「人口減少下の地域を考える」というタイトルを見ると「自治体消滅論」を思い浮かべる人が多いかもしれない。では、本当に自治体は消滅するのだろうか。
「自治体消滅論」の議論は、2014年(平成26)5月に、増田寛也氏を中心とする「日本創生会議」が発表したレポートから始まった。このレポートでは、新たな地域別の人口推計に基づいて、2040年までに20~39歳の女性が半減する自治体を「消滅可能性都市」とした。この年齢層の女性が大幅に減少すると、出生率をいくら高めても、人口減少は止まらなくなってしまうからである。
同推計によると、全国1800市町村のうち約半数の896市町村がこれに該当するとされている。さらに、同レポートでは人口が1万人を切る自治体は特に消滅の危険が高いとしており、523の自治体が該当するとしている。
同レポートでは、これら消滅可能性都市の実名を明らかにしたため、名指しされた自治体では大騒ぎになり、地域における人口減少問題への危機感が一気に高まった。
地域はそんなに簡単には消滅しない。消滅自治体論の正しい受け止め方
この消滅自治体論に刺激され、各地域が人口問題に危機感を持つようになり、自らの地域の将来を真剣に考えはじめたことは大変結構なことだと思う。しかし、次のような点にも留意が必要だ。
第1に、誤解してオーバーに受け止める例が見られる。例えば、当時の朝日新聞が、このレポートについての増田氏のインタビュー記事を掲載(2014年8月13日付朝刊)したのだが、私が驚いたのはそのリードだ。
「全国約1800自治体のうち896市町村が2040年までに消滅するかもしれない︱。(中略)『日本創生会議』がこうした試算をまとめた」となっている。だが、実のところ誰もそんなことは言っていない。増田氏らのグループは、2040年までの人口を展望した上で、多くの自治体がやがて消滅の可能性があるということを示したのであって、2040年までに多くの自治体が消滅するわけではない。私はこの記事を見て「なるほどこういう伝言ゲームが繰り返されて、自治体消滅論が加速して行くのだな」と改めて感心したり、恐ろしくなったりしたものだ。
第2に、地域の無人化を議論するのであれば、自治体単位ではなく、もっと細かい単位で議論する必要があるだろうし、そういう議論は既に行われている。例えば、2014年7月に公表された、国土審議会「国土のグランドデザイン2050」では、次のように述べている。
「我が国の約38万㎢の国土を縦横1㎞のメッシュで分割すると、現在、そのうち約18万メッシュ(約18万㎢)に人が居住していることになるが、2050年には、このうち6割の地域で人口が半減以下になり、さらにその3分の1(全体の約2割)では人が住まなくなると推計される」
しかし、それが「自治体の消滅」になるわけではない。同報告では、次のようにも述べている。「現状のまま推移すれば、急激な人口減少とその地域的な偏在は避けられない。しかし、前述の1㎞メッシュの人口推計によれば、多くの地域で人口が減少する中においても、旧町役場.支所や、小学校などがある中心集落では、一定程度の人口が維持される可能性がある」
地域はそんなに簡単には消滅しないのだ。
人口が減り、高齢化が進んでも、存続する村落がほとんど
では、本当に消滅する集落というのはどの程度存在するのだろうか。これを調べたのが、国土交通省の「過疎地域等条件不利地域における集落の現況把握調査」(2016年9月発表)である。これは全国の条件不利地域(過疎、山村、離島半島、豪雪地帯などの関係法で指定されている地域)1028の市町村を調べたものだ。その結果は次の通りである。
①条件不利地域には、7万5662の集落が存在する。それら集落の人口の合計は1538万人(全人口の12.1%)、世帯数は638万世帯(全世帯数11.9%)である。
②これら集落では高齢化が進んでおり、高齢者(65歳以上)比率が50%を超える集落は20.6%、集落住民全員が高齢者という集落も801(1.1%)ある。さらに、後期高齢者(75歳以上)比率が50%を超える集落も4.6%あり、全員が後期高齢者という集落も306(0.4%)ある。
③所属する市町村の担当者が、「今後10年以内に無居住化の可能性がある」と答えた集落は570(0.8%)、「いずれ無居住化する可能性がある」と答えた集落は3044(4.0%)である(下記表参照)。
④前回調査(2010年4月)時点で存在していた集落(6万4805集落)のうち、無居住化した集落は174集落(0.3%)である。
⑤前回調査で「10年以内に無居住化の可能性がある」とされていた452集落のうち、この5年間で実際に無居住化したのは41集落(9.1%)であり、大部分は現在も存続している。
この調査を見る限りでは、集落単位で見ても、本当に人がいなくなる地域はそれ程増えているわけではない。むしろ人口が減り、高齢化が進んでも存続し続けている村落がほとんどである。
消滅可能性を議論するのであれば、われわれは少なくとも、集落単位での議論を行っていく必要がありそうだ。