アイランダー高校生サミットの挑戦(2)

著者
大正大学 DAC 特命教授
山本 繁

アイランダー高校生サミット2023開催の様子

「アイランダー高校生サミット2023」は、2023年12月9日・10日に行われ、2日間で北海道礼文島から沖縄県石垣島まで全国から17校延べ51名の高校生たちが参加し、活発な交流が繰り広げられた。

本サミットの理念は、全国の離島の高校生をオンラインで結び、それぞれの島が持つ可能性や、島同士で交流することの意味、価値などを議論することで、自分たちが住む島の活性化策についてアイデアを出し合い、地域創生につなげるとともに、参加者間の絆が生まれることを目指すものである。

今年のテーマは「思い合って、高め合って、日常に続いていく」。サミットの実行委員を務める高校生らが中心に発案したものである。

サミットでは、グループに分かれてワークを行い、最後日には各グループで話し合った内容を発表した。

あるグループは、離島の日常生活を表現した、「離島の生活を体験できるすごろく」を作成した。「近隣の人から魚をもらった 2マス進む」や「頼んだ荷物より高い送料 1回休み」などの離島ならではのイベントや、〝島あるある〟で構成され、島に住む人なら誰もが共感できる内容。他の参加者からは「面白そう」「商品化してほしい」などの声があがった。

離島の生活を体験できるすごろく

また、別のグループは離島の人口が著しく減少しているという点に焦点をしぼり、その課題を解決するための方法を提案した。島の魅力を再発見し、それを島外に発信していくことが重要だと考え、まずは島出身で、現在、島外に住んでいる人に、「島を離れてみて感じた魅力」といった声を集め、それらのエピソードをまとめ「私たちの愛land~離れて気づいた離島の魅力~」という冊子にして、島に住む人たちにも配りたいというアイデアである。エピソードの取材の仕方や、冊子作成の予算を集める方法など具体的な意見が飛び交った。

島のイメージを掲載した冊子のイメージ

サミットのプログラム作成や全般的な企画・運営は、実行委員が中心を担った。2023年の実行委員は、北から北海道奥尻高校の本郷夢果さんと平塚大輝さん、島根県立隠岐島前高校の五十島麟信さん、広島県立大崎海星高校の赤坂紗和子さん、沖縄県立泊高校の次呂久千華ジェイドさん、沖縄県立八重山高校の石垣鈴さんと、離島の高校出身の大正大学地域創生学部の4年生3人、菊地琉生さん、山口結衣さん、田中晴樹さんの計9人である

実行委員会のメンバーとサポートスタッフたち

実行委員長を務めた菊地さんは、「実行委員会のメンバーで4月から準備をはじめ、毎晩夜遅くまで会議をしてこともあります。本当にたくさんのことを考えてくれました。このサミットがうまくいったのも、このメンバーが頑張ってくれたおかげです」と、サミット後感謝の言葉を述べていた。

昨年のサミットにも参加し、今回は実行委員として運営を担った本郷さんは「まとめる側として参加して、今回みんなの手伝いをできたことがとてもうれしいです」と語った。

サミットのクロージングでは、日本離島センターの小島愛之助専務理事が「参加者の皆さんの盛り上がりに驚きました。アイランダー高校生サミットは来年も、もちろん再来年もやります。今回、参加して皆さんが感じたことをまわりの友達や下級生たちに伝え、来年はもっと盛り上がるように、しっかりとバトンを渡していってください!」と、次回に向けて参加した高校生たちに呼びかけた。

なお、これらの様子はアイランダー高校生サミット2023を紹介するVTRとして、既に一般に公開されている。視聴は成果発表などの様子が詳細に映っている15分版がおすすめである。

【15分版】
https://www.youtube.com/watch?v=MwCbeyvhVDQ

【5分版】
https://www.youtube.com/watch?v=5fW1w1GLHEk

サミットの意義

次に、サミット開催の意義を教育面と大学経営面の二つの観点で考察したい。

まず教育面では、第一に、参加した高校生が受けた新たな刺激がある。彼らのほとんどは、他の離島で暮らす同世代と交流した経験がまるでないという。今回のサミットを通じて、日本にはたくさんの有人離島があり、その島々でそれぞれが想いを持って暮らし学んでいる様子にリアルに触れられたことは、かけがいのない経験である。それは「他者への想像力」の一助になったり、他者を通じて得られる「自己の発見」につながったりするものである。

第二は、彼らが得たであろう「成功体験」がある。二日間のサミットに自ら応募・参加し、充実した時間を過ごせたことは、高校生にとって一つの大切な成功体験となり得る。学校行事以外でそのような経験をする高校生は、離島に限らず、全国でもまだ稀なことである。この体験は、彼らの今後の「行動力」を支える原体験のひとつになり得る。

まとめると、サミットの教育的意義は「他者への想像力」「自己の発見」「成功体験」、そして「行動力」ということになる。

加えて、実行委員の成長も本サミットの教育的意義と言える。むしろ大きく成長したのは実行委員の方である。紙面に限りがあるため詳しくは別の機会に譲るが、サミットの企画・運営を通じて格別に得られる資質・能力があるとすれば、それはアントレプレナーシップ(起業家精神)である。社会的な課題解決や価値創造を志向していることを踏まえれば、ソーシャル・アントレプレナーシップ(社会起業家精神)と言った方が適切かもしれない。今回、実行委員を務めた9人には、将来「コトを起こす人」になってほしい。

一方、大学経営面の意義では、第一に、本学の地域・離島への「まなざし」を広く発信できたことが挙げられる。2023年、本サミットはメディアで度々紹介された。朝日新聞や読売新聞(いずれも教育面)のような大メディアから、小さなウェブメディアまで。その数は優に100を超えた。

第二に、日本離島センターとの関係深化と、それによる今後の教育研究活動の一層の充実が挙げられる。本サミットは日本離島センターと本学との間で交わされた包括連携協定による第一号プロジェクトの位置づけとなっているが、やはり最初は手探りだった。サミット開催までのプロセス、そしてその成功によって、両者の間に確かな信頼関係が育ってきていると筆者は感じている。

離島に関心があるのは、離島の人たちだけではない。首都圏にも離島に魅力、あるいは縁を感じ、関心を持っている人たちがいる。離島をフィールドにした教育研究活動は、首都圏で暮らす人たちにも大きなポテンシャルを秘めており、その充実のための豊かな礎が築かれた年として、私はこの一年の活動は意義深かったと考える。真の人間関係ほどかけがいのないものはない。

本稿の読者にはご承知いただいているだろうが、本学は東京都豊島区に所在しつつも、離島に限らず、地方・地域に目を向け、都市と地方の共生を大切に考え、さまざまな活動を展開している。

「離島の高校生や大人が本学で学ぶ。本学の学生が離島で学ぶ。本学の教職員が離島で教育・研究・社会実装に従事する。そしてそれらが相互に好影響を与えている。」

そんな新しい未来も手の届きそうなところまで来ている感触がある。

益々日本中から人が集い、活気ある大学、すなわち「人と智のプラットフォーム」になっていければと願う。

2024.02.01