著者
大正大学地域構想研究所 特命講師
齋藤知明
第11回鴨台盆踊り大成功!?
2021年7月17日(土)、第11回鴨台盆踊りが昨年に引き続きオンラインで開催されました。
今年は「ハイブリッド」ということで、大正大学構内で限られた学生と地域の方々のみ会場に集まって踊り、その様子をZoomとYouTube Liveを使ってオンラインで流しました。大学構内の会場は、昨年建ったばかりの新8号館のラーニングコモンズ。「サービスラーニング」や「地域課題解決実践論」を履修する学生が、会場中心の祭壇を櫓に見立てて円になって踊りました。もちろん会場内での密を防ぐために踊り手を20名に限定。一方でZoomを用いて、大阪・枚方のスターダスト河内や東京・中野のケアマネ音頭普及会など全国各地の団体や個人とつながって、現状でできうる限りのニューノーマルな盆踊りを実施しました。
Zoom参加は116名、当日のYouTube Live視聴回数は868回、現地参加者は裏方含めて約120名。千人を超える方々に楽しんでいただけた第11回鴨台盆踊りは、大きなトラブルもなく成功裡のまま終えることができました。その様子は、アーカイブ動画にてご覧になれます。
と、ここまでとても順調だったように書きましたが、本番に至るまでの道はまったくそうではありませんでした。本稿では、このような内容での実施に至った紆余曲折をお伝えするとともに、コロナ禍2年目における大学のフィールドワークでの活動がどのような展開を見せたのかをシリーズで紹介します。
先に結論から言いますと、これまで運営してきたなかで最も大変だったの一言です。(筆者は第6回から担当)ただし、今思い返せば、学生らとともに情況を読みながら重大な判断を繰り返せたことは、教育プログラムとして大変貴重な機会でもありました。誰もが答えや正解をもっていないなか、新たな価値を創造できたという自負を共有できたことが今回の大きな成果です。とはいえ、その緩急が激しかった顛末について、ふりかえりながらお話ししたいと思います。
ハイブリッドでの鴨台盆踊り
ニューノーマルな地域イベントの模索
昨年、全国に先駆けての大学発オンラインイベントとして第10回鴨台盆踊りを実施しました。このときは、日本全体がコロナ禍で大変なときだからこそ、ステイホームでもできる楽しみを社会に提供したいという強い使命感をもって運営することができました。また、翌年には前年同様に実地で盆踊りを開催できるだろうという楽観的な考えから、今年だけはこの形で頑張ろうという熱意も全員が共有していたと思います( 第10回鴨台盆踊りについてはこちら)。
しかし、コロナの猛威は昨年以上となりました。感染拡大の流れは、止まることを知りません。一方で、全国的な流れとして大学は昨年のオンライン中心から対面中心への授業運営へと踏み切ります。大正大学も春学期当初は、原則対面の授業運営となりました。そのような世情もあって、今年の鴨台盆踊りはニューノーマルな地域イベントの模索も兼ねて、感染症対策を徹底し櫓を立てて少人数でも踊れる盆踊り開催に向けて動き出すことに。さらに、昨年の経験から、オンラインで各会場をつないでの新しい形の交流を図りました。
また、コロナ禍でありながら実地でおこなう盆踊りに対して、「なぜこの時期に?」と少しでも疑問をもたれないように、周囲からの賛同を得ることが必要不可欠であると考えました。そのためには、明確な理念とストーリーを掲げることが重要です。コロナ禍において新しい地域イベントを模索し、社会へ発信するという教育的目的ももちろんありましたが、今回の開催にあたり3つの視点から開催の必要性を提示しました。
その3つとは、「地域連携」「非日常感」「原点回帰」です。第一の「地域連携」は、巣鴨地蔵通り商店街が所有する伝統の木組みの櫓をお借りし、大学構内で建てることで、大学と地域との連携の象徴にしたいと考えました。第二の「非日常感」は、コロナの影響で行動や生活様式が制限されているなか、盆踊りをおこなうことで浴衣を着る非日常な機会を提供し、少しでも大学生らしい思い出を残してほしい点を打ち出しました。第三の「原点回帰」は、このようなときだからこそ死者供養という盆踊りの意義を伝えるとともに、鴨台盆踊りを始めた契機である東日本大震災犠牲者の追悼行事に力をいれました。それと同時に、実は鴨台盆踊りのルーツは1919年まで遡ることがわかりました。大正大学の前身である宗教大学の学生らが始めた盆踊り「霊祭」は、スペイン風邪が流行している時期に開催された歴史をもちます。その原点にも立ち返ることを強調しました。
構内の会場と第11回鴨台盆踊りポスター(両面)
ビジョンの共有ができない!
鴨台盆踊りは例年、学部学科学年横断型の授業で運営されます。今年も「サービスラーニング」「地域課題解決実践論」という授業で展開。履修した学生に上記で示したようなビジョンとともに、今年こそは規模が小さくでも実地での開催を目指すと伝えました。今年に入ってからは首都圏でもイベントや集会などが規模を縮小しながら再開され、しっかりとガイドラインにしたがって活動すれば問題ないとの感触を得ていました。また、ワクチン接種の開始やオリンピック開催への機運の高まりから、徐々にコロナとうまく付き合いながら日常に戻していくという雰囲気が醸成されつつありました。
しかし、4月にいざ授業が始まってすぐに3回目の緊急事態宣言が発出。ここから少しずつ方向転換が必要となりました。ただ、この時点での修正は想定済みでした。コロナ禍でのフィールドワークは、しっかりと社会情勢を読み、いかなる情況へも対応することが求められます。これまでコロナの影響で中止・延期となったイベントは数知れません。ですが、このような情況でもできることは何かを常に考えて実践することが最も重要と考え行動してきました。
一方で、授業が再開された5月から、学生らとのビジョンの共有が少しずつ困難になってきました。最大の理由はハイブリッド授業です。昨年の「サービスラーニング」は全員がオンラインでの授業履修でしたが、今年は5月から対面とオンラインとが組み合わさってのハイブリッドで展開。可能な限り対面で授業を受ける機会を提供した大学側の対応には賛意を示しつつも、目の前にいる学生と同じように画面越しの学生にビジョンを伝え、準備に関する指示をするのは本当に苦労しました。
また、繰り返し企画内容も見直し、その都度学生らと共有していくことも難儀でした。昨年オンライン盆踊りを実施したことで、結果的に実地での盆踊り運営の経験がない学生ばかりとなりました(実地経験者の多くは卒業)。そのため、ハイブリッドと言っても実地でどのような準備をすればよいのかイメージをもたせられなかったことも原因でしょう。この点は、それを考慮できなかった筆者の大責任です。
実際にオンライン一本で運営すると決めた昨年の方が授業が始まってからの変更が少なく、円滑に準備を進められたことは事実です。このように4月5月とすでに艱難辛苦な情況が続きましたが、6月7月に入りさらに難しい判断を迫られました。
初回授業は全員対面での参加だった
中編に続く