無人島にしたくない・・・島の人たちが大学生や企業、行政と島のミライを考える!

著者
大正大学地域構想研究所 地域支局研究員(徳島県阿南市)
鈴江 省吾

離島の魅力と課題が凝縮された「伊島」

阿南市の沖合に浮かぶ四国最東端の離島「伊島」。古事記では四国は「伊予の二名島」と称され、和歌山を望む「紀伊水道」は四国の右半分が「伊」と呼ばれていたことを物語る。そして伊島は瀬戸内海と太平洋の海流がぶつかる好漁場でもあり、明治末期にはこの地で潜水具に空気を送る漁法が生まれ、その技術は伊島から全国、朝鮮半島まで伝えられた。
しかし、最盛期には800人だった人口も現在は100人まで減少し、小中学校も数年前に閉じられ、島の存続が危ぶまれているが、資源保護を重視した素潜り漁でのアワビ、網漁の伊勢エビなどの魚介類、可憐な花を咲かせるイシマササユリ、雄大な岩礁海岸に魅了される人も多く、大正大学の阿南実習でも伊島探訪が一番人気だ。

そんな伊島でこのほど「第一回伊島交流サミット」が開催され、私がそのファシリテーターを務めることになった。
島で唯一のサテライトオフィス「(株)東京久栄」と産業能率大学(東京)がまとめた「伊島振興策」が昨年の地方創生コンテストでグランプリを獲得。阿南市長への報告会に私が帯同したのがきっかけだ。
緻密な調査に裏付けされた「伊島CREW」で関係人口を呼び込むアイデアは大変良く練られており、その計画をより具現化するために「島民の人たちと一緒に島のミライについて考えよう」と呼びかけて実現したのが今回のサミットだ。大正大学地域構想研究所が(公財)離島センターと包括協定を結び、高校生アイランダーなどの支援を行なっていることも私を後押しした。

島の人たちの本音を引き出すには

サミットを前に、産業能率大学生3人と(株)東京久栄の担当と打合せを重ねて準備を進めた。大学生が島の人にヒアリングした結果では、「学校がなくなり子どもの声が聞こえなくなった・・このままだと無人島になってしまう」「歴史や伝統を守りたい」「島に新たな雇用ができれば、人が島に来てくれるのでは・・」など、多くの声が上がった。それらの意見を島の人たちが共有し、みんな集まって話せばもっとすごいアイデアが出るかもしれない。私たちの調査で浮かび上がった遊休施設の活用や多くの人に島に遊びに来てもらうプランを島の人はどう思うだろうか・・大学生たちはそんな期待を胸にワークショップ用のMAPを作成。その間、私も伊島人権コンサートに出演したり、島の神輿担ぎのボランティアに参加したりと不思議な縁が重なり、島の人との親近感も深まっていった。

サミットは大成功・・

果たして島の人は来てくれるのか・・漁師さんは寡黙な人が多い・・会話はつながるのか・・最初のアイスブレイクが勝負!?。今回、国・県・市の離島振興や漁業担当職員の方も参加してくれることになり、住民V S行政にならないような雰囲気づくりにも頭を悩ませた。そして迎えた当日、チラシを配布したり声をかけてくれた町会長、漁業組合長、島の人たちのおかげで、予想を超える約30人が集合。3つに分かれた各グループには、島の人に馴染みがある「ササユリ」「弁天島」「みしま」と名前をつけ、まさに家族のような島民の皆さんが席についた。

(当日のプログラム)
組合長・町会長あいさつ
趣旨説明
国・県・市職員の紹介
大学生の研究発表
・アイスブレイク
・学生の発表を聞いての感想
①伊島で好きな場所
②活用施設や場所をマーキング
(前半発表:学生+島の人)
③プロジェクトを考えよう
④自分ならできることは
⑤3つのプロジェクト発表
すぐやれる 中期的 長期的
(後半発表:学生+島の人)
⑥まとめ、次のステップへ

事前の心配をよそに、アイスブレイクでは各グループに散らばった3人の大学生が大活躍。島の好きな所、活用できる場所では、島の人しか知らない「秘密のスポット」が飛び交い、大いに盛り上がった。前後半の発表も、代表者と大学生が絶妙の掛け合いでわかりやすく説明。行政職員も話の輪に入って島の現状を語りあい、最後にはとても前向きな感想を語ってくれた。
その会議の全容を動画でご覧ください。(支局のスタッフが制作しました)
https://youtu.be/wAv_duSk-Sw

まとめ

伊島の人たちが現状を憂いながらも、海の豊かさや慣れ親しんだ土地や人のつながりを誇る気持ちがすごく伝わるサミットだった。そして、大学生が提案した「身近な本土(阿南市圏域10万人)の人たちに来てもらおう」という発想は大いに共感されたと感じる。馴染みのある阿南の企業に勤める人たちに家族ぐるみで来てもらうための、休憩・飲食スペースや体験メニューの必要性とアイデアが次々に出てきた。また、人を呼び込むことが新しい雇用を生み出し、漁業のブランド化にも効果があることも共有されていった。そして、このサミットで提案された短期プロジェクト第一弾が「イセエビ&大自然満喫ツアー(12/13・14)として実施されることとなり、阿南市内の大手企業にも呼びかけて広く参加者を募っている。今回の私流のファシリテーター、大学生や島の人たちのおかげで楽しく務めさせていただいた。続編が報告できるよう、今後も伊島のファンであり続けたい。

2025.12.15