「復興祈11-21」、10年かけて咲いた花

著者
大正大学地域構想研究所 特命講師
齋藤 知明

著者
大正大学地域構想研究所 特命講師
齋藤知明

震災から10年を迎えて

花は 花は 花は咲く いつか生まれる君に

花は 花は 花は咲く 私は何を残しただろう

大正大学の全学共通授業「サービスラーニングD(すがもプロジェクト企画運営)」では、2月27日に「復興祈(ふっこうき)11-21」を開催。コロナ禍でも多くの方と一緒に祈ることを目的としたオンライン追悼イベントでした。

大正大学は震災直後から宮城県南三陸町で支援活動を展開し、以後もボランティアや実習の場面等で連携するなど、これまでの10年で深い縁を結んできました。

 

冒頭であげた東日本大震災復興支援ソング「花は咲く」について、作詞の岩井俊二は「この歌は震災で亡くなった方の目線で作りました」と語っていますが、今生きている人間がこの震災での経験をどのように後世に伝えていくかを問うているとも捉えられるのではないでしょうか。

本イベントは、震災当時小学生だった現在の大学生が、これまでの大学と南三陸とのつながりや学生の復興活動を、次の世代に伝えるべく企画運営。まさしく「いつか生まれる君に」対して「何を残すか」という目的意識で準備が進められました。

 

復興祈11-21のポスター

 

10年目に私たちは何ができるか

復興祈11-21が始まるきっかけは、昨夏に実施した南三陸オンラインツアーでした(前号参照)。遠く離れた南三陸とZoomでつなぐことによって、東京のキャンパスからでも全国各地の自宅からでも、現状の町の様子や復興に関わる人の話から学ぶことができる。さらには、現地の特産物を事前にそれぞれの自宅に送ることによって、離れていても様々な感覚を共有することができる。このとき、コロナ禍でたくさんの制約がかかるなかでも、オンラインツアーによる学習効果の高さと旅行の楽しみの獲得が両立可能との実感を得ました。

2021年は震災から10年。やはり、震災直後から継続的に南三陸と関わってきたこの10年を伝えて、さらには何か新しい祈りのスタイルをつくれないかと考えました。そこで、筆者が担当教員を務めるサービスラーニングの学生たちに話を持ちかけます。サービスラーニングD(すがもプロジェクト企画運営)では七つの班に分かれて活動しています(こちらも前号参照)。そのなかの、祈りのまち巣鴨班、南門活用計画班、東北復興活動班が連携すれば、ニューノーマルな追悼イベントが可能だと考え学生に相談したところ、快く受け入れてもらえました。

当初は、大正大学の南門側にある鴨台観音堂(さざえ堂)と南門広場を活用した地域交流イベントを想定していましたが、新型コロナ第3波の猛威への対応として、すべてオンラインでの活動に切り替えました。南門活用計画班が全体統括、祈りのまち巣鴨班が法要関連、東北復興活動班が南三陸との連携という役割分担のもと、各コンテンツの制作が展開されていきました。

 

準備はすべてMicrosoft Teamsを使って情報共有

 

ニューノーマルな追悼は可能か?

学生たちは真剣に悩み考え準備をしました。10年経った今、私たちの祈りの気持ちは風化していないか。そして、それをもう一度考え直しこれからの10年を考えるきっかけをつくれないか。大正大学の最大の強みである「仏教」を活かせるコンテンツをつくれないか。これまでの大正大学の学生の活動をどうすればわかりやすく伝えることができるか。南三陸の現状やこれからの復興の展望を視聴者に届けるためにはどうすればよいだろうか、と。

そこで、イベントのコンテンツを過去・現在・未来の3パートに分けてつくることになりました。「過去」は「東京からの追憶〜被災地との10年〜」として10年間を「救援活動期」「生活復興期」「探求実践期」「価値共創期」の4つのフェーズに分け、フェーズごとに活躍した大正大学の職員やOBOGにインタビューをしました。「現在」は「変化する復興〜震災と震災からの10年〜」として、Zoomを使ってリアルタイムで南三陸とつなぎ、2020年に完成した復興祈念公園を中心とした町の現状を、語り部の語りとともに紹介しました。また「うちで祈ろう〜復興祈念追善法要〜」では、東京にある大正大学のさざえ堂で法要を行い、Zoomを使ってリアルタイムで南三陸に祈りを届けました。「未来」は「未来へ歩む人々〜震災からの10年とこれから〜」として、南三陸町内で震災以降復興活動に関わり、そして今後に向けて精力的に活動している方々にインタビューをしました。

また、オンラインでは視覚と聴覚は共有できるが他の感覚が共有できず、一体感を得にくいという問題があります。それに対しては、事前に申し込んだ方に、手作りのお香(南三陸のマスコットであるオクトパス君の型)と青いロウソク(気仙沼のともしびプロジェクトでつくられた「命灯会」)を送付し嗅覚と触覚の共有を図りました。

 

事前送付された「うちで追悼」セット

 

いつか恋する君のために

2時間半のオンラインイベントでしたが、全国各地から700以上の視聴がありました。南三陸への祈りを、画面越しながら届けることができたかと思います。これを可能としたのも、今年度「コロナだったから」です。大学は1年間オンライン授業でしたが、学生たちは全国各地から受講していました。この環境をうまく活用すれば、離れていてもつながることができる感触を得ていたのです。

また、法要の際にさざえ堂と南三陸をつないだり、事前に送付物を届けたりした試みに対して、事後のアンケートでは非常に多くの肯定的な声をいただくことができました。これまでの調査では、オンラインでの法要に対する忌避感や虚無感などが報告されていましたが、それを乗り越える方法を提示できたことはこのイベントの意義の一つであると感じます。

そして、なにより学生たちの手によって南三陸への思いを全国に届けられたのが、非常に大きな成果だったと思います。下記は「復興祈11-21」の最後に読み上げられた学生代表のメッセージの一部です。

 

本イベントで大正大学と南三陸町のこれまでの10年を振り返り、改めて南三陸町は「無くてはならない存在」だと実感させられました。私たちが南三陸町のために出来ることはほんの一握りだと思います。ただその一握りを全力で挑戦させてくれるのが南三陸町であり、この町で大学生はたくさん笑い、そして泣きました。たくさんの繋がりと学びをくれる南三陸町を、これから先も多くの大学生が訪れると思います。ぜひこれから訪れる学生と南三陸町民とで、これまでの10年よりもずっと濃い10年を築いていきたいと心から願っています。

 

「花は咲く」は、「花は 花は 花は咲く いつか恋する君のために」で締められますが、まさに南三陸に恋するであろう次世代に対するメッセージとなりました。震災から10年と区切りをつけず、2021年3月12日からさらなる10年をつくっていくことがこれまで関わってきた我々のミッションと考え、今後も継続して行動できるように励みます。

 

14時46分には大正大学と南三陸を中継して黙祷

2021.03.15