7月中旬、高校改革の展望を伝える記事が紙面を飾った。「普通科再編」「学際融合科や地域探究科を設置」「スクール・ミッション」と聞けば、思い出す方も多いに相違ない。近年、新しい大学入学者選抜制度への移行をはじめ、高校に関わる改革の動きは急速に進行しているので、高校関係者にとっても、一般市民にとっても、おそらく「また何か始まったのか」という程度の印象しかないかもしれない。しかしここには、高校教育の枠を越え、地域の未来を創り出していく上で見逃してはならないアプローチが語られている。そんな視点をもって、「なぜ今、普通科再編やスクールミッションなのか?」を読み進めていただけると幸いである。
今日、周囲を見渡してみると、既存の常識に縛られている地域と、未来にむけて着実に歩みを進めている地域がある。両者を分けるポイントは簡単だ。
前者にみられる共通の傾向は、組織が縦割り細分化され、各者が「担当外は関心外」という意識や態度をもっている点だ。この場合、できあがる計画は「一人あるいは一部の部署が収集・考案した断片的な方法をパッチワーク的に貼り合わせただけ」であり、まず間違いなく機能しない。それは、そもそも精度が低い上、役割を与えられても、各々の現場を担う者には消化も腹落ちも難しいからだ。つまり、断片化された組織や個人には未来を見通す力や創り出す力はなく、誰もが「見えない未来へ通じる道」ではなく「歩き慣れた道」を選ぶ。その典型例が「偏差値のために幼少時から塾に通わせる」選択という訳だ。
対照的に、組織や個人が「協力しあって乗り越えていこう」と、立場を越えて共に学び、共に創り出していこうという関係性を構築できたところでは、未来をより鮮明に見通すことができ、どんな地域にするために、どのように役割を果たしあっていけばよいか、自然に浮かび上がる。
こうした文脈で、高校が多様なセクターとともに「20~30年後はどんな社会になるのか」「地域をどうしていくのか」「そのためにどんな人材を育成していくのか」「そのためにどのように役割を果たしあっていけばよいのか」を探り、それをふまえて「自校は社会の未来に対してどんな使命を果たしていくのか」を明確化する。それが「スクール・ミッション」だ。また、地域や高校の多様性に応じて、描きうる未来はもちろん、高校が果たすべき使命も多様性をもつので、その具現化に必要な教育課程にも多様性が求められるのは当然だ。となれば、教育課程を柔軟に編成・実施できるよう、制度の弾力化が求められる。実は、この方向で制度を改正し、これまで画一的だった普通科を多様化していく参考例として示されたのが「学際融合科」や「地域探究科」という訳だ。
今回ご紹介したのは高校からみた光景だが、この構図は医療・福祉・環境・防災・産業をはじめ、どの分野でも同じである。ということは、多様なセクターが越境して共学共創することで、はじめて未来の全体像が浮かび、各機関・各部署の計画が妥当性をもち、チーム性も参画性も高まるがゆえ実現性も高くなる、という展開を期待できる訳だ。
こうした観点から注目すべき自治体は、岐阜県飛騨市だろう。同市は昨年度より、保育園・小中学校・高校・保護者・地域等が連携して人づくりを進める「飛騨市学園構想」を進めている。通常、多様なセクターが集う検討委員会では、事務局が案を作って各関係者に説明し、意見を聞いて反映する手続がとられがちだ。しかしこの事業では、始めに教育長が「事務局は答を持っていない」と明言し、多様な顔ぶれが対話を通して「なぜ学園構想なのか」「何をめざすのか」「何が課題なのか」「誰がどう役割を果たしていけばよいのか」を探究するプロセスが採用された。その結果、各委員の参画性や検討委員会のチーム性が回を追うごとに高まってきたという。
ご参考までに、同市では「新型コロナウイルス対策本部会議」が既に70回ほど開催されているが、出席者によれば「各担当者が順々に報告する場」ではなく「知恵を生み出す場」として運営されているという。すなわち、学園構想と共通する基調であることから、「未来を創り出す」とは何かを掘り下げる上で、示唆に富む事例だということができよう。
以上、本稿では高校改革を切り口に、そして飛騨市学園構想と照らし合わせる形で「地域の未来をどのように創り出していけばよいか」を記してきた。お気づきかと思うが、「担当外は関心外」を是とする役所の体質は、過去には常識として許容されてきたかもしれないが、地域の未来に照らすと、今や非常識以外の何者でもない。「常識で考える」のをやめ、「常識を考える」ことで未来を創り出していく。そんな地域が増えることを願ってやまない。
【参考】
■中央教育審議会 初等中等教育分科会 新しい時代の高等学校教育の在り方ワーキンググループ
新時代に対応した高等学校教育の在り方(これまでの議論を踏まえた論点整理)
新しい時代の高等学校教育の在り方ワーキンググループ(第11回)配布資料