政府の報告書から景気の現状と地域経済を考える

景気の動きは企業の収益に関わり、働いている人々の賃金やボーナス、就職などにも影響する。当然、地域経済にも反映される。

景気には公式の日付がある。つまり「景気の山は何年の何月」「景気の谷は何年の何月」ということが決まっているのである。この日付の谷から山の間が景気の上昇期、山から谷の間が下降期となる。公式日付によれば、2012年11月が景気の谷(底)となっている。ということは、日本経済は2012年末以降、一貫して景気上昇期(つまり景気は良い)にある。

著者:大正大学地域創生学部教授 小峰隆夫

現在の景気上昇期は6年以上。戦後最長クラスの景気拡大に

現在の景気上昇期は既に6年以上となり、歴史的に見ても相当に良い。景気の日付は1年程度経過しないと確定しないので、仮定の話となるが、今の景気拡大が2019年の1月まで続いたとすると、戦後最長の景気拡大になる。ただし、2018年後半から、景気の先行きがやや怪しくなっている。トランプ米大統領の保護主義によって、米国と中国との間で関税引き上げ合戦が展開され、これが世界経済に悪影響を及ぼし、日本の輸出も減速しているからだ。

大方のエコノミストは、景気はまだ緩やかに拡大中という認識が優勢だが、既に日本の景気は後退局面に入っていると指摘するエコノミストも現れている。私自身も景気の先行きは、相当怪しいと考えている。

国は、こうした景気の現状をどう評価しているのか。政府(内閣府)は「月例経済報告」の中で毎月、景気の現状を評価している。8月の報告では「景気は輸出を中心に弱さが続いているものの、緩やかに回復している」となっている。前述のように、2018年後半から世界貿易が低迷し始め、それが日本の輸出にマイナスの影響を及ぼしつつも、全体として景気は緩やかに上昇している、というのが政府の認識である。

では、地域別に見るとどうなるのか。これについても政府は「地域経済動向」を四半期に一度のペースで公表している。これは、全国を12地域に区分して、それぞれの地域ごとの経済の動きをまとめている。そしてこれにも"判断文"が付き、それを読むことによって、地域ごとの景気情勢の違いを知ることができる。

上の表は、2019年5月と8月の地域別の景況判断を見たものである。この表から2つの見方ができる。一つは、地域別の景気情勢のレベルを比較すること。これは、8月時点での判断を比較すればよい。

全国で最も景気がいい「着実に回復」(第1グループ)は沖縄で、観光を中心に経済が好転していると思われる。第2グループ「緩やかに回復」は、東海、中国、九州だ。長い景気上昇の中で、輸出を中心に生産が増加してきたからであろう。第3グループ「一部に弱さが見られるものの回復」が、北海道、北関東、南関東、甲信越、北陸、近畿、四国だ。この判断は国全体の判断とほぼ同じだから、第3グループ地域は全国平均並みの経済情勢だと考えられる。

第4グループ「弱さが見られるものの回復」が東北で、全国の中でも立ち遅れ気味であることがわかる。輸出、観光等、今回の景気上昇を支えてきた要因がうまく作用していないかもしれない。

経済の第一線で活躍している「景気ウオッチャー調査」

そしてもう一つは、景気情勢の変化の方向を見ることだ。これは、5月と8月の判断文を比較すればよい。表の中の矢印は景気判断の変化の方向を示したもので、下向きは「判断の悪化」、横向きは「判断据え置き」、上向きは「判断の好転」を意味している。今回の結果では、北海道と九州が下向き、中国と四国が上向きとなっている。

さらに政府は「景気ウオッチャー調査」も行っている。これは、故堺屋太一氏が、経済企画庁長官時代に指示してつくり始めたものだ。全国で経済の第一線で活躍している一般人(タクシー運転手、小売店主、ホテルのフロント、人材派遣会社など)約2000人を対象として「景気ウオッチャー」になってもらい、毎月電話で景気の現状と先行き判断を聞くというものである。

中でも興味深いのが、コメント部分。例えば、2019年7月、8月調査では、「韓国からの旅行者減少により、来館者数が減少している」(中国地方の観光名所)や「天候不順の影響で夏物衣料の売れ行きが落ち込んでいる」(各地の衣料専門店)、「タピオカ専門店などSNS映えする店がヒットしている」(東北の商店街)、「輸出が減少しているためか、有効求人数が3月から減少傾向にある」(甲信越の職業安定所)、「中国向け部品の一部に米中貿易摩擦による数量の減少が出てきている」(近畿の金属製品製造業)といった声が聞かれる。

10月に消費税が8%から10%へと増税された。今後、消費の落ち込みが加速していくのか、「景気ウオッチャー」をはじめ、地域経済の景気動向を注意深く見ていく必要がある。

 

 

2019.11.01