新型コロナウィルスの発生により、企業活動は大なり小なり制限を受けることになった。外出が自粛される中で、リモートによる営業やビデオ会議などを駆使しながら、企業活動を続けているところも多い。地方に拠点を置く企業にとって、コロナは働き方や企業活動にどのような影響を与えたのか。地域構想研究所の「つなぐプロジェクト」では、地方を拠点に活動する企業や自治体へのインタビューを通じて、ウィズコロナの社会における企業活動や雇用/暮らし方の変化を追った。インタビューは、ヤマサ醤油、ハナマルキ、平田牧場、茅乃舎本家などの食品業界と製紙会社の大昭和紙産工業ならびにこうした企業の本社のある自治体を対象に行っている。
1.企業のデジタル化
4月の緊急事態宣言では、政府からテレワークの実施が求められ、インタビューを行ったすべての企業でテレワークが導入された。近年、将来を見越して、デジタル化を進めていた企業にとっては、コロナという外圧によって、デジタル化が一気に進んだとのことで、現在も、テレビ会議での打ち合わせ、会計、総務、コールセンター業務など在宅での勤務、オンライン採用などが継続されている。
営業では、「商品を見て、味わって、香りをかいでもらってというのが基本なので、最近では、対面営業に戻ってきている」という企業がある一方、「自社の商品で調理したものを冷凍パックに入れて営業先に送り、ビデオ会議で打ち合わせの際、実際に温めてもらって、食べてもらう新たな手法を取り入れるようになった」というところもあった。また、テレビ会議を通じて営業と工場とのやりとりが密になり、意思疎通が円滑に行われるようになったという意見もあった。
オンライン採用では、「自宅で面接をする際、家の中の様子で生活感が分かり、スーツで本社に来てもらうのでは分からない受験者の一面が分かった」という声がある一方、多くの企業で最終面談は、対面で行っているところが多かった。内定を出しても、今年はコロナの影響があるので、来年、また第二新卒で他社もチャレンジしたいという理由で内定を辞退した学生もおり、コロナという時勢を反映していると感じた。また、どの企業も工場勤務の労働者の安全のため、更衣室の増設や食堂の時間制限などクラスター化を防ぐための取り組みがなされていた。コールセンターの業務を在宅でできるように、ファックスなどの機材を自宅用に購入するという支援の取り組みを行っている企業があり、今後、コールセンターのあり方も変わってくるきざしを感じ取れた。
これまでは、フレックス制がある企業でも、会社に出勤するという働き方が主であったが、ずっと在宅という働き方もできる、していいという風潮になったのは、働き方改革という意味では、一気にすすんだと言える。一方で、実際に顔を合わせての会議だとお茶やトイレ休憩のちょっとした時間に雑談の中から生まれてきた新たなアイディアというものがあったが、ビデオ会議では、要件だけで終わるので、そういったことがなくなってきているという話は印象的であった。
2.自治体の取り組み
コロナの時代においては、暮らし方にも大きな影響が出てきている。東京の人口はコロナ後、ここ数ヶ月転入より転出が増えている。こうした機会を捉えようと、自治体でもU・Iターンの取り組みを強化している。
長野県伊那市では、自分の目を通して暮らしぶりを見ることができるヴァーチャルでのオンライン訪問を企画したところ、600人の申し込みがあり、多くが若年層であったという。すでにドローンによる配達やケーブルテレビをつかってのネット通販などIT化に取りくんでいる当市では、コロナを契機にさらに市全体のデジタル化を進めることで、移住促進のための施策を進めていきたいとのことだった。静岡県富士市においても、テレワーク移住の補助金事業を今年度から始めている。特に女性の移住者や起業者に対する支援を充実させていることが印象的だった。山形県酒田市では、IT環境の整備に力を入れることで、企業誘致につなげたい意向だ。離島である飛島でもIT生活ができるように光ファイバーを海底ケーブルで引くために30億円の予算をかける。水道や電気と同じようなライフラインとしてIT環境の重要性を認識している。11月からはNTTデータから最高デジタル責任者を受け入れることにしたという。
3.危機をチャンスへ
どの企業も自治体も、今回のコロナ危機をチャンスへと転換させるべく、様々な努力をしている姿が窺えた。自治体は商工会議所をはじめとする経済団体との意見交換などから必要な施策を立案しているが、コロナという前代未聞の危機に対しては、より一層細かな連携が必要と感じた。実際、富士市でもユニバーサル就労支援センターにはコロナ後、より多くの相談が寄せられており、雇用の悪化が懸念されている。インタビューを行った企業は、食品関係が多かったこともあり、どこも大幅な人員削減は行っていない。むしろ、今後、他業種からの出向といった地域の雇用の受け皿となってもらうためにも、自治体やハローワークとの連携は必須だ。また、IT化についても、企業がすさまじい勢いでデジタル化を進めている一方で、市役所内のデジタル化や働き方改革はまだまだ進んでいないようにも感じた。今後も「つなぐプロジェクト」が、行政と企業の橋渡し役となれれば幸いと思う。