高校-大学-地域の三者連携による
人材循環調査から見えてきたこと

著者
大正大学地域創生学部教授
浦崎 太郎

大正大学&地構研「教育による地域創生チーム」が発足

当研究所には今春「教育による地域創生チーム」が発足し、基幹事業の一つとして「高校・大学・地域の三者連携による人材循環」に関する調査研究と社会実装に着手した。

今日、若年人口を確保しようと移住者獲得に努めている地方自治体は多いが、それに成功している自治体においてさえ、流出人口は流入人口に比べると圧倒的に多い。そして、その主たる理由は「大学進学等による18歳人口の流出」である場合が多い。

では、近隣の大学等に進学させればよいかといえば、そうではない。大学時代、東京等の都会を知らず、都会に人間関係を形成する機会のないまま地元で就職することは、地元に供給される産業人材が「都会を相手にビジネスを展開できるセンスや人脈を十分に備えていない者」にすぎないことを意味する。

地元企業はその劣勢を挽回するために、一体どれほどのコストを支払わなければならないだろうか。そうした企業に雇用の確保や拡大が可能なのだろうか。自治体は将来的に十分な税収を確保していけるのだろうか。こう考えると、高校を卒業する若者を地元に縛り付けることは、本人のためにも、企業のためにも、自治体のためにもならないことは、容易に理解できよう。

では、活路は一体どこにあるのだろうか?

それは、思い切って若者を送り出し、都会のセンスや人脈を十分に身につけさせた上で地元企業等に迎える、という道である。そして、このシナリオを実現するために欠かせないのは、高校生時代までに、地元で頑張る本気の大人と人間関係を醸成できる交流の機会を十分に提供すること、そして都会での学生生活を応援するための資金的な支援である。

実はここ数年、地方創生や18歳選挙権を追い風として、地域課題の解決に尽力する大人との関わりを通して将来を展望させる「地域課題解決型キャリア教育」を導入する高校が着実に増えている。本学地域創生学部にもそうした高校生活を送った若者が入学してくるが、その誰もが「将来は地元のために」という熱い想いを胸に秘め、志を同じくする学友たちと切磋琢磨を重ねている。

地域の人材育成次第で、若者は二極分化していく

従来の常識的な在り方と、いま新たに起こっている動きとを比較すると、冷たくされた若者は未練なく故郷を去り、厚い恩を受けれた若者は故郷のために応えようとする、という差を明確に見てとれる。そしてその延長線上に描きうるのは、「若者を粗末にして滅んでいくグループ」と「若者を大切にして栄えていくグループ」に二極分化していく将来像である。

しかも、それは決して遠い先の話ではない。いま全国各地で進行している動きに基づけば「若者が集まってくる町なのか、それとも去っていく町なのかは、遅くとも5年後には顕在化し、10年後には決着がついている」というのが筆者の予見である。

そこでまずは、高校生を大切に育てている学校や地域で何が起こっているか、情報を収集するところから早急に始めていただきたい。

その手がかりは、本学が発行する月刊誌『地域人』で筆者が第25号(2017年9月発売)から連載している「高校連携から始まる人材循環」でも提供している。ぜひ、お求めの上、ご一読をいただけると幸いである。

(地域構想研究所/教授 浦崎太郎)

2018.05.31