〔担当教員から一言:江藤俊昭大正大学地域創生学部公共政策学科教授〕
本稿は、「公共政策実習Ⅱ」において京都をフィールドに調査をしたグループの代表者の安彦匠翔さんによる報告です。公共政策学科は、1年生から3年生までフィールドワークを行っています。1年生が首都圏、2年生は「地方」をフィールドワークの対象としています。京都グループ6名と教員で、秋の京都に5泊6日、本学の施設である京都アカデミアを拠点に調査を行いました。
事前調査をしっかりと行うこと、そのことで調査時での論点が明確になると考えていました。事前に報告書(仮)を作成したのはそのためです。それに基づきヒアリングを行いました。対象者にも事前に質問項目を送っています。プロクルーステースのベッド(寝台)(無理矢理、基準に一致させる)には注意しました。柔軟な思考が必要です。
本稿で、フィールドワークによる学問的な「成長」の一端を理解していただければ幸いです。
京都市で空き家対策に携わる関係者の話を聞くなかで、私は空き家問題をめぐる認識のずれに何度も直面した。
実習前、私はこう考えていた。空き家対策は何がネックになっているだろうか。制度設計の問題か、あるいは経済的な制約か。こうした観点を想定して京都に向かった。
しかし現地で見聞きしたのは、制度の有無や数値目標の達成状況だけでは捉えきれない、空き家問題のもう一つの側面であった。京都市が全国に先駆けて対策を積み重ねてきたからこそ、統計の背後に残る課題や、地域ごとに異なる実態がより鮮明に見えてきたのだと思う。
その認識に至る過程として、まず本実習の概要を整理する。
○ 公共政策実習Ⅱの概要
公共政策学科では、1年生から3年生までを対象に、学年ごとに「公共政策実習」が開講されている。「公共政策実習Ⅱ(2年生)」は、全国各地の実習先に約1週間滞在し、地域の方々へのヒアリングや現地調査を通じて公共政策上の課題を実践的に学ぶ。
私は京都府京都市を実習地とし、空き家対策をテーマに調査を行った。京都市は、かつて空き家数や空き家率が全国平均を上回っていた時期があった。しかし、行政や地域組織が積極的に住宅の適正管理、利活用の促進に取り組んだ結果、現在は全国平均を下回る水準に抑えている。
全国的に空き家が増加している中で、減少させることに成功した先進地として事例を学ぶと同時に、次なる課題を探求することを実習の目的とした。
新川達郎同志社大学名誉教授の講義
(右手前が筆者)
本学「京都アカデミア」での調査準備
本学「京都アカデミア」での報告会
○ 若年層は転入するが、定住しにくい
京都市での実習にあたり、はじめに調査したのは人口動態である。市のウェブサイト1によれば、15〜24歳は転入超過である一方、25〜39歳および0〜4歳は転出超過となっている。転出先は、京都府南部や大阪府、滋賀県といった周辺自治体が多いことがわかった。
進学を契機に転入した若年層が、就職や結婚、子育ての段階で市外へ転出している状況が想定される。市は25〜39歳が転出する理由の推察として、結婚・子育て世代が求める条件に合った住宅確保の難しさを挙げている。京都における空き家の利活用促進の必要性は、こうした人口動態からもうかがえた。
○ 「空き家率」の地域差
次に注目したのが空き家所在地の分布である。令和5年住宅・土地統計調査(総務省統計局)によると、全住宅に占める空き家の割合を示す「空き家率」は、全国13.8%、京都府13.1%、京都市12.5%であり、京都市は全国平均を下回っている。しかし行政区ごとに見ると全国平均を上回る地域も存在していた。
実習では、空き家率が高い行政区の地域組織にヒアリングを行った。当該行政区では、平成30年から令和5年の5年間で1千戸以上の空き家を減らしたが、今も全国平均を上回る空き家率である。背景として、住宅所有者の高齢化や相続後の活用方針を巡る難しさ、市場に住宅が流通しにくい構造的な要因が指摘された。
市全体の統計上は空き家率が抑えられていても、地域単位では次なる対策の余地が残っていることに気づくことができた。
○ 数値目標達成の先に残る問い
市は「京都市空き家等対策計画(平成29年)」において、市場に流通していない空き家を令和5年時点で5.5万戸に抑えるという数値目標を掲げていた。
令和5年住宅・土地統計調査によれば、その数は4.4万戸であり、数値目標を達成している。しかし、実習を通じて、私はこの数値の受け止め方について考え直すようになった。
学識者にヒアリングを行ったときである。空き家が「解消された」とされる事例の中には、解体して宿泊施設や駐車場など、居住以外の用途へ転用されたケースも含まれているとの指摘があった。
市は空き家の問題点として「住宅供給の妨げ」「防災、防犯、生活環境上の問題」「地域コミュニティの活力低下」を挙げている2。空き家数の増減だけにとらわれず、地域の課題解決につながっているのかという視点を持つことが大切だと学んだ。
○ 実習を通じて得た視点
今回の実習を通じて、私は社会的な問題を捉える視点そのものが変化した。実習前は、公開資料や統計を用いた定量的な分析によって課題の所在を整理していた。
一方、ヒアリングや街歩きを通じて、統計では捉えきれない実態や当事者の認識に触れることができた。統計データの分析で課題の輪郭を捉え、定性調査で内実を確かめる。その積み重ねによって、私は統計を「問いの入口」として読むようになった。
京都市という空き家対策の先進地で実習を行ったからこそ、数値の達成と地域の実感とのあいだに生じるずれに気づき、自ら問いを立て直すことができたのだと思う。
こうした政策の見方そのものの変化こそが、本実習を通じて得た最大の成果である。
1 京都市情報館「京都市の人口動態について」
https://www.city.kyoto.lg.jp/sogo/page/0000306683.html (閲覧:令和8年1月30日)
2 京都市会本会議 市長答弁(令和4年2月17日)


