学び合いコミュニティを通じて人材育成と企業とのマッチングを進める「藤枝未来型人材育成プロジェクト」

著者
大正大学地域構想研究所 地域支局研究員
天野浩史

狩猟社会から始まり、農耕社会、工業社会、情報社会という変化をたどってきた日本社会。今では、幼い頃からスマートフォンなどの情報デバイスに触れるのが当たり前となり、ビジネスでもメール、クラウド、グループウェアの利用、情報セキュリティに対する意識などは、必須のスキルとなりました。そして、2016年には第5期科学技術計画で、次世代の未来社会像として「超スマート社会:Society5.0」がはじめて提示され、ICT、AI、ロボットなどのテクノロジーが、より一層私たちの生活に浸透する未来を予感させました。一方で、テクノロジーの進化が進むにつれ、専門家ではない生活者がどのように活用していくのか、リテラシーやスキルを学習していくのかが問われています。

私が支局の拠点としている静岡県藤枝市は、全国的にも先駆的なICTを活用したまちづくりを推進する自治体です。2017年には株式会社ソフトバンクと提携し、国内初のIoT専用の通信基盤ネットワークを構築し、鳥獣害被害の防止や農業管理の社会実験に取り組んだり、市内の全小学校・中学校にPapperを導入し教育支援に活用したりと、様々な領域でICTの活用を進めています。また、民間事業者や大学などが参画し組織される「藤枝ICTコンソーシアム」をハブにしながら、民間事業者によるICT導入や産学官連携も活発に行われ、仕事を発注したい企業と受注したい個人をつなぐ「藤枝くらシェア」によるマッチングサービスや、新型コロナウイルス感染拡大によって打撃を受けた飲食店を支える「テイクアウト予約システム」の提供など、公共事業から民間事業まで幅広く展開し、冒頭の「Society5.0」の到来を見越したまちづくりを進めているといえます。

様々な政策・事業が進むなか、今年度は藤枝ICTコンソーシアム主催事業として「藤枝未来型人材育成プロジェクト」が立ち上がり、株式会社サンロフト(藤枝ICTコンソーシアム会員企業)が事務局となり、ICTのスキルや能力を高め、仕事をしたい求職者に学びの機会を提供し、人材を求める企業とのマッチングを進めるプロジェクトが今夏からスタートしました。人材育成機会と就業機会提供をしつつ、「共感」を中心に据えて進める、全国的にも珍しいプロジェクトです。

地域構想研究所藤枝支局としても、本プロジェクトに共感し、支局研究員である私も、講座講師、受講生のフォローアップという立場で参画しています。

本プロジェクトでは、受講生は無料で参画ができ、基礎コース(必修)と選択コース(マーケティング/業務系)で構成される様々な講座コンテンツをオンラインで受講してスキルを学んでいきます。そして、スキルを身につけ、受講生に企業へのマッチング機会を提供していく、という流れですが、この間、オンラインツールなどを用いて、受講生同士や人材を求める企業とのコミュニケーションを深めることができ、学習コミュニティの中で互いを知り合い、エンゲージメントし合う環境もデザインされています。この環境デザインがあることが、「共感」を中心に据える本プロジェクト最大の特徴といえるのかもしれません。ICT領域の企業活動では、スキルベースでのマッチングが多いなかで、求職者一人一人に対する理解や、求めている企業側の理念や風土、社員の思考への理解を深めるプロセスを設計し、従来の就業機会提供とは異なり、時間をかけたコミュニケーションプロセスです。そこで醸成された共感を土台に、人材・企業のマッチングへと発展させていくことを目標としている点が、本プロジェクトが掲げる「藤枝未来型」というキーワードを表しているといえるでしょう。

 

 

8月から講座が始まり、多数の方が受講している様子をみると、本プロジェクトへの期待の高まりを感じます。受講生の方々どのように学び合っていくのか。私も学び合いコミュニティの一人として、受講生の皆様と伴走して参ります。引き続き、本プロジェクトを中心に、藤枝でのICTと地方創生の動向を、全国の皆様にお届けしていきたいと思います。

2020.09.01