著者
大正大学地域構想研究所 特命講師
齋藤知明
地域創生のピンチ?
東京・巣鴨にある大正大学は、創立90周年となる2016年に地域創生学部を創設しました。この学部は、経済学・経営学的な観点から地域の課題解決と価値の発見・発信の実践を理念に掲げています。最大の特徴は、1、2、3年次の第3クオーター(9月〜11月)に実施される「地域実習」です。約40日間の実習ですが、1、3年次は大正大学の連携自治体を中心としながら各地域に長期滞在しながら地域の課題や魅力を学びます。また、2年次は東京実習として1年次に地域で学んだことを東京の事例と比較した上で、問題の本質を抽象的・俯瞰的に検討し将来の地域創生を考えます。
しかし、このコロナ禍において実習のあり方自体が根底から揺らぎます。人の移動や交流が必須である地域実習は果たして実施すべきかと。そこで今年は、学生の感染と地方への拡散を防ぐために、地方に滞在する予定だった地域実習はオンラインでの実施となりました。また、東京実習も準備段階はすべてオンライン、実習期間はオンラインと対面のハイブリッドでの運用で進められています(大正大学は秋学期・第3クオーター以降、漸次的に大学構内の開放と対面授業を再開)。
新型コロナによって、これまでの地域創生学部が実施してきた学びや実践に大きな制限が課されました。しかしながら、この条件下だからこそ可能な地域創生の取り組みがあるはずと考え、オンライン環境を活用した実習を各学年で進めてきました。ピンチをチャンスに! これを今年度の共通理念として展開しています。
授業や実習準備は全てオンラインで実施
マーケットを「東京」から「全国」へ
筆者が担当する東京実習も、先述の通りオンラインでの取り組みとなりました。東京実習は、1年次に各地方で実習をしていた学生が一堂に会します。つまり、様々な地域の情報や知識が、大正大学のキャンパスに集うとことを意味します。これを活かして例年、東京で生活をしている方々をターゲットに、地域の特産品や魅力を伝えるためのフェアを開催していました。
今年は対面販売のフェアができないばかりか、学生がキャンパスに集まることも困難な状況でした。そこで、オンライン上でも各地域の情報や知識が集積される環境を「東京」と定義し、オンラインでの特産品販売をする東京実習を展開することにしました(東京のコミュニティ問題への調査・研究に従事するチームと分担)。
新型コロナの影響により、県をまたぐ移動やイベントの制限、行動の自粛等が続き、地域の経済は現在進行形で大きな打撃を受けています。実際に、観光客の減少により公共交通機関や宿泊施設の利用者は減少しており、観光や旅行に関連するサービス業では売り上げが大きく落ちています。そのような状況下でも実習でお世話になった地域へ恩返しをしたいと思い、学生たちと実習を進めてきました。
学生たちは7月8月と夏休みも返上して、自宅にいながら慣れないオンラインツールを使って何度も自主的に集まり、地域の生産者や事業者と電話やメールを駆使して連絡を取り合いながら、商品販売の準備を進めました。9月10月の実習期間を経て、10月23日に大手クラウドファンディングサイト「READYFOR」上で「オンラインマルシェ ウェブde応援 with C」をオープン(CはCheer応援、Coronaコロナ、Chiiki地域の頭文字)。「大学生が15地域にBuy返し!」をキャッチコピーとして、11月24日までオンラインマルシェを開催しています。
今回、クラウドファンディングを利用することで、マーケットの範囲がこれまでの「東京」から「全国」へと大幅に拡大されたことになります。そのため、「地域魅力の全国発信」「各地域の関係人口の拡大」「生産者・事業者に対する新規顧客の獲得」が可能となったのです。おそらく例年の環境であれば思いつきませんでしたが、コロナ禍だからこその発想と挑戦になりました。
オンラインマルシェのポスター
初日に108万円の支援額!
昨年の地域実習で学生が感銘を受けた特産品を、全15地域、各5,000円(税込)、限定各50セットの商品として準備しました。3か月半の準備を経て、10月23日に緊張のサイトオープン。初日の支援額によって今後の支援額が大きく変わります。そのため学生たちは、SNS発信、大学広報課との打ち合わせ、各地方自治体への協力要請、ステークホルダーへの呼びかけ等、地道なプロモーションを継続しておこなってきました。
その甲斐あって、初日で第一目標金額として設定していた35万円を大きく上回る108万円の支援をいただきました。初日に100万円を超えるプロジェクトは稀少ということで、みなさまがたの支援に大変励まされました。そして、引き続き時機に合ったプロモーションを展開し、完売まで精一杯活動していきたいと思います。
READYFORでのプロジェクトページ
ピンチをチャンスに
さて、このように現在も進行中の実習とその取り組みについて話してきましたが、最も重要なことは、今回の取り組みが学生にとっても地域にとっても何につながるかという点です。私たちは、地域の特産品を売ること自体を目的としたわけではありません。もちろん、その点も地域の経済効果につながる重要な側面です。
しかし、特筆すべきは、地理的・経済的制限を超えて、都市の学生と地方の方々がつながった点です。そして、今回の取り組みの波及範囲は東京だけでなく全国へと広がりました。学生にとっては、オンラインだからこそ全国でのマーケットが可能となりました。今後は、今回の取り組みを分析していく予定ですが、切り口を変えることで多くの情報の取得が見込めると感じています。
また、徐々に感染症の情況に対応していくなかで、大学のみが小中高の学校や他領域と比べて最後まで(現在でも)オンラインでの対応を迫られている側面があります。これは他方で、現在の大学生はオンラインへの親和性が高くなったとも言えます。大学生が期せずして備えたオンラインという「インフラ」を今後どのように活用していくか。地域にとっても大きな契機となる予感がします。
地域課題を発想の転換でいかに魅力に変えていくかが地域創生を志す上では必要なマインドです。コロナ禍からの克服に向けて、誰かしらが答えを持っているわけではありません。このような時代を生き抜くためには、自分たちで答えを創る意識で試行錯誤する姿勢が求められていると強く実感します。