前回は学生のアントレプレナーシップを育み、その地域の仕事づくりにも貢献することを目指した「地域シゴトづくりプロジェクト」の紹介と学生の自発的な動きと地域の方々との協働作業への展開について報告しましたが(前回記事:アントレプレナーシップ育成を組込んだ、地域実習カリキュラムの試み)、今回は本カリキュラムを成功に導いた3つの鍵についてご紹介します。
本カリキュラムを成功に導いた3つの鍵
昨年に行われた大正大学地域創生学部一年生による岐阜県中津川市の地域実習では、学生の仕事を創るアントレプレナーシップ醸成等の学生の成長と、地域にとっては今までやりたかった新しい仕事の創出のきっかけとなるwin-winの成果が出たのではと思っています。
この成果を整理すると、以下の3点が鍵であったと考えられます。
①学生が地域の人々と「地域シゴトづくりプロジェクト」のビジョンを共有したこと
②学生と地域の人々との人間関係が構築できていたこと
③学生が地域で主体的に動く自己効力感を形成できたこと
具体的に考えてみます。
学生が地域の人々と「地域シゴトづくりプロジェクト」のビジョンを共有したこと
学生がそれぞれの「地域シゴトづくりプロジェクト」を地域の人々と協働した企画ができたのは、共通の目的でもあるそれぞれのビジョンを共有できたのも大きいと思っています。
学生たちは、㈱ヒューマンバリューが提起している“ポジティブアプローチ”の考え方をもとに、まず地域資源を発掘し、その地域資源を活用した最大の理想状態であるビジョンを描き、そのビジョンを実現する取り組みとしてのプロジェクトを企画しました。ポジティブアプローチは、一般的な問題の原因を追究しその解決方法を行うのと比べて、地域の人々と未来を創造する点で前向きな気持ちになりやすく、周り人々と協働しやすくなるのも大きな特徴です。このように地域資源を活用したビジョンを共通目的として地域の人々と共有したのも、プロジェクトに対する共感・協働を得られた大きな要因だったのではと思っています。
転載:「キーワード ポジティブ・アプローチ」㈱ヒューマンバリュー
(https://www.humanvalue.co.jp/keywords/positive-approach/)
学生と地域の人々との人間関係が構築できていたこと
地域の人々との人間関係構築のために、「地域シゴトづくりプロジェクト」を自分(達)だけで考えるのではなく、また単なる商品(サービス)開発で終わるのではなく、地域のできるだけ多くの人と一緒に進めることを、事前に学生に伝えました。
学生たちは積極的にインターンシップで事業者の人々や、地域行事等を通して地域の人々との関係性を構築することができました。そして、企画の途中で地元商工会の指導員および行政担当者から、「この取り組みは地域のこの人に相談した方がいい」、あるいは「この人と一緒にやったほうがいい」といった非常に有意義なアドバイスも頂くことができました。
そして報告会では、地域の人々がプロジェクトの協働者としてコミットしていただけるように、会場で1人ひとりからコメントを頂くことにしました(写真3)。このように、地域の人との人間関係構築が功を奏して、よりプロジェクトのチームとしての人間関係が深まったことが、今後のプロジェクトの実現に大きく作用してくることでしょう。
(写真3)
学生が地域で主体的に動くための自己効力感醸成
地域の仕事や価値、顧客側のニーズなどを知るために、実習期間中にインターンシップを実施しましたが、インターンシップ先は学生が自分で選び、依頼をし、アポとりから実習までの一連の過程を一人でやりきるという体験機会としました。この経験から、自分たちで考え行動することの成功体験を得ることができ、自身の可能性を認識できる自己効力感も形成できたと考えられます。
以上の取り組みから、学生のアントレプレナーシップ育成と、地域の未来につながる新しい仕事の創出のきっかけとなる地域実習を実現させるためには、①学生と地域の人たちとのビジョンの共有、②地域の人々との人間関係構築、③学生が主体的に動くための自己効力感の形成、以上の3つがポイントとなるとまとめることができるでしょう。
今後は、地域におけるアントレプレナーシップについてさらに追究し、アントレプレナーシップの評価指標の開発、旧付知町での実習に参加した1年生8名の2年後である3年次に、地域のシゴトづくりのプロジェクトの実践状況を追跡調査して検討、学生と地域双方にwin-winとなる地域実習の質をより高めていきます。
最後に、半年前に高校を卒業したばかりの一年生の学生たちを最後まで温かく見守り、適切な指導を賜った地域の方々に深く感謝いたします。また、本実習を行うにあたり中津川市役所の担当の方々には実習の事前準備から実習中も学生たちの活動を支えていただきました。また、本実習副担当の瀧本先生をはじめ本学関係者の皆様にも厚く御礼を申し上げ、感謝の意を表します。