むためには、仕事上の悩みを相談しやすい体制を整えたり、夜勤頻度を少なくしたりするなどの環境調整が重要であると同時に、介護職員の死生観の教育や看取りの中で生じる悩みや葛藤に対するケアが必要であること、そして、ここに宗教者が関われるのではないかとの見解が示されました。
参加者を交えたディスカッションでは、とくに介護者カフェへの関心が高く、社会実装に向けた議論が盛り上がり、社会における僧侶、寺院への期待の高さを感じられるものでした。参加いただいた皆様に、あらためて御礼申し上げます。
なお、これまでの研究成果をまとめた報告書『超高齢社会における寺院・僧侶の可能性』を発行いたしました。ご高覧頂けましたら幸いです(下の画像をクリックすると報告書pdfがダウンロードできる頁に移動します)
今後は、この研究を通じて、国内外に構築された学際的な研究ネットワークを発展させ、公領域での僧侶・寺院との協働条件などを明らかにしたうえで、そのハードルを越えるための社会実装にも着手してまいりたいと思います。