著者
大正大学地域構想研究所 教授
村木太郎
地域構想研究所では、「大企業と地方自治体による地方創生の可能性についての産官学協働プロジェクト」(研究所ホームページより)として「プロジェクトつなぐ」を進めています。このプロジェクトは、これまで首都圏の大企業と地方自治体をつなぐことを中心的なテーマとしてきましたが、2020年度は、新しく加わったメンバーも交えて、コロナ危機下でプロジェクトとして何ができるかを議論し、新たに「プロジェクトつなぐ2020」を実施することとしました。その目指すところと研究テーマをご紹介します。
今年度のプロジェクトでは、地域の社会・経済の担い手不足や企業の人材不足の解消を目指し、「暮らす」基盤を提供する自治体と「働く」場所を提供する地域企業等との連携・協力について研究します。地域企業としては、特に事業を全国展開していながらも本社機能を地元に残したままの企業に焦点をあてて、自治体との連携の可能性を探ります。
また、このところコロナ危機の下での「新しい日常」の中で、三密を防ぎ人と人の物理的な接触を削減するために、実際の人の移動や集まりは制限され、リモートワークやオンライン会議、バーチャルライブなどが拡がっています。そして、半ば強制的に始まったこれらの仕組みが意外に便利なことも認識され、人々の暮らし方・働き方に大きな影響を与え始めており、ひいては支え手不足の解消、人材の確保という課題に、新たな困難と新たな解決の道筋をもたらす可能性があります。この点に特に留意して研究を進めることとしています。
研究の具体的なテーマは以下の4つです。
(1)少子化対策
県や地方自治体が取り組んでいる少子化対策との連携並びに企業として将来の地元での人材確保という視点でどのような取り組みをしているか。していくか。少子化対策を支えるために、働き方改革、教育、医療、住宅、福祉などの諸施策とどのように連携させていくか。新しい暮らし方・働き方に対応した対策はどのようなものか。
(2)若者の人口流出
若者の地元就職を阻むネックは何か。若者に魅力的な地域作り、職場作りをどのように進めるか。地元企業としての取り組みとしてどんなことができるか。大都市圏出身の学生が多くを占める大学の現状を踏まえ、大都市圏から地方に就職したい学生のチャレンジをどのように喚起し、受けとめるか。また、都市圏の若者や大学生に地域の魅力を知ってもらうチャンネルをリモートとリアルを組み合わせることにより、どのように作るか。
(3)日本に住む外国人
中小規模事業者をはじめとした人手不足の対処のため、新しい受入れ制度が始動し、今後さらに外国人の受入れの拡大が見込まれる中、地域社会における外国人と日本人との共生、外国人が生活しやすく、働きやすい環境の整備などの課題は何か。今回のコロナ禍によって、日本に住む外国人の生活・就労や外国人関連政策が受けた影響や生じた新たな課題は何か。
(4)高齢者・女性・障害者の活躍の支援
少子高齢化が進む中では、高齢者、女性、障害者の活躍が地域社会を支えるために必須となる。地域企業にとっても、これらの者の積極的な採用・活用は、発展のために欠くべからざることとなる。これについて、自治体にはどのような取り組みがあるか。企業の取組はどうか。高齢者・障害者の就労支援の仕組みについて、地域社会への貢献、企業とのコラボレーション等はできているか。
(5)「新しい日常」の影響
(1)~(4)について、リモートワークやオンライン会議、バーチャルライブなどの普及がどのような影響を与えるか。
調査研究の方法としては、地域に本社を持つ中核企業とそこの自治体を訪問しヒアリングを行います。あわせて、高齢者の生きがい就労を支援するシルバー人材センターや障害者の就労を支援する障害者就労継続支援A(B)型について、いくつか事例をピックアップするとともに、新しい働き方、暮らし方について、住民アンケートを実施します。
また、年度末には、ヒアリング対象となった企業や自治体を始め、このテーマに関心のある企業、自治体をお招きして、研究の成果を報告する予定です。この報告会の詳細はまだ決まっていませんが、研究所の会議室と各地を結んで、リアル+バーチャルの会議として実施することを検討しています。
コロナ危機により調査が遅れていましたが、ようやく10月になって、感染防止に十分な配慮をしつつスタートさせています。今のところ、4カ所の企業・自治体に対してヒアリングを行うことを予定しています。このテーマに関心のある企業、自治体のみなさまは大正大学地域構想研究所までご連絡下さい。