地域回帰しやすいまちの条件とは何か(前編)

著者
大正大学地域構想研究所 特命講師
齋藤 知明

著者
大正大学地域構想研究所 特命講師
齋藤知明

17年ぶりの帰還

いきなりですが、個人的な話から。

筆者は大正大学で教鞭をとる傍ら、昨年から家業(寺院)を手伝うべく山形県酒田市に生活の拠点を移しました。酒田市民になったのは高校を卒業して以来17年ぶりでした。なぜ帰ったかというと、僧侶としての活動をしつつ、フットワークが軽い30代のうちから何か地元に貢献したかったという思いがあったからです。

地方では久しく人口減少や過疎化が大きな問題となっています。酒田市も例外ではありません。酒田市の現在の人口は10万人近くですが、15年後には2割が減少するとの試算もあります。そこで、大学教育に携わっていて、かつ大正大学でサービスラーニングや地域創生学部の地域実習などのプロジェクト型授業を中心に担ってきた筆者が、このまちに対してどのような貢献ができるのかと考えました。そこで出た答えの一つが、大学生のインターンシップでした。

今回から2回シリーズで、この取り組みについてお伝えします。

酒田市は山、海、川が揃う日本海側の地方都市で、古くから港町として栄えた

インターンを通じたまちづくり

大学生のインターンシップというと大都市圏では普通のことかもしれませんが、大学が無い、あるいは少ない地方都市や小規模な自治体においては、実は浸透していないのが現状です。プロジェクト型授業を経験して分かったことの一つとして、まちにとって大学生の存在は非常に大きな活力となる点があげられます。特に、事業を始める際のブースト効果は計り知れないと感じたこともありました。つまり、まちの活性化において何かしらのきっかけをつくるのに大学生はうってつけなのです。

筆者が住むまちの大人たちは口々にこう言います。「高校生の進学先のほとんどが県外の大学で、卒業後は地元に帰ってこない」「まちに魅力がないから若者が帰ってこないんだ」と。一方で酒田出身で県外に進学した若者からは「酒田に帰ってきたい」「酒田で就職したい」という声を聞くこともざらです。しかし、「親に仕事がないからそちらで就職しなさいと言われた」「酒田に帰ってもすることがないと思う」などとの悲観的な話もよく聞きます。

ここに強いミスマッチを感じました。大人は帰ってきてほしい、若者も帰ってきたい。しかし大人は「若者は帰ってこないもの」と思っている。若者も「帰っても仕事がないもの」と思っている。この認識のすれ違いを解消する手段が、大学生のインターンではないかと考えました。

いま、全国で大学生のさまざまなインターン事業が展開されています。地方企業の課題解決のために都市の大学生が長期休暇を利用して地方に長期インターンに行く例も珍しくなくなりました。しかしながら、筆者は若者のUターンを促進する手段としてインターンが有効ではないかと考えます。つまり、一企業の課題解決としてではなく、自治体単位で地域回帰を促すことを目的としたインターンです。

酒田市のメインロード・中通り商店街もシャッターが目立つ

若者が帰ってきたいと思う条件とは

なぜインターンが地域回帰に有効なのでしょうか。ここから少し経験談になります。

筆者は、先述した地域実習で、宮城県南三陸町に学生を40日間以上引率しています。実習で学生たちは、地域の大人たちと膝をつき合わせて議論をし、そして共に汗を流しながら事業を進めるなど、教室の授業では得られない経験をします。大学生といえども普段は、親や教師、あるいはバイトの上司などの上下関係でしか大人と接点がないのが大抵ではないでしょうか。それが、長い間、上下関係のないフラットな関係性で大人と接することになります。地域の大人たちは温かい眼差しを持ちながらも学生たちを「大人」として扱ってくれます。

後に、この関係性こそが地域回帰に重要だと気づかされました。多くの学生が、実習が終わった後に何度も地域の大人に会いにその実習地に通います。実習で大人たちと濃い関係性を築いたことを背景として、ここでは自分が認められている、地域のコミュニティから許されているとの安心感を持っているからこそ、実習地に「回帰」するのだと考えます。

この感情を得るためには、親や教師などの近しい存在ではなく、今まで出会ったことのない数多くの大人との関わりが必要でしょう。その関わりを得る絶好の期間が大学生であり、絶好の機会がインターンです。よって、地元の若者が地元に帰ってきたいという風土をつくるためには、地元企業が地元出身学生をまずはインターンとして受け入れる態勢をつくることが先決ではないかとの仮説に至ります。そこで、筆者は「大学生KAERUプロジェクト」という名称のインターン事業を実践することにしました。

様々な大人と対等に意見を交わすことが実習の醍醐味である

(次号に続く)

2020.05.15