中山道の歴史を掘り起こし、新しく「種子地蔵縁日」開催

著者
大正大学 心理社会学部 専任講師
齋藤知明

種子屋街道

西巣鴨にある大正大学は南側が旧中山道に面しており、東に巣鴨、西に滝野川、板橋と、歴史的に著名な地域に囲まれています。前回 (大学生が参画した「街の銭湯」)もお伝えしましたが、大学近辺には創業から100年を超えた企業が多くあり、大正大学も2026年で創立100周年を迎えるなど、経済、教育、文化と興味深い歴史が多く眠っている地域です。

大正大学は近年、大学周辺地域の歴史を掘り起こし「種子屋街道」という新たな魅力の創出に力をいれています。江戸時代から戦前にかけて、巣鴨から滝野川三軒家(現北区滝野川6丁目)までの間は、「種子屋通り」と呼ばれるほどたくさんの種苗問屋や販売店が立ち並んでいました。そこでは、「滝野川ゴボウ」や「滝野川ニンジン」などの多くの伝統野菜の品種があり、旧中山道を通る旅人が自身の国元で栽培しようと購入していったそうです。大学は今年度、観光庁が実施する「地域独自の観光資源を活用した地域の稼げる看板商品の創出事業」に採択され、この通りを「種子屋街道」として打ち出すことにしました。

「種子地蔵縁日」ポスター

祈り+種子

この地域には他にも昔ながらの魅力があります。忘れてならないのが、巣鴨は、江戸六地蔵尊の真性寺やとげ抜き地蔵の高岩寺があることで多くの参拝客・観光客が訪れるなど、信仰や祈りの地域としても名高いことです。

そこで、この「祈り」のまちと前出した「種子」のまちを掛け合わせた新たな地域資源として、大学は今年5月に「種子地蔵」を建立しました。まさに、仏教系大学独自の取り組みです。「参拝のしおり」によれば、「(種子地蔵が持つ)植木鉢はこの種子屋通りの歴史を顕彰するとともに、地域の安泰と発展そして豊作を祈願する地蔵尊のお心を表しています。また「種」は一粒まけばその一万倍もの粒となることから、一粒万倍(いちりゅうまんばい)といわれ、新事業に挑むには良い縁があるとされます」とのことです。地域の歴史が表現されているとともに、現在大学が力を入れているアントレプレナーシップの醸成も願っているのが種子地蔵です。

11月4日には、「種子地蔵縁日」というイベントを初めて開催します。このイベントでは、江戸東京野菜などの伝統野菜を通し「農と食と歴史」を感じることができるマーケット「種子屋街道さんぽ市」やワークショップ、キャンパス内の農園やさざえ堂のツアーなどを実施します。すがもプロジェクトで活動する学生を中心に、地域創生学部の学生、追手門学院大学の学生も参画する予定です。

大学南門に建立された「種子地蔵」

気になっていたけど初めて入った

種子地蔵縁日に先立つ10月22日、滝野川にある稲荷湯で、すがもプロジェクトの学生によるイベントが行われました。縁日に実施する「バスボムづくりワークショップ」のプレイベントでもあり、稲荷湯に隣接する長屋カフェで展開されました。

こちらも前回お伝えした通り、創業から100年になる稲荷湯は今でも地域の方々が利用するとともに、地域の伝統資源でもあります。今年6月に長屋がリノベーションされ、カフェとして生まれ変わり、新たなコミュニティスペースになりました。一方で、子ども世代への浸透には課題がありました。

そこで、今回は子どもを対象として、銭湯に関連するように入浴剤を固めてつくる「パスボムづくり」を実施しました。イベントの広報は、直前に近隣の教育機関にチラシを配布するだけでしたが、オープン直後には待機の列が並ぶなど、3時間で50人を超える方が来てくださりました。ほとんどが家族での来場だったのですが、ワークショップのやり方を教える大学生と会話・交流しながら、楽しそうにバスボムを作っていました。中には「この長屋カフェは気になっていたけど、今回初めて入ることができた。今後も遊びに来たい」「こういうイベントはこの2年半ほとんどなかったけど、これから定期的にしてもらうと嬉しい」などの声も聞かれました。

コロナ禍は、これまでのように気軽に外出できなかった分、今自分が居る地域をあらためて考える機会となりました。種子地蔵縁日も長屋カフェ同様に、地域の歴史・文化を大切にしながら、現代的な技術や需要に沿って再構成されるイベントです。新たな地域資源の創出に、ぜひとも立ち会ってもらうと嬉しいです。

バスボムづくりワークショップの様子(撮影・島田祐輔 / apgm*)

2022.11.01