地域創生学部の地域実習

著者
大正大学地域創生学科 准教授
米崎 克彦

本稿では、大正大学地域創生学部地域創生学科の地域実習について、本年度のケースを利用し新型コロナ感染症の流行後の取り組みを紹介する。
本学科のカリキュラムの最大の特徴は地域実習である。1年生から3年生までの3年間、毎年第3クオーター(1年を4期に分けている。例年、第3クォータは、9月下旬から11月中旬までであり、本年度は、2023年9月25日から11月10日までであった。)におこなう。
地域実習Ⅰ(1年生)では、東京を舞台に地域創生学科の教員が用意したプログラムに参加する。プログラムはそれぞれ2週間で行われ、学生は前半と後半の2つのプログラムに参加する。
地域実習Ⅱ(2年生)ではグループを形成し、全国9地域(宮城県南三陸町、新潟県南魚沼市、静岡県藤枝市、島根県益田市、兵庫県淡路市、和歌山県御坊市、徳島県阿南市、愛媛県今治市、宮崎県延岡市、東京都)に滞在する。期間としては1年生同様2週間を1単位として、基本的には2か所に滞在する(一部の学生は、1か所で5週間滞在するパターンもある)。2年生の実習は現地講師を中心にして、共有したコンセプトの下でそれぞれの地域の特徴を踏まえ現地の地域創生に関するプログラムを体験しながら学ぶこととなる。
地域実習Ⅲ(3年生)では、各人の研究テーマにもとづく希望実習地を決定し、地域の受け入れ承諾と大学からの認可を得た上で実習に赴く。3年生の実習は、ゼミの教員と相談しながら、学生自身が研究テーマの設定をして、実習計画を立て、それを実行する。学生の数だけのプログラムが存在し、多くの学生は、4年次の卒業研究を見据えたうえでの活動となっている。
1年生および2年生において、地域創生に関する基本的な考え方や知識を増やし、実地調査において現場を知ることにより、知識が現場でどのようになっているのか理解する。また、現場において様々なアクター(行政、住民、企業、諸団体など)とかかわりあうことにより、様々な考え方や立場を知り問題を多面的に考えられるようにする。また、複数のプログラムを受けることによって、比較する視点を常に持つことを目的としている。3年生では、自分の問い・テーマを設定し、4年次での卒業研究を念頭に置いて研究活動を行う。個人で計画を立て行動することにより、学生本人の成長も期待している。

図:4年間の流れ(地域実習と卒業研究の関係)

 

次に、本年度の地域実習から実例を紹介する。地域実習Ⅰの私のプログラムは「東京一極集中はいいのか/悪いのか…」をテーマにしたものである。このプログラムでは、社会問題をどのようにとらえるのか、通説を鵜呑みにするのではなく、自分で考えてみる!ということをかかげて2週間行った。“東京一極集中”を様々な視点から調べ、議論することによって自分/グループでの考えをまとめた。
学生には、「東京一極集中とは、○○である。」と定義するところからスタートさせたが、個人の考えをグループで議論すると、様々な意見や見方があり、それをまとめることにも苦労することとなる。その原因は、議論の技術的な問題やそもそも知識や表現の仕方も足りないということもあるが、2週間という期間、同じメンバーで徹底的に議論することによって、学生自身も認識することとなる。そのため、自分自身の考えをまとめ、仲間を説得するためにもWebの世界、大学の図書館そして国立国会図書館での文献の検索を徹底した。次に、“何が問題なのか”、“いいのか/わるいのか”という価値判断をどのようにすべきかを議論し、最終的には何事にも光と影の2面あり、社会問題には一つの答えはなく、様々な見方があることを理解することを目的とした。

私のゼミは、都市におけるまちづくりをテーマに日々研究を進めている。そのため、本年度の地域実習Ⅲにおいて、ゼミ生の多くは、京都を実習地に選び、スマートシティ、都市防災、カフェとサードプレイス、景観問題など、様々なテーマで実習をおこなった。学生によっては、首都圏と京都の2か所を比較することで、それぞれの土地の特徴や政策比較を行い、自分のテーマのブラッシュアップをおこなった。日々、学生たちとはオンラインのゼミや日報などの報告のやり取りを通じて実習を実施した。

この形式での地域実習は本年度で2回目となった。しかし、新型コロナウイルス感染症の5類移行後として、2019年以降久々の制限のない実習となった。以前、筆者はコロナ下でのオンラインでの取り組みを紹介したが、本年度の実習が終わり学生の報告などを聞くことにより、実際の体験をする実習の効果を改めて感じている。

2023.12.15