「すがもプロジェクト」という挑戦

著者
大正大学地域構想研究所 特命講師
齋藤 知明

著者
大正大学地域構想研究所 特命講師
齋藤知明

スタートから困難が

「日本最大級の『地域に根ざした学び』」。他大学と比べて、大正大学が高校生に向けて独自性を強調する「5つの教育」で筆頭に掲げられているのが、この地域教育です。ここでは事例七点が紹介されていますが、多くが大正大学の位置する巣鴨地域をフィールドとして展開、巣鴨の魅力を発信、巣鴨の課題を解決する活動が展開されています。2020年度は、これまた大正大学が「超改革」として掲げる五項目の一つ「すがもオールキャンパス」のスローガンの下、これまで以上に活発化していくはずでした。

そう、「はずでした」。2020年早春から感染が拡大し始めた新型コロナウイルスの影響で、大学は一斉にオンライン授業に切り替えたことは周知の通りです。無論、大学生による地域での活動・調査(フィールドワーク)は全て禁止となり、これまでのような地域教育はできなくなりました。

一方で、大学によるまちづくりをテーマとした「すがもプロジェクトB」(以下、すがもP。なお、すがもプロジェクトAはリカレント教育がテーマ)が、前年度より準備が進められてきました。学生だけでなく、教員・職員も協働して主体的に巣鴨のまちづくりに関わる大学の新しい挑戦です。当初は巣鴨地域に飛び出してたくさんの取り組みをする予定でした。しかしながらこの情況では展開不可能。となれば、プロジェクト自体が中止・延期になるか。そこで関係者間で熟考し、2020年度はオンラインでも可能なフィールドワークを実施していくことが決まりました。

コロナ前に実施していたフィールドワーク例(2019年制作パンフレット)

 

オンラインでフィールドワーク

すがもPは、これまでも全学的に地域教育を展開してきた授業「サービスラーニング」の枠組みで運営されることになりました。学生は履修生のほか、履修生と教職員の間に立って後述する7つのアクションを円滑に進めるすがもプロジェクトスタッフ(SPS)の学生7名とで構成されます。教員は筆者の他、仏教学部・塩入法道教授、人間学部・宮崎牧子教授、社会共生学部・古田尚也教授と髙瀨顕功専任講師の計5人が、職員は各部署から20を超える人数が運営に関わっています。

プロジェクトは7つの個別のアクションに分かれます。活動の内容やミッションは下記の通りとなります。

1.歩こう巣鴨・・・巣鴨地蔵通り商店街や庚申塚商栄会などの巣鴨地域を学生が歩く仕掛けをつくり巣鴨地域のにぎわいをつくる

2.学食in巣鴨・・・昼食時に学生が巣鴨の町に行きやすくするために特別メニューを作ってもらうなど飲食店と協力する

3.祈りのまち巣鴨・・・鴨台観音堂(さざえ堂)を中心に仏教や祈りを通じたまちづくりを実現する

4.南門活用計画・・・大正大学・南門広場で様々なイベントや空間デザインなどを仕掛け、西巣鴨地域の憩いの場として活用する

5.キャンパス農園・・・キャンパス内の空きスペースを農園として活用し農作物を育て収穫物をシェアするなどで世代間交流を図る

6.東北復興活動・・・大正大学が震災直後以降継続している東北復興活動を企画・実施するとともに東北の現状や学生の活動を東京・巣鴨に伝える

7.メディア・・・すがもPなどの学生の地域活動や巣鴨の魅力を学内外に発信し大正大学の魅力を広報する

オンライン授業の実施が決まってからシラバスを書き換え、さて何人の学生が集まるかと不安だったものの、春学期は17人の学生が履修。秋学期以降フィールドでの活動ができることを念頭にオンラインでの企画会議が中心となりました。

春学期に対外的に活動できた例を紹介します。大正大学がエリアキャンパスを置く宮城県南三陸町との連携を図る東北復興活動班は、夏季休暇中にオンライン研修ツアーを実施しました。南三陸研修センターのスタッフの協力もあり、画面越しながらも町の復興の現状や、新しいまちづくりに奮闘する町民の活動を、双方向のやりとりをしながら視聴。これにより現地を訪問しての研修ツアーと遜色のない学びが実現できました。また、事前に南三陸の特産品を送ってもらい離れていても参加者間で五感を共有することで「旅行」の楽しみを演出。さらには、自宅で参加するツアーだからこそ、現地にいるよりも集中して講師の話を聴くことができたとの声もあり、新しい学びのスタイルを開拓できた感触を得ました。

オンラインツアーでは全員がまゆづくりを自宅で体験

ハイブリッドでさらに進化するフィールドワーク

オンライン授業は継続するも、キャンパスやフィールドでの活動が実施可能となった秋学期は28名の履修者を迎えました。春学期にそれぞれの班で計画してきた企画を、秋学期に実践していきます。

まだ登校が困難な1年生を主なターゲットとした「巣鴨オンラインツアー」(歩こう巣鴨)、大学周辺の飲食店にインタビューしTwitterを使ってのおすすめ紹介(学食in巣鴨)、さざえ堂の解説動画と参拝のしおりの制作(祈りのまち巣鴨)、キャンパス農園の紹介動画や巣鴨地域における伝統野菜の解説動画制作(キャンパス農園)、南三陸での自主制作映画紹介やそれに関わったOBOGを呼んでの対談企画(東北復興活動)、そして、それらの活動を学生の目線で紹介するメディアミックス(メディア)など。

上記の通り、感染予防に最大限の配慮を重ねた上で、オンラインとオンサイトを掛け合わせた多種多彩なフィールドワークを展開することができました。唯一、南門活用計画は空間の活用がミッションということで、コロナ禍での具体的な活動が実現できませんでした。しかし、祈りのまち班・東北復興活動班と三班合同で、オンラインでの東日本大震災追悼イベント「復興祈(ふっこうき)11-21」を2月27日(土)に開催します(末尾に紹介のポスター)。南門活用計画班はイベント運営の中心的役割を果たし、来年度以降の地域活性化の活動につなげていきます。

担当教員としての主観的な感触になりますが、今年度の活動は例年以上に生産性が高かったと思います。これはコロナ禍という制約のなか、全員がどうすれば与えられたミッションを達成することができるかを考えに考えた上で実践した結果でしょう。

オンライン授業になったがゆえに、オンラインツールを使っての情報共有が質量共に大幅に向上し、ハイブリッド型のフィールドワークになったがゆえに、フィールドでの活動が限定的になることを前提として企画書を作り込み、現場での作業を丁寧に進めることができました。これは従来の体制のままでは達成できなかったと感じます。すがもPは、コロナ禍という逆境を活かすことで、誕生のときからすでに進化が起きていたと言えるでしょう。

巣鴨オンラインツアーは鴨台際の一企画として出展

成果を共有し次に活かしたい

新型コロナはいまだに猛威を奮い、コロナ前の生活仕様のままでは感染拡大が免れない状況です。そのような情況で、来年度のすがもPでも次の一手をどう打つか。すでに学生との話し合いが始まっています。ぜひ来年度の大正大学のフィールドワークにもご注目ください。

最後に、本年度の活動報告書をwebページに換えて制作しましたので、こちらも合わせてご覧ください。また、今月末のオンラインイベントもぜひご視聴ください。そして、今後のフィールドワークの在り方を共に考える材料となれば幸いです。

震災から10年をオンラインイベントで振り返る

2021.02.15