著者
大正大学地域構想研究所 特命講師
齋藤知明
昨年6月に、「地元出身」「県外進学」の大学生を対象とした「KAERUインターン」の理念や経緯を「インターンによるまちづくりで地域のアップデートを」という記事で紹介しました。そこから間が空いてしまいましたが、8月にインターンの実践を終え、9月に振り返りと成果の報告会を実施しました。2回にわたって、前回以降の展開をお伝えします。
あらためて、KAERUインターンとは「まちを変える、まちに帰る、まちでできること(可)を得る」の3つのKAERUをコンセプトに、大学生と企業が一体となって、企業や地域の課題を解決するために山形県酒田市で始められた実践型インターンを指します。
特徴として大きく3つ挙げられます。第一に、オンラインでも作業可能なインターンとした点です。新型コロナウイルスが原因で全国各地、移動に制限がかかりました。4月から首都圏では長きにわたって緊急事態宣言が発令されたこともあり、夏休みに入ったとしても地元に帰ってこられないというケースが生じる可能性がありました。それを想定し、オンラインでのインターンプログラム構築を目指しました。
第二に、筆者を含む酒田青年会議所の会員がコーディネータとなって、大学生と企業の間をつなぐ役割を果たす点です。青年会議所の会員は地域の20歳から40歳までの青年層。大学生と比較的近い年齢でありつつ、仕事やまちづくりにも精力的に動いていることから、まさにコーディネータとしてうってつけの存在と言えます。
第三に、インターンの種類が職業体験や作業補助から一歩進んだ、課題解決、あるいは新規事業開拓を目指す実践型である点です。まちの大人と、そこで生まれ育った学生が世代を超えて一緒に同じ課題に向かって活動をする。そのプロセスでたくさんの対話や協働が生まれます。新しい価値や発見が生まれることはもちろんのこと、学生にとっては大人になってからの暮らし方・働き方がイメージしやすくなり、大人にとっては学生の柔軟で斬新な考え方を取り込むチャンスとなります。
さらに言ってしまえば、実は「インターン」自体も手段です。先述した「世代間の対話と協働」こそが最も重要な目的です。しかし、この「世代間の対話と協働」をあえてしようとすると、一時的なイベントに陥りがちです。また、インターンは企業にとっては負担ともなります。そこで、持続可能な取り組みとするために、日常生活のなかでも負担を軽減して「世代間の対話と協働」ができる機会を考えた際に、今回はコーディネータが間に入る実践型インターンとなりました。
コーディネータの役割
(出典・経済産業省『教育的効果の高いインターンシップ実践のためのコーディネーターガイドブック』)
オンライン説明会に参加したのは…
6月26日(土)に学生向けのインターン説明会を開催しました。今年が初めての取り組みだったこともあり、大規模な宣伝ができず、SNSや知人の口コミが頼りの広報でどれだけの学生が来るか非常に不安でした。いくら取り組みが刺激的でも、ターゲットに的確に情報が届いていなければ、プロジェクトは始まりません。その時点で受け入れ先が5社決まっていたので、最低5人、最高10人の学生を募集する目標で動いていました。
説明会当日は学期の真っ只中。大学生は全国各地に点在していることもあってオンラインでの実施としましたが、全国から12人の地元出身大学生が参加しました。正直、初回で12人も集まるとは思いませんでした。参加予定の学生の誘いや、コーディネータの人脈による声かけなどで参加したという学生が大半でした。
その後、日程や企業の条件などを踏まえた上で、実際にインターンに参加した学生は9人(大学生8人、専門学生1人)。出身の内訳は、酒田市2人、鶴岡市6人、庄内町1人でした。彼らと7月に、SlackやZoomなどのオンラインツールを用いて希望調査や面談、事前課題の提示を通じてインターン本番までの準備を進めていき、8月のお盆明けから本格的にインターン期間が始まりました。
オンライン説明会の一コマ
第5波のなかでのインターンシップ
今回のインターンの受け入れ先とプログラムは次の通りです。
① 酒田市役所 地域創生部 交流観光課 「「酒の酒田の酒まつり」のPRを行い、酒田市の存在を広く発信せよ!」
② 荘内電気設備 株式会社 「遊佐町に作る新電力会社を若者の言葉でPRせよ!」
③ 株式会社 大商金山牧場 「たくさんの世代にヒットするようなオンラインショップ改造案を提案せよ!」
④ 株式会社 東洋開発 「庄内サン・セバスチャン構想事業計画を完成させよ!」
⑤ 前田製管 株式会社 「前田製管の新しい広告看板をデザインせよ!」
※詳細はKAERUインターン特設サイトの情報やブログをご覧ください。
上記の通り、1つの行政と4つの地元を代表する企業に、刺激的なプログラムとともに学生を受け入れてもらいました。
インターン期間は8月17日から31日の15日間。ご存知の通り昨年の8月は新型コロナの第5波が猛威をふるいました。そのようななか、8名の学生はPCR検査をした上で帰省しての現地参加、1名の学生は下宿先からの完全オンライン参加となりました。
インターンに先立ち、8月16日に壮行式をおこないました。ここで学生、企業、コーディネータほぼ全員が初めましての出会いとなりましたが、これから2週間の決意を表明し共有する機会となりました。
冒頭に紹介したコンセプトの一つ目のとおり「まちを変える」主体は若者です。既存の価値観とシステムが継続していくままでは、社会が衰退していくことは必至です。日頃から常識と制度のあり方を疑い、なぜそれが残ってきたのか、そして今後それはどれくらい必要かを精査していく視点と意識と行動が社会を変える契機となります。そのためには、今まで出会うことがなかった世代との「対話と協働」から生まれるダイナミズムが重要です。壮行式はその点を確認する機会となりました。
次回は実際にどのようなインターンとなったのか、その成果と課題がどのようにまちに波及していったのかをお伝えしたいと思います。
ハイブリッド型でおこなわれたKAERUインターン壮行式