みんなの森 ぎふメディアコスモス-市民の交流拠点を創出する開放的な複合施設-

著者
大正大学教職支援オフィス教授 / 附属図書館長
稲井 達也

1.はじめに–複合施設としての図書館–

岐阜市の中心部に位置する「みんなの森 ぎふメディアコスモス」は、単なる図書館の枠を超え、市民の営みが交差する「知の拠点」として全国から注目を集める施設である。近年設立される公立図書館は、図書館機能だけではなく、ホールや多目的スペースなどを併設した、いわゆる複合施設が多い。

2.設立の経緯と理念:市民と共に育つ「森」

JR岐阜駅から約3km離れた場所に立地している。かつての岐阜大学医学部の跡地を再開発するプロジェクトとして誕生し、2015(平成27)年7月に開館した。
開館に当たっての理念は「根から知を 枝葉でふれあい花さかせ 明日への種を創り育む」だった。この理念に基づき、単なる本の貸し出し場所ではなく、市民の交流を通じて、新しい文化や地域社会を創造する「礎」となることが目指された。愛称の「みんなの森」には、誰もが気軽に集い、多様な活動が共生する場所という願いが込められている。

3.異例の「図書館長公募」

建物の完成に先立ち、岐阜市は初代館長の全国公募を行った。そこで選ばれたのが、子ども向けワークショップなどの実績を持つ吉成信夫氏だった。吉成氏は司書資格を持たない。プロデューサー的なバックグラウンドを持つ吉成氏の館長就任は、当時の図書館界では画期的な出来事だったといえる。吉成館長は「滞在型図書館」を掲げ、静かに本を読むだけではなく、会話や活動が生まれる「静かな賑わい」のある空間づくりを推進した。この柔軟な運営方針が、後の驚異的な利用者数につながった。

4.建物の特徴

建物を設計したのは伊東豊雄氏である。伊東氏は建築界のノーベル賞といわれるプリツカー賞受賞者である。伊東氏は、せんだいメディアテーク(本稿第1回)を設計したことでも知られている。
建物の特徴は独特な構造とデザインであり、これまでの図書館建築の様式を打ち破るものだった。第一の特徴として、波打つ木製格子屋根があげられる。岐阜県産の東濃ひのきをふんだんに使用し、金華山を彷彿とさせるようなうねりのある天井は、柱を最小限に抑えているため、館内に開放感を生んでいる。
図書館エリアの執務室はガラス張りで中での様子が見えるようになっている。これまでの図書館は閉鎖的な空間が多く、バックヤードで働く人の姿が見えないのが一般的である。そのような閉鎖性を打破しており、風通しの良い雰囲気を作り出している。
第二の特徴として、大きな傘「グローブ」が挙げられる。2階の図書館フロアには、天井から吊り下げられた半透明の大きな傘「グローブ」が点在している。とても目を引くオブジェにもなっている。「グローブ」は照明や空調という設備としての役割を果たしつつ、館内のエリアを緩やかに仕切っており、「小さな家」として機能している。
第三の特徴として、自然エネルギーの活用があげられる。長良川の伏流水が流れる地下水を利用した輻射冷暖房、グローブを通じた自然換気など、環境負荷をできる限り抑える工夫が施されている。

5.若者が集まる「屋根のある公園」

2015年の開館以来、利用状況は驚異的なものとなっている。まず、旧図書館と比較して、利用者層が若返ったことである。特に40歳以下の若い世代の利用者が激増した。自習室としてだけでなく、1階にスターバックスやローソンがある。また、会議室や工作室、ダンスルームやキッズルーム、そしてイベントを開催する際に使用できるギャラリーといった“市民活動”ができるスペースが数多くある。市民活動交流センターがあることによって、複数の「居場所」が生まれた。市民の交流が生まれた。
また、旧図書館と比較して、来館者数が激増した。年間の来館者数は100万人を超え、県外からも建築見学や視察が絶えない。
屋外の「カオカオ広場」や並木道では定期的にマルシェやイベントが開催され、建物の中と外が一体となった賑わいを見せている。

6.シームレスなスペース

ぎふメディアコスモスの最大の特徴は、属性ごとに最適化された「居場所」と「支援」が、シームレスに配置されている点にある。

①児童・親子向け
安心と発見の「親子のグローブ」は、2階の図書館スペース、児童書の書架の近くにある。子どもを静かにさせる場所ではなく、親子で本を楽しむ場所としての環境整備が徹底されている。「親子のグローブ」は0歳から2歳までの乳幼児と保護者が、靴を脱いでリラックスできるスペースである。天井からの柔らかな光とヒノキの香りに包まれ、家のようにくつろぎながら絵本に親しめる。
館内には「子どもの声は未来の声」というこのスローガンが掲げられており、これは施設全体の共通認識となっている。多少の賑やかさは許容する寛容な文化を醸成しようとしている。孤立しがちな子育て世代の心理的ハードルを下げているように見える。
司書による仕かけとして、児童書コーナーでは司書の手作りによる絵本の世界を再現したミニチュア雑貨などの展示が定期的に更新される。視覚的な楽しさから本への興味を誘う工夫が随所に見られる。

②中高生(YA:ヤングアダルト)向け
「自習お断り」といった排除の論理ではなく、彼らの活動を積極的に受け入れ、放課後「サードプレイス」にするという姿勢は、圧倒的な若年層の支持を生んでいる。
YA交流掲示板「心の叫びを聞け!」では、進路や友人関係、何気ない呟きに対し、司書が手書きで返答するアナログな公開型のやりとりを行っている。SNS全盛の現代であっても、あえて手間をかけたこの仕組みには、累計2,000件を超える声が寄せられており、人気スポットとなっている。

③みんなで学ぶへや
ホワイトボードを備え、グループ学習や議論が可能な専用ルームである。一人で黙々と勉強するだけでなく、友だちとともに学ぶことを公認している。

④青少年サポーター
中高生が図書館運営に関わるボランティア制度である。自分たちでおすすめ本のリスト「ほんまるけ」を作成し、表紙デザインやPOP作りを行う。図書館が「自分たちの居場所」となるべき、生徒たちが主体的にこのスペースを創り上げている。

⑤ビジネスパーソン向けの起業と課題解決の相談窓口
資料の提供にとどまらず、専門機関と連携した実務的な支援を行っている。「ビジネス・チャレンジ支援相談窓口」では、「岐阜県よろず支援拠点」のコーディネーターと図書館の司書がタッグを組み、定期的に無料相談会を開催している。経営課題や起業の悩みに応じ、専門家のアドバイスと図書館の関連資料をセットで提供しており、伴走型の支援体制を構築している。

⑥「岐阜に住み、岐阜で働く」展示
地域での起業や働き方に特化した選書コーナーである。実務書から、実際に岐阜で起業した人の体験談まで、キャリア構築に役立つ情報が集約されている。

⑦研究のへや
集中して調べ物や執筆を行いたい個人のための個室である。Wi-Fi環境や持ち込みPC席も完備されており、サテライト・オフィス的な活用も可能である。

7.まとめ–これからの公共図書館のあり方–

「ぎふメディアコスモス」は、優れた建築デザインと、公募館長による革新的な運営、そして市民の活気が三位一体となった稀有な事例として全国に名を馳せた。
このように「ぎふメディアコスモス」は、乳幼児からビジネスパーソンまで、人生のあらゆるステージに合わせた「知のインフラ」を揃えている。これらのサービスが伊東豊雄による開放的な空間(グローブ)の下で緩やかに繋がっており、利用者は自分の居場所を自然に見つけ出すことができる。
また、本を探す場所から「過ごす場所」への転換が図られている。公共図書館が街のリビングルームになり得ることを実現させている。このような理念は、例えばフィンランドのヘルシンキ中央駅近くに立地するヘルシンキ中央図書館Oodiにも体現されている。図書館の新たな潮流といえるだろう。
ただ単に施設・設備を備えたとしても、それだけでは箱物を新設したに過ぎない。施設・設備を「ぬくもりのある居場所」に変えていくのは、まさにそこで働く職員であり、利用者一人ひとりに他ならない。

2026.02.02