2020年の緊急事態宣言から約3年。未知なるウィルスに手探りの状態が続いたが徐々に日常を取り戻しつつある。この年に高校に入学した生徒たちは2004(平成16)年に生まれた子供たちで、小学校入学した年が東日本大震災という世代だ。コロナ禍でこれまで経験したことのない環境下で、苦難に満ちた3年間を過ごした彼らは、2023年4月に新入生として本学に入学してきた。
第1Qの「新共生論」の授業で1年生に「afterコロナにおける社会の変化と求められる人材」というテーマで講義をした。新型コロナ感染拡大で世の中の仕組みや価値観の変化、今後社会から求められる人材について話をした。授業では高校を卒業してまだ3か月、苦しい中でも頑張ってきた高校時代を振り返ってもらい、グループディスカッションで「コロナで多くの制限を受けた高校時代に自ら行動したり工夫したこと」を話し合い発表してもらった。
印象に残った発表をご紹介しよう。
●地元の温泉に観光客がこなくなり、街に元気がなくなってきたので、何とか集客につなげようと友達と協力してSNSで観光PR活動を行った
●対人が苦手なタイプなので、6月の学校が始まるまでの間にオンラインでコミュニケーションを取るようにして練習して登校に備えた
●クラス全員のLINEグループをつくり、授業のノートをPDF化して、先生からの指導コメントを授業に出席できないクラスメイトに共有した
●自由な時間ができたので、同じ趣味を持つ仲間たちとSNSでグループを作って情報交換 できるようにした
彼らの送った高校生活は入学式・部活動・修学旅行・体育祭・文化祭などさまざまな行事が中止または縮小となり、常にコロナとの共生を余儀なくされたものだった。しかし普段の生活を奪われた中、スマホを使いSNSなどデジタルのコミュニケーションツールを活用して、仲間たちと連絡を取り、様々な対策やアイデアを出し合って地域社会への貢献やお互いに支え合いながら高校生活を過ごしてきた。
一方で、現在の4年生が本学に入学した年も同じタイミングだ。待ちにまったキャンパスライフだったが、入学と感染拡大が重なり、入学式は中止となり授業は完全にオンライン、学外での体験や実習、行事はことごとく取りやめになった。オンライン授業続きだったことから地方から入学してきた新入生は友達ができず精神的に辛い日々を過ごした。アパートを引き払って、泣く泣く実家に戻った学生や、アルバイトができないことから経済的に非常に苦しい状態に置かれた学生もいた。また、夏休みを利用しての海外留学や学外での活動も、行動制限があることから実現できない状況となり、対面授業が再開されるまでは、学年や学部の枠を超えた仲間づくりの主要な場となるサークルや部活動も大きく制限された。高校時代から描いてきた夢や希望、目標を持って入学してきた大学生活はほぼ3年間行動制限の中だった。
コロナ禍の3年間が学生たちの生き方に及ぼした影響は大きい。学生たちはコロナの逆境を跳ね返して、自分で風を起こす努力をしてきた学生もいた。なかでも、地域創生を学び授業やプロジェクトで関りを持った学生の事例をいくつかご紹介しよう。
●地域での実習が中止となったため、オンラインで授業を受けながら、地方に移り住んで地域課題に取り組む活動をした。
●休学して長期インターシップで地方の企業活動を通して実践的に学んだ。
●ふるさとワーキングホリデーの制度を利用して一定期間地方に滞在し地域住民との交流や学びを通して地域の暮らしを体感し地域貢献した。
●休学して地方の地域おこし協力隊員になって自治体と連携して地域活性化の活動をして、将来の起業を目指した。
●SNSでコミュニティをつくり継続的なボランティア活動をした。
●オンラインマルシェを開催しコロナ前の地域実習でお世話になった生産者さんを支援した。
コロナ感染拡大の影響を受け、学生生活のあり方が一変した中で、学生たちはSNSやオンラインでの情報を巧みに収集し、自らの判断で社会との関係性を生み出し、自身の興味関心領域や研究テーマとも関連づけて将来を見据えてチャレンジしている。オンライン授業で学生同士や教員とのリアルなつながりは希薄になったものの、web上にある様々な情報の中から有益なものをチョイスし、個人でつながるSNSのネットワークやコミュニティから自身の思考や成し遂げようとする目標に合った情報を入手して行動を起こしている。そして得た情報や体験した価値は仲間たちに拡散・共有され、新たなつながりを形成しているのである。
さて、コロナは緊急事態宣言の外出自粛の中で在宅勤務が余儀なくされ、働き方にも大きな変化をもたらした。ひとつはテレワークが導入され、業務が対面と在宅ワークとの組み合わせが定着しつつあること。もうひとつは副業・兼業解禁が加速してきたことである。リモートワーク・テレワークの導入やオンライン化が推進されたことで、通勤や移動時間が激減し、可処分時間が大幅に増加した。この変化によって、二拠点居住やコワーキングスペースやワーケーション施設を利用した新しい働き方のスタイルが定着しつつある。
上述した学生のようにオンラインで授業を受け、学外で自己の成長につながる地域活動に参画するように、仕事社会においても所属会社以外のネットワークでつながり能力を活かして別のフィールドで活動する人も増加しつつある。これからの社会環境は、個での活動領域が拡大し、既存の枠組みや組織の境界を越えて、ますます共創的に価値創造する関係性がつくりだされていく時代になってきている。
Z世代の大学生たちは社会がデジタル化に向かう中で重要な世代といっていい。彼らが生まれた頃には、既にデジタル環境は整備され、誰でもネットにアクセスして情報を入手できる社会になっていた。小学生になった時代にはスマホの世帯普及率は50%を超えている。そして、2004年Facebook、2006年Twitter、2007年YouTube、2011年LINE、2014年Instagram、2017年TikTokと次々と新しいツールが登場、彼らは様々なSNSの進化とともに生きてきた、いわばSNSネイティブである。この世代は世界的にみると人口の1/3を占めるそうだが、彼らはこれからのデジタル社会や消費を中心的に担うプレーヤーたちであり、これからの社会を牽引する存在である。
最後に、学生たちは制約の多い学内での授業や活動の場ではなく、SNS上などで多様な人と出会いながらネットワークやコミュニティを形成して、自分の未来に向けて学び挑戦し続けている。これからの大学教育はコロナ禍で大きく変化した時代の潮流を踏まえて、学内の授業を通しての学びと、地域や社会とつながった実践的学びや経験を関連付けて教育する仕組みが必要になっている。変化の激しい時代に未来人材を育成するためのヒントは学生たちから導きだすことができるのではないだろうか。