クラウドファンディングによる地域づくり

著者
大正大学地域構想研究所 専任講師
髙瀨 顕功

寺院を地域のよりどころに

コロナ禍と「集いの場」で紹介した富士宮市の来迎寺は、現在、地域づくりの拠点となるためクラウドファンディングに挑戦しています(期間:2021年5月6日~6月16日)。

 

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来迎寺は檀家6軒程度の小さな山寺。これまで、富士宮市にある平等寺の住職を務める岩田照賢さんが兼務住職として守ってきました。市街地から車で10分ほどの山あいの地域は、高齢化が進んでいましたが、近年では宅地開発も進み、子育て世代が流入するなど、地域住民の多様化が進んでいます。一方、昔ながらの自治会、老人会、子ども会などの地縁組織は縮小気味で、地域住民が交流できる場が少なくなってきていることも問題視されていました。

そこで、岩田住職は、来迎寺を拠点に、地域の誰もが集まれる居場所づくりを発願し、クラウドファンディングを始めたのです。来迎寺では、すでに、ともいき講座(学び直しの場)、介護者カフェ、ひきこもりの親の会などを開催していましたが、今後、高齢者や子どもも集えるよう、境内のバリアフリー化や子ども食堂のための備品購入などの目的で広く寄付を呼び掛けています。

5月6日から始まったクラウドファンディングですが、すでに当初の目的であった100万円を大きく超える寄付が集まっています。このことからも、寺院を場として、様々な人の支援と相互交流を促進する本プロジェクトに多くの賛同と期待が寄せられていることがわかります。

クラウドファンディングと勧進

クラウドファンディングとは、英語のcrowd(群衆)とfunding(資金調達)を組み合わせた造語で、プロジェクトや商品開発などに対し、その趣旨に賛同した人が、財源の提供や協力などを行うというものです。インターネット上のプラットフォームを通じて広く呼び掛けることで、プロジェクトの発起人や商品の開発者の直接の知り合いでない人も、支援に参加できるような仕組みになっています。

このクラウドファンディング、仕組みとしては寺院の「勧進」というシステムに非常に似通っています。勧進とは、寺院の建立や修繕などのために、信者や有志者に説き、その寄付を募ることです。また、寄付を募る人のことも「勧進」とも言いました。

この勧進で成しえたものとして歴史上もっとも有名なのは、奈良の大仏でしょう。奈良時代、東大寺の毘盧遮那仏の造立は、国家の一大事業だったとはいえ、その資金は多くの人々から寄付を募る形で調達されました。そして、その勧進(寄付を募る役)をつとめたのが行基という僧侶でした。行基は、私度僧(朝廷の許可を得ず勝手に出家した僧侶)でしたが、民衆を広く教化し、各地に橋を架けたり、道を整備したり、社会事業にも尽くした僧侶でした。それゆえ、民衆の信頼が厚く、大仏造立の勧進を成功させることができたのです。

大切な寄付を預けるのですから、その事業によって多くの人が幸せになれるものでなければいけませんし、この人ならきっとプロジェクトを成功させてくれると信じられる人の呼びかけでなければ、勧進もクラウドファンディングも成立しません。

そういった意味では、寺院のクラウドファンディングは、まさに現代版勧進とも言え、地域に根差した寺院住職の呼びかけは大きなアドバンテージを持つといえるでしょう。

人口減少社会における寺院の形

日本の人口は2008年にピークを迎え(1億2,808万人)、以降、減少に転じています。2021年4月1日時点での、総人口は1億2541万人ですが、国立社会保障・人口問題研究所の推計によれば、2040年の日本の人口は1億1,092万人(出生、死亡ともに中位)と、1500万人近く減少する見込みです。そして、人口がより落ち込むのは都市部より地方であるといわれています。一方、日本に7万7千あるといわれる寺院ですが、その数は都市部に集中しているわけではなく、各宗派の寺院は過疎地を含め日本各地に遍在しています。これら寺院の多くは檀信徒によって護持されてきましたが、人口減少の波は今後どの寺院にも影響を及ぼすことが予想されます。

しかし、寺院が檀家だけのものでなく、地域に開かれそこに住む人々のよりどころとなっていたらどうでしょうか。檀信徒というメンバーだけの共有財産ではなく、地域社会の公的財産として認識されていたら、寺院護持に地域のサポートも得られるはずです。

実は、クラウドファンディングには「寄付を募る」以外にも、「広く社会に発信する」という効果もあります。来迎寺の取り組みは、地域社会における寺院の活用方法として、全国に波及する可能性も秘めています。また、他の寺院、とりわけ地方都市にあって護持に苦心している寺院に、檀家制度に依らない寺院運営の在り方を示すモデルになるかもしれません。

来迎寺のこれまでの取り組みとクラウドファンディングによるさらなる展開は、地縁組織の衰退した地方都市における地域づくりの実践例のみにとどまらない、大きな可能性を持つものとなるでしょう。

来迎寺「ともいき講座」の様子

2021.05.17