アントレプレナーシップ育成を組込んだ、地域実習カリキュラムの試み

著者
地域構想研究所 専任講師
山中 昌幸

アントレプレナーシップ育成を組込んだ試み

本学では、「地域の自立」を担う人材育成をする目的で、3年前に地域創生学部が設立されました。そして、その教育内容の柱になっている約2か月間の地域実習は、学生と地域の方々の双方にとって大変価値のあるプログラムとして醸成されてきました。本学部では地域に貢献できる人材像として「オーガナイザー」「エコノミスト」「コーディネーター」「アントレプレナー」という4点を掲げていますが、今年度の地域実習で私は特にアントレプレナーシップの育成に焦点をあてる取り組みを行いました。

私は、約17年前、29歳の時に、アントレプレナーシップ育成型のキャリア教育を専門とするNPO法人「JAE(本部:大阪市)」を立ち上げました。そこでは、若者のアントレプレナーシップの育成と同時に、企業に対しては事業開発などの価値につながる事を目的とした学生受け入れの場となる長期実践型インターンシップを提供してきました。この事業は約16年前に西日本では初めての試みであり、これまでに学生約800名、企業約150社が参加しています。私は、本学部の地域実習でもその経験を活かすことができると考え、特に、学生のアントレプレナーシップを育み、その地域の仕事づくりにも貢献することを目指したプログラムを組込み、実践してきました。

42日間の地域実習で、学生8名が「地域シゴトづくり」の企画を考える

私が担当したのは、岐阜県旧付知町(現在は岐阜県中津川市)でした。岐阜県東部に位置し、平成の大合併の平成17年に周辺6町村と共に中津川市へ編入合併をした町です。人口は5,612人(平成30年10月31日現在)、主な産業はひのきなど地元の木材を活用した木工業になります。

この地域でも仕事はあるものの、若者にとって魅力的な仕事は少なく、多くの若者が名古屋など大都市圏に流れてしまい、雇用のミスマッチが問題となっています。そのため、今回は「地域シゴトづくり」をテーマとして、新商品の開発や観光ツアーのプログラム実施といった単発的な取り組みではなく、地域資源を活用した「シゴト」の創出を実習全体の目的としました。

学生たちは、1年生8名(男子6名、女子2名)で、42日間におよぶ地域実習がスタートしました。

42日間の前半は、中津川市ならびに付知町の現状を俯瞰的かつ詳細に把握し、地域の強みや資源、また課題を抽出するための活動および分析を行いました。具体的には、地域資源マップの作成、アンケート調査、ヒアリング(写真1)、イベント参加、ボランティア活動、子どもたちとの交流など、さまざまな活動を通じて、地域を知っていきました。

(写真1)

後半はいよいよ「地域シゴトづくりのプロジェクト」の企画フェーズです。

1人ひとりの学生が、アポ取りから構想、プレゼンまでを自ら一貫して行い、「シゴト」づくりを「アイデア」「プラン」の次元のみで終わらせず、「プロジェクト」として受け止め、地域の関係者の方々との協働作業によりまとめていく過程です。

地域の人をどんどん巻き込んでいく

取り組みの結果、全8企画が誕生しました。(表1)

(表1)学生による「地域シゴトづくりのプロジェクト」企画。8つの企画の中から優秀な3つを選んで掲載しました。

 

実習の最終週は、地域の方々にも集まっていただき彼らの企画をプレゼンする報告会を実施しました。

40名近くが集まり、学生の発表に対して地域の方々からもご意見を頂くなど、一方通行的な学生の報告会ではなく、その地域の未来を共に創る活発な意見交換の場になりました(写真2)。

(写真2)

 

地域の方の中には、「この学生のプロジェクトをぜひ一緒にやりたい!」、「この地域に必要なプロジェクトだから皆さん一緒にやりましょう!」と声をあげてくださる方もいらっしゃいました。

学生の発案が、地域の人をどんどん巻き込んでいくことのできる実現可能性の高いかつ有用な企画であったことがうかがえました。

また、学生による実習最後の振り返りシートによると、地域の方々から信頼を得ることの大切さや、コミュニケーションをとることの大切さなど、地域の方々と協働するうえで必要なことを学生本人が学べたことがうかがえました。

本カリキュラムを成功に導いた3つの鍵

このように仕事を創るアントレプレナーシップ醸成等の学生の成長と、地域にとっては今までやりたかった新しい仕事の創出のきっかけとなるwin-winの成果が出たのではと思っています。

そこで次回は、本カリキュラムを成功に導いた3つの鍵を私なりに整理したものを報告したいと思います。

2019.01.10